[Introduction]

2005年11月、バンガロールへ移住し、住まいとなるアパートメントをカニンガムロード沿いに見つけた我々夫婦は、大家と最終契約をする前に、界隈を散策することにした。

カニンガムロードは、交通量が非常に多く、排気ガスの立ちこめる劣悪な環境だが、それは同時に繁華街であることを意味し、飲食店やオフィスビル、銀行、病院、商店やモールなどが立ち並んでいる。

ほんの数十メートル歩いただけで、精神的に疲労困憊した我々は、ちょうど目の前に見つけたinfiniteaというティールームに入ることにした。目の前、といえど、交通量の多い通りを横切るのは簡単ではなく、怒濤のように流れ去るバスやバイクやオートリクショーの合間を縫って、対岸にたどり着いたのだった。

店に入り、中二階のテーブルに席を取る。インドにしては珍しく、高級茶葉の種類が記されたメニューだ。インドは紅茶産出国でありながら、そのほとんどが輸出向けで、国内で質のいいお茶を口にする機会は非常に少ない。だから、その茶種の充実ぶりに、感銘を受けたのだった。

メニューには、チベット風の餃子「モモ」もある。紅茶とモモの組み合わせはユニークだ。どんなものだろうかと、一皿を注文することにした。

と、我々の傍らに青いTシャツを着た青年が立ち、「いらっしゃいませ」と挨拶をする。聞けば彼は、この店のオーナーだという。彼の父親はコルカタで茶の貿易を、叔父はダージリンで茶農園を経営しているらしい。そして彼は、「良質の紅茶を出すインドで初めてのティールーム」を、このバンガロールに開いたとのこと。

夫は彼の話に興味を持ち、売り上げや利益率など、込み入ったことまであれこれと話題にのせ、しばらくの間、話をしていた。

さて先日、久しぶりに、今度はわたし一人でinfiniteaを訪れ、ダージリンティーを頼み、モモを注文した。テーブルに届いたモモの写真を撮っていたら、"May I help you?" といいながら、例のオーナーがやってきた。メニューを食い入るように見ていたかと思えば、急に写真を撮り出したりするものだから、ちょっと気になったのかもしれない。

彼はわたしのことを覚えてはいなかったので、改めて挨拶を交わし、少々の世間話などをする。そのうち、彼をインタヴューしたいと閃いた。

わたしはライターで、プライヴェートのホームページを持っている。先日より、インド人インタヴューの連載記事を書き始めた。ついては、あなたをインタヴューさせてもらえないだろうか。そう切り出すと、彼は迷いなく快諾してくれた。

とはいえ、彼は明日から長期不在で、バンガロールに戻るのは1カ月以上あとだという。わたしは後日の取材でも構わなかったのだが、むしろ彼が積極的だった。今日、これから所用があるけれど、20分ほど待ってくれるなら、その後30分ほど時間が取れるという。20分待ちではすまないであろうことは覚悟の上で、待つことにした。

さて、ようやく1時間後。

「待たせてごめんなさい」

と言いながら、彼は慌ただしく現れて、わたしの向かいの椅子に座った。

「気にしないで。こちらこそ、忙しいときに時間をいただいて……どうもありがとう。」

わたしは冷たくなった紅茶を一口、飲んだあと、インタヴューをはじめた。

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