「最初はお茶とスナックだけを出していたんですが、それでは利益が上がらないことがわかったので、半年後には朝食、昼食、夕食と料理を出すことにしました。メニューは主にコンチネンタル。周囲やカスタマーの声を聞きながら、自分で考案してきました。なにしろ決めるのは自分だから、変更はどんどんやっています。この3年間で、実は4回もメニューを変えているんです」

お茶を引き立てるための料理を考案することは、難しいが同時に楽しい仕事でもある。ダージリンでよく食べられているモモは、この店の人気メニューに育った。

新しい時代の、新しいビジネスを始めるのに、マーケティングリサーチは必要ない。実践し、試行錯誤しながらやっていくのが自分に合っていると言い切るガウラヴ。それは一族のバックアップがあってこそできる冒険だとも思えるが、実際、infiniteaは、着実に業績を上げている。

「この店をオープンして8カ月後には収支が均等になりました。あのときは、本当にうれしかったです。それからは、少しずつ利益率が上がっています」

今のところ、利益率は25〜30%。利益率の上昇に伴い、彼は新たな試みを始めている。たとえば茶葉やティーバッグの製造、販売。ティーバッグは、茶葉がきれいに開くよう、インド初のナイロン製を採用した。これも「インド初」の試みだ。

消費者の立場から見れば、パッケージなどに再考の余地ありと思われるが、これもまた、試行錯誤を経て変遷していくのだろう。

来年には、やはりインドで初めての、「ボトル入りティー」を発売する予定だ。また、年末から来年にかけては、コルカタに2軒、バンガロールのインディラナガールに1軒、infiniteaをオープンする予定でもある。

「まだまだこの仕事を始めたばかりで、先のヴィジョンは明確に描けていませんが、今、ダイナミックなうねりを見せているインド市場の中で、確実にブランドを定着させるつもりなんです。そのうち道筋が見えてくるでしょう」

インドの人たちに、本当においしい紅茶の味を知ってほしいと、ガウラヴは切望する。ダストティーを紅茶だと信じて、小さなカップにミルクをたっぷ入れ、更には砂糖を、スプーンが立つほどに入れる。それもまた、インドならではのチャイの楽しみではあろうが、しかし、真なる茶葉の味を広めたい。

Infiniteaのメニューには、茶の飲み方も記されている。良質の茶葉の箇所には、「ミルクと砂糖を入れずにお飲みください」とアンダーライン入りで記されているのだ。

「僕は、このinfiniteaを、インド版のスターバックスのように育て上げるのが夢なんです。そして、いつかは、ニューヨークに進出したい。マンハッタンに店を開きたいんです」

今年から、米国の大学を卒業したばかりの妹も、infiniteaのビジネスに参入、コルカタ店開店に向けての準備をしている。彼らには、年齢やキャリアを凌駕したパワーが迸っているようだ。

「僕は、殊更、父親にビジネスを学んだ経験はないけれど、子供のころ、ときどき父のオフィスを訪れては、仕事をしている様子を眺めていました。あるとき、僕は父に尋ねたんです。毎日毎日、同じようなことをやってて、退屈しないの?って。すると父はにっこりと笑いながら言ったんですよ。自分の好きなことを仕事にしたら、毎日がホリデイなんだよ、って。あの一言は、僕に大きな影響を与えました」

茶に関わる仕事をはじめて、今、これが自分にとてもよく合っていると実感している。だから、毎日が充実しているし、やりがいもある。

ところで1カ月前に結婚したばかりだという彼、実はインタヴューの翌日から不在の理由は、新婚旅行でイタリアへ行くからなのだとか。そのあとコルカタに戻り、新規店舗の準備に専念するとのこと。途中に来客が在り、とぎれとぎれの短いインタヴューではあったが、彼の熱意を十分に感じ取ることができた。

マンハッタンの摩天楼のふもとに "infinitea"の看板が掲げられているのを思い描きながら、再び喧噪のカニンガムロードを歩き、家路に就いた。

※インドに於ける「茶の歴史」に興味がある方は、ぜひこちらをご覧ください。

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