CHIPPING CAMPDEN, COTSWOLDS/ APRIL 14, 2005

4月14日(1)マナーハウスで目覚める朝。英国式ブレックファストを味わい、庭を散策

目覚めるなり見やる窓の向こう。白い雲間から、藍色の空がのぞいている。今日は天気予報でも晴れると言っていたから、この2泊3日でいちばん、いい天気になるに違いない。

今日もまたたっぷりと歩くことになるだろうからと、湯船に浸かって身体を伸ばす。一足遅れで目を覚ました夫が身支度をしている間、わたしは外に出る。ひんやりとした、朝の瑞々しく澄んだ空気に包まれる。朝露に濡れた緑が一段とまばゆい。

夕べは真っ暗で何も見えなかったから、今、このマナーハウスの全容を確認する。マナーハウスとは、中世時代の荘園領主の館のことで、古くから由緒ある家柄の人たちが暮らしてきた。彼らは英国の伝統的な生活文化を受け継ぎながら館を守ってきた。

英国内には、宿泊施設として改築された築数百年のマナーハウスが各地に点在しており、わたしたちが滞在しているこのCHARINGWORTH MANOR(チャリングワース・マナー)もその一つである。このマナーハウスの歴史は1086年に遡り、建物そのものも700年の歳月を刻んでいるという。

米国では、古くても築100年、200年だけれど、欧州に来ると、毎度のことながら、その過去と現在が密接に関わりながら、日常生活に溶けこんでいる様子を目の当たりにさせられる。

時代の波に乗って次々と新しきを導入する反面、頑ななまでに、古くから続いている文化を守ろうとする熱意や誇り。「古き姿」は、訪れる者に強い興味や関心を与える。それは「新しき姿」からは得られない、あるいは新しい姿から得られるのとは全く異質の、揺るぎない畏敬の念を覚えさせる。

マナーハウスには、いくつかのラウンジがあり、バーがあり、ダイニングルームがある。旅人は「領主に招かれた客」の気分で、ゆっくりとくつろぐのである。マナーハウスでは夕食も供しており、本来ならばここで夕食を味わい、ラウンジで食後酒でも飲みながら語り合うというのが理想的な過ごし方だろう。

何百年にも亘って守られてきた田園風景、庭園の美、建築物、家具調度品、食文化、もてなしの心……。英国の伝統の一端を、ここでは身を以て感じることができるのである。

わたしたちは短時間にあちこち巡ろうという今回の旅であったから、そのようなゆったりとした時間の使い方をできなかったけれど、できることなら居心地のいいマナーハウスを拠点に、1週間ほどじっくり滞在して、コッツォルズという地の魅力を味わうのが理想的なのかもしれない。


朝食は典型的なイングリッシュ・ブレックファスト。まずはブッフェからフルーツやヨーグルト、シリアルなどを軽く。それから「温かい食事」が出される。卵料理に豆の煮込み、マッシュルームやトマト、ポテトのグリル、分厚いロースのベーコンにソーセージ、ブラック・プディング(穀物に豚の血や脂身を混ぜたソーセージ)……。キッパー(ニシンの燻製)もまた、英国朝食の定番だ。もちろん全部を試せるのだが、それでは食べ過ぎなので、いくつかを選んで注文する。

わたしが注文した朝食。ブラック・プディングの上にポーチドエッグ。トマトとマッシュルーム、ポテトのグリル、それにポークソーセージ。朝からブラック・プディングはどうだろうか、と思ったが、意外においしい。ソーセージも少々塩分が強いがいい味わい。夫の注文したベーコンも味見した。厚みのある良質のハムをグリルした感じ。いずれも心のこもった丁寧な味。

いくつかあるラウンジの一つ。ここもまた、太くてがっしりとした梁が印象的。寒いときには暖炉に火が入り、暖かな雰囲気に包まれる。

マナーハウスの敷地内にある牧草地。ここは羊の赤ちゃんがいっぱいいた。

ここでも羊に角砂糖を与えようと試みる夫だったが、やはり逃げられるばかりであった。

彼方に見えているのがマナーハウスの入り口。

これが公道から見えるホテルの看板。

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