■今回の旅のハイライト、ビーチリゾート、ゴア3泊4日の旅へ
「いくらインドに行くからって、ずっと家族と過ごすわけじゃないから。できるだけ自由行動ができるようにするよ」
旅の前に、確かにそう言っていたA男。そんな言葉を信じた私も、思えば愚か者だ。たかだか半年前に、苦悩の「1カ月同居」を経験したはずだったのに、喉元過ぎれば熱さ忘れるにもほどがある。
ニューデリーでは結局、ほぼ毎日、長時間、A男家族と密着であった。だからこそ、家族から解放される3泊4日のこのゴア旅行こそが、真に、久しぶりの、私にとっての「バケーション」なのである。
いつものように起床後、ヨガをやり、朝食をとり、10時半頃、空港へ向かう。空港へ向かうのは私たちだけではない。ロメイシュとウマもまた、同じ時刻の、ボンベイ行きの便に乗る。
彼らは3泊4日、ボンベイの友人宅を訪れたあと、スジャータとラグバンの住むバンガロールで我々と合流することになっているのだ。
そもそも、私たちが旅の計画を立てたとき、まさかバンガロールにまでロメイシュたちがやってくるとは思っていなかった。
だから、その事実を知ったときには、最早ぐうの音も出なかった。
そういうわけで、ともかく大切な、これから3泊4日のゴアなのである。
ゴアへはエア・サハラという国内線を利用する。便は1時間近く出発が遅れたものの、約3時間、快適な旅であった。何より感動したのは、機内食のおいしさである。
私はベジタリアン、A男はノンベジタリアンを頼んでみたが、わたしの料理はダル(豆のカレー)とカッテージチーズ(豆腐のような見た目。サイコロ状)のカレーがライスの両側に盛り付けられたもの、A男はダルとチキンカレーだった。
付け合わせの野菜も新鮮で、ロティも非常にいける。ちなみにインドのトマトやタマネギ、そしてライムはとてもおいしいのだ。
さらに感動したのが、食後に出されたアイスクリームのおいしさ。バスキン・ロビンズの「ハニー・ナッツ・クラッシュ」。牛乳がいいせいか、濃厚でクリーミーで、カロリーが高そうだけどともかくおいしい。中のナッツも香ばしくて、これまたおいしい。
機内食でこんなに感動するのは滅多にないことである。まあ、そもそも期待していなかった上に空腹だったせいもあろうが、おいしかった。
ちなみに、インドの国内線は、物価に比して料金が非常に高い。先進国並みの値段なので、これくらいのサービスは当然と言えば当然かもしれない。
加えて言えば、外国人は更にインド人よりも高い料金を払わねばならない。しかし、今回の旅を通して言えば、その割高率は一定ではなく、路線によって値段が異なっていた。
飛行機に乗る予算のない人たちは、もっぱら国内は長距離列車での移動らしいが、猛烈に時間がかかるようだ。
もちろん車でも移動できるが、ハイウエイが整っているわけでもなく、これまた時間がかかるようだ。
機内ではインドの新聞を読んだり英語旅日記を書いたりしていた。昨日、A男が人と会ったあと、わたしたちは自分たちの少し遠い将来について、軽く話し合った。そのことを軽く日記に書いた。
最後の行に、「私の人生は、大海に浮かぶ小舟のようである」と、ありきたりな表現ではあるが本音を綴った。それを読んだA男。
「あ! またミホがポエムなこと書いてる! カワイイ!」
その軽薄でお門違いな反応にむっとする。私はA男と付き合い始めた当初、ちょいと魔が差して「詩的なラブレター」を贈ったことがある。まだA男の「人となり」をよくしらなかったからこその愚行とも言えよう。
その印象が強かったようで、私がたまに、情緒のある表現をすると、「ミホはポエム!」とか「歌舞伎!(感情を誇張しているからか?)」などと言って「笑う」のである。悲しいものである。
■なんて爽やかな南国の風! ヤシの木が揺れる。夕日が沈む。
ゴアは、インドの南西部にある海辺の地。1510年のポルトガルの艦隊に占領されて以来、ポルトガルの東方進出の拠点として栄えてきた場所だ。
黄金のゴアと呼ばれてきたこの地は、インドが英国から独立したあともポルトガルの統治下にあり、1961年になってようやくインドに返還された。
私がここを訪れたかったのは、ビーチでリゾート気分を満喫したかったからだけではない。それであれば、紺碧の海が広がるカリブ海に行った方がいいかもしれない。
私は植民地時代の面影が残るゴアという街のたたずまいを、どうしても見ておきたかった。以前から、コロニアル文化の持つ独特の雰囲気が好きだった上、ポルトガルもまた、心に深く刻まれた、旅先の一つだからだ。このことを書き始めると長くなるので、ここでは割愛する。
さて、ゴアに到着したのは午後4時頃。ホテルのリムジンバスに乗り込み、リゾートまで更に1時間のドライブだ。
車窓から、南国の、ヤシの木が連なる田園風景を眺める。人、牛、犬。人、牛、犬……。
うとうととしているうちに、ホテルに到着した。滞在先は、インドのタージ(TAJ)グループのホテル、「フォート・アグアダ・ビーチリゾート」である。
バスを降り、ホテルに入るやいなや、自ずと頬がほころび、笑顔になる。
暑くもなく、寒くもなく、湿度もほどよく、なんともいえず心地の良い風があたりを包んでいる。なんだか無性にうれしくなる。
ロビーでチェックインをしている間、スタッフが冷たいおしぼりとマンゴージュースを持ってきてくれる。ジュースを飲みながら、バルコニーに出てあたりを見回す。
プール、ヤシの木、そしてアラビア海。海は予想していたとおり、透き通るような美しい海ではないけれど、海で泳いだりシュノーケリングをしたいわけではないからいいのだ。
私は、こんなふうに、空気と風が気持ちいい、そしてその土地の生活の匂いが身近に感じられる、味わいのある海辺に来たかったのだ。
部屋で荷物をほどき、服を着替えて、夕暮れの海を散歩する。部屋にはウェルカムフルーツ(小さなバナナとリンゴなど)とポートワイン、カシューナッツが用意されていた。
ポルトガルに統治されていたこの地では、ポートワインを生産しているのだ。カシューナッツもまたゴアの特産物だという。
一息ついたあと、部屋を出て、海辺やフォート(城塞)のあたりを散歩する。ポルトガルが1600年初期に建造したレンガ色の城塞が、現在も残っているのだ。
アラビア海に沈むオレンジ色の太陽を眺めながら、のんびりと海辺を歩く。丘の上に、素朴な十字架の塔がある。地元で働いているのであろう青年たちが、友達と語らいながら、のんびりと時を過ごしている。
牛が歩いている。犬も歩いている。
太陽が沈んでしまうのを見届けたあと、ホテルに戻り、オープンエアのレストランで夕食をとることにした。
まずはインドに来て以来、毎晩ように飲んでいるインドのビール、キングフィッシャーで乾杯。エビのカレーとレッドスナッパー(赤鯛)のグリルをオーダーする。
ギター弾きの青年が歌う、耳慣れたラブソングを聴きながら、なんて風が気持ちよく、そしてビールがおいしいんだろう。
料理の前に出されたパンに、ひどく感動する。3種類の小さな「ゴア風」のパンなのだが、いずれも今まで食べたことのない味ばかり。
まさにポルトガルとインドのパンが融合している、といった様子だ。
特に、ピザのようなパイのようなナンのような、ペイストリー風の生地の上に、チーズと甘みのあるトマトソースが載っているものがなんとも言えずおいしくて、そればかりを食べてしまいそうになる。
エビのカレーは、トロリと濃厚で、甘みのある味付け。これがゴアのスタイルなのだろうか。レッドスナッパーは身を切り分けず、丸ごと出してくれと頼んでおいたので、こんがりとした姿焼きがテーブルに届いた。
ほどよくスパイスでマリネされたグリルは、味付けが控えめで魚そのものの味わいを堪能できる。
それにしても、スタッフのサービスの良さに心を打たれる。教育が行き届いているのか、それとも真にホスピタリティがあるのか。米国生活に慣れ、不愛想で失敬なサービスに慣れている身としては「サー」とか、「マダム」とか丁寧に呼ばれるだけでも心がなごむ。交わす笑顔が親密。アジアね……。
身も心も満たされて、外に出る。空を見上げれば、見える見える、無数の星が!
オリオン座が、こちらを見ていた。
明日は、ゴアの古い町を巡る。楽しみだ。