11月11日(木)
■ホテル移動の午前中。再び繁華街へ。
見る限りではわからない、舌先でほのかに違和感を察知する程度の欠け方だけれど、気になる。まったく、あのおいしいクロワッサンにはやられた。と思いながらのチェックアウト。今夜の滞在先であるタージ・ゲートウェイホテルまでタクシーを飛ばす。
さて、南インドでは今日が、北インドでは明日が、新年を祝う光の祭り「ディワリ」らしい。それぞれが、出身地の慣習に基づいて、集い、食べて飲んでの宴を広げ、花火やらクラッカーを楽しむらしい。ここ南インドでは今夜が本番のようだが、スジャータ宅では明日、パーティーが開かれる。ニューデリーからはロメイシュと、それから義兄ラグバンの両親もバンガロール入りしているようだ。
埃っぽい市街のただ中のホテルで、タクシーは止まった。すでに三度目の宿泊とあって、ホテルのスタッフとも顔なじみ。
"Welcome back, Mrs. Malhan!"
名乗らずとも声をかけてくれ、チェックインにはまだ早い時間にもかかわらず、手際よく部屋の手配をしてくれる。リーラ・パレスに比べると、余りにも味気ないビジネス系のホテルだけれど、なじみの顔があるというだけでほっとするから不思議。
部屋で荷物を下ろした後、ランチを食べに外へ出た。旅のはじめに訪れたショッピングモールにあるレストランを選ぶ。そこで不思議なヌードルを食べて満腹。それから書店でインド関係の書籍を数冊購入。夫にも役に立ちそうなビジネス関連の書籍なども選ぶ。
モールの中はディワリのショッピング客でいっぱいだ。ディワリの折には、人々はプレゼントを贈り合うだけでなく、自分たちの衣服などもまた新調するという。新聞の記事によれば、ディワリ前に最も売れる商品はサリーなどの絹製品や貴金属などが上位だとのことだった。
人混みを縫うようにして、モールの中の、上階から下階までをゆっくりと見学。最上階はスーパーマーケットになっていて、食料品や日用品が揃っている。
「自分がインドに住むことになったとき」を想定しながら、家電に衣類、文具に雑貨、さまざまを、品質や値段とともに確認しながら歩く。テレビも、冷蔵庫も、洗濯機も、アメリカのそれとよく似た商品が並んでいる。キッチン用家電コーナーには日本製の電気釜もある。
米国では、日本製の電気釜の、保温機能などがない、昭和40年代を彷彿とさせる非常に古いタイプのものが今なお販売されているが(わたしも渡米当初は愛用していた)、ここインドにもそれと同様、懐かしい形の電気釜があった。
そもそも、我々夫婦の暮らしの中にはあまり「ややこしい」ものはない。一番ややこしいのはコンピュータくらいで、あとは何かとシンプルだ。「絶対にこれだけは手放せない」というものも、思いめぐらせばあまりない。そう思うと、どこに住むのも問題ないな、と思える。
■ラルの謎が解けた。そして日暮れ時は、カフェで文章を綴る
3泊4日、籠の鳥状態で、ホテルの中をうろうろしていた反動からか、埃っぽくて汚いにも関わらず、街を歩きたい。時折ハンカチで鼻や口を覆いながら、それでもうろうろと、ブリゲイド・ロード界隈を歩く。
ホテル周辺を歩いていたら、オートリクショーのドライバーらに声をかけられる。土産物店のカタログを示しながら、
「ショッピングにお連れしますよ! 1時間で10ルピー!」
1時間で10ルピー。前回の旅で出会ったラルのことを思い出した。やっぱり、彼も当然ながら、案内した土産物店からコミッションをもらっていたのだろう。そりゃそうだよなあ。と、ちょっと安心する。それにしたって、ラルの手際のよさは、
今までここを歩いたときには一度も声をかけられなかったけれど、今回の旅では数人のドライバーから「1時間で10ルピー」と声をかけられた。それだけ、ビジネスマンを含めた旅行者が増えているということだろう。
バンガロールにはこれといった観光地がないし、自分で散策できるような街でもない。要領よく土産物を見つけて早々に買い物をすませたいと思っている多忙なビジネス客にとっては、少々胡散臭いとはいえ、彼らのようなドライバーは意外に便利なのではなかろうか。
新しくできた書店で本を広げる。雑誌を広げる。インド版のCosmoporitanなどファッション誌や、主婦向けの雑誌House
Keepingなど、装丁や雰囲気は欧米版と変わりないのに、当然ながら中身はインド的なファッションや食習慣などが登場して、そのコントラストが面白い。
そうこうしているうちに、あっと言う間に時間が過ぎていく。ホテルに戻り、iBookを携えて、再び外に出る。一通り、商店街のショーウインドーを眺めたのち、いつものバリスタカフェでカフェラテを頼む。そして、商店街を眺める外のテーブルに座り、コンピュータに向かう。
この旅日記を、できるだけ旅の滞在中に書きあげておこうと、写真を整理しながら、書き進める。書いても書いても、旅の間は次々に日付が変わり、体験も重なり、いっこう終わりに近づかず、なんだかいたちごっこのような状況だ。いったい何項目書くことになるのだろう。
仕事でもないのに、わたしはどうして、ホームページに載せるための文章を書くことに、夢中になっているのだろうと、薄暗くなり始めた空を見上げながら思う。旅のジャーナルを、ノートに書き綴るに飽きたらず。
街路にはいつもよりたくさんの光が灯り、遠くから爆竹の響きが聞こえてきた。
いろいろ考えず、とにかく、書きたいのなら書こう、書けるときに。
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