復刻版

坂田美穂著


 

1992年9月、当時東京で働いていたわたしは、10日間の休暇を取り、モンゴルを目指した。その時の出会いや経験は非常に濃密で忘れがたいものばかりだった。旅の途中につけていた日記をもとに、その年の冬のボーナスで自費出版したのが「モンゴル旅日記」だ。刷った500部は、友人、知人に配った。

当時、20代後半だった私は、ひたすら仕事の毎日で、生活の中で精神的なゆとりを持つ余裕がほとんどなかった。しかしながら、この旅ではずいぶんと気持ちが洗われる体験をした。今、手元にわずか一冊残ったこの本をもとに、ここで再び誕生させようと思う。

未熟な表現も散見されるが、ほぼ、そのままの形で転載している。

(注)以下に紹介する旅日記は、モンゴルが旧ソビエト連邦から独立して間もない1992年当時のものであり、現在ではさまざまな面において状況が変わっていることと思います。ご理解のうえ、お読みください。

 
 

Mongolian Travel Album

旅行中に撮影した写真を掲載しています。旅日記と併せてご覧ください。


はじめに

「見渡す限りの地平線の、荒野に立ちたい」

これが、夏休みの旅行をモンゴルに決めた理由でした。飛行機を使わずに、わざわざ列車で北京から出発したのも、ひとつひとつの風景をゆっくりとかみしめながら、荒野に、草原に、砂漠に身をたゆたえていきたいと思ったからです。そんな異国の旅行者の身勝手な感傷を、モンゴルという国は諸手を広げて迎えてくれました。それと同時に、時代の流れの中で、経済的困難にあえいでいる、苦悩の素顔も見せてくれました。

 旅をするにあたり、モンゴルに関する知識といえば、はずかしいくらいにささやかで、こんな旅日記を残すことになろうとは、想像もしていませんでした。この旅のすべては、「出会い」です。ひとりで旅をしたことで、たくさんの人々に助けられ、モンゴルの現実を教えられました。短い間の出会いの数々が、心に焼き付いて、いつまでも熱く、ここに在ります。

 日本からとても近い場所にあるモンゴルという国に、ひとりでもたくさんの方が、興味を持ってくださったなら、とても幸せです。

 


1. 旅は北京から始まった

2. 国際列車での出会い / 果てしない黄昏

3. 夜、国境の駅で / 列車の中で迎える朝 / 初めてのヒツジ料理 / たどり着けないウランバートル

4. 草原に浮かぶ都市 / さまよいの果ての夕食 / 救世主、タイワンバヤル

5. タイワンバヤルのプロフィール / タイワンバヤルの話 / 札束の山 / 注文のできない料理店

6. 南ゴビ砂漠へ / ゲルの夜 ロウソクの灯りのもとで / ウランバートル空港事件

7. 多国籍4人旅のはじまり/ 砂漠のまっただ中へ / 束の間の旅仲間のこと /ゴビお決まりのツアーへ

8. 遊牧民が暮らすゲルを訪問 / 生まれて初めてラクダに乗る

9. タイワンバヤルの話、再び / 紀元前から変わらぬ暮らしの中で

10. 飛ばなかった飛行機 / さらさら砂の丘へ / 久しぶりに見る自分の顔 / ヒツジの解体を見学

11. 国際親善の夕べ / 史上最高の飛行機酔い / シャワーの悲劇

12. 中田氏との出会い / 時田氏、押見氏、永田氏との出会い

13. アルガランタ村へ / ゲルのおばあちゃんの歓待 / 村長さんの親戚のゲルへ

14. ジャーナリストのおじいさんとの出会い / ヒツジの解体、再び

15. 馬乳酒飲みジャンケン大会 / 強烈なもてなしの料理 / アルガランタ村をあとに

16. ウランバートル唯一のデパートへ / 酒井田くんとの出会い /モンゴルの食べ物

17. モンゴルの時代を担う若者たち / 終わらないウランバートル・ナイト / ソドノムさんとザハへ

18. サーカスの夜 / 星空に抱かれて / おわりに

 


Back