CHIPPING CAMPDEN, COTSWOLDS/ APRIL 13, 2005

4月13日(5) 夕映えに染まるハチミツ色の町、チッピン・カムデンでディナー

バイブリーを出ることには、すでに太陽は傾き始めていた。今夜の宿は、チッピン・カムデンのはずれにあるマナーハウスに予約を入れている。従って夕食は、チッピン・カムデンの町でとることにした。

実は夫が、「昨日のラム肉をもう一度食べたいから、ストウ・オン・ザ・ウォルドに行きたい!」と、もう何度もしつこく繰り返していたのだが、二日続けて同じ店に行くのはいやだし、食後にまた長距離を運転するのもいやだし、ラム肉ばっかり食べるのもいやだと、却下したのだった。

夕暮れの日差しが、雨に濡れた道路を照らしているその中を、走る。彼方にうっすらと、虹のかけらが見える。大地に光と影の陰影が浮き彫りになり、神々しいほどの気配を放っている。

やがて彼方に、「本当に」黄金色に輝く町並みが見えてきた。ハチミツ色の石でできた町は、夕暮れどき、「本当に」ハチミツのような、琥珀のような色を呈して、きらめいているのである。どうしたもんだというくらいに、美しい光景である。

チッピン・カムデンには10年前も訪れた。このときは、町の中心部から歩いて30分ほどのマナーハウスに泊まった。夕暮れの町を抜け、牧草地を横切り、宿まで歩いたことを思い出す。あのときは、宿のレストランで、一人静かに夕食を食べたのだった。

チッピン・カムデンに到着した我々は、車を停め、レストランのメニューをチェックしながら、しばらく周辺を散策する。日が暮れると一段と気温が下がり、春とは思えない寒さが身にしみてくる。店の窓から温かな灯りがこぼれているレストランを選び、中へ入った。

低い天井の、太く大きな梁が、数百年を刻んでいるだろう歳月の重みを滲ませていている。窓辺のテーブルに通されたわたしたちは、まず、赤ワインを注文し、それからメニューをじっくりと眺める。チキン、ポーク、ビーフ、ラム肉などの肉料理、それからサーモンやヒラメ、マスなどの魚料理もさまざまにある。

余りお腹が空いていないので、今日もまた前菜、主菜を1品ずつ注文し、シェアすることにする。前菜は野菜のタルト。ホウレンソウやレッドペッパーなどの野菜がパイ皮に詰まったキッシュのような料理だ。これは野菜とパイの風味がとてもよく調和していて、予想以上においしかった。

そうして主菜は、どうしてもラム肉に拘る夫の主張により、ラム・シャンクの煮込み料理を注文。ラム・シャンクとは骨付きのラム肉で、これを時間をかけてゆっくりと、トロトロ煮込んだ料理である。これまたボリュームたっぷりで、二人でわけてもお腹いっぱい。添えられた野菜もおいしく、今日もまた、昨日とは異なる英国のおいしさを堪能できた。

今回の旅、本当に、おいしい料理に恵まれて、我々は非常に幸運である。

さて、食事を終えたわたしたちは、宿を目指して町を出る。店の人から大まかなルートを教えてもらっていたものの、いったん町を出ると、あたりは真っ暗、標識も見あたらず、本当に正しい道を走っているのかどうかわからない。わずか5マイルほどしか離れていないはずなのに、随分走った気がして、通り過ぎたんじゃないかとも思う。

分岐点で引きかえそうとしていたら、向こうから車が一台やってきた。「道に迷ったの?」と声をかけてくれ、ホテルの場所を教えてくれた。

ここ数日のことだけれど、道に迷うたび、人が親切に教えてくれるのがとてもうれしい。

オックスフォードでは「次の角を右! いや左! じゃなかったやっぱり右!」などといいながら、本当にはっきりしないナヴィゲーションをする夫に業を煮やし、交差点の隅に停車して地図を眺めていたわたしに、通行人がわざわざ窓をコンコンとノックして、「道がわからないのなら、教えてあげましょうか?」と声をかけてくれたりもした。

さて、その宿の入り口をようやく見つけ、丘の上にあるらしき建物を目指して車を走らせる。周りの景色がまったく見えないからわからないものの、かなり広大な敷地の中にポツンと立っていると見受けられる。

車を降り、空を見上げると、もう降り注ぐ満点の星空。空も、地も、なんて美しいところだろうと感嘆する。

この宿の部屋も広々としていて快適、バスタブもまた一段と大きく、それがとてもうれしい。コンプリメントのシェリー酒を飲み、ひと息ついて、ゆっくりと湯船に浸かる。

夫は本日最後のブラックベリーをチェックし、最後のメールを送信し終えた様子。ひとまず、彼ができることはすべてやり終えたから、あとはもう、担当者に任せるしかないとのこと。少し安心した。

今日もまた、味わい深い一日が終わった。


チッピン・カムデンに向かって走る。牧草地と道路を隔てる石塀は、DRYSTONE WALL(ドライストーンの壁)と呼ばれるもので、セメントなどは使用されていない。主に18世紀から19世紀にかけて造られたものが今も残っている。

チッピン・カムデンはコッツウォルズのマーケットプレイスとして有名な町の一つ。中心地には、1927年に建設されたマーケットホールが現在も残っており、市が開かれる日にはバターやチーズなどの乳製品、食肉なども販売されるという。

あと30分早く到着していれば、日没の一番美しい様子を見られたのだが……ちょっと残念!

今日もまた、迷った末に決定した夕食の場。天井が低い重厚な室内にもかかわらず、圧迫感がなく、むしろ温かな雰囲気を感じる。

じっくりと煮込まれた大振りのラムシャンク。軽く蒸されたブロッコリーやニンジンなど、新鮮野菜が添えられているのがうれしい。

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