BOURTON -ON -THE-WATER, COTSWOLDS/ APRIL 12, 2005

4月12日(4)せせらぎの町、ボートン・オン・ザ・ウォーターで羊の群が押し寄せる

日没までにはまだ時間があるから、バーフォードから一番近い町へ行こうと、BOURTON -ON -THE-WATER(ボートン・オン・ザ・ウォーター)を目指す。なだらかなアップダウンを繰り返す道をゆっくりと走る。

見晴らしのいい牧草地や一面の菜の花畑など眺めながら、のんびりと行きたいところだが、多分地元の人たちであろうか、皆、この田舎道を猛スピードで走り抜けていく。時速60マイル、100キロ前後で走っていても後から次々に車が迫ってくるので、路肩に車を寄せて追い抜いてもらう。

途中の草原で車をおりたり、小さな村に寄り道したりしながら、ボートン・オン・ザ・ウォーターへ。小さな町の中ほどに、まるで運河のようなウィンドラッシュ川が流れていて、背の低い小さな橋が何本か架かっている。

水底が透けて見えるほどに澄んだ川が、きらきらと輝いていて美しい。もうすでに、日が暮れ始め、町の店も閉店していたけれど、とりあえずは散策してみることにする。

またしても、町をはずれ、牧草地へ向かっていく。彼方に羊の群が見える。夫が近寄っていくと、羊はどんどん向こうへ逃げていく。ところが、1頭の羊だけが、じわじわと彼に近寄っていった。その親分風情な羊は、夫まとわりついたあと、突然大声で、「メエエエエエエェェェェ〜〜!!!!」と叫んだ。

すると、周りの羊たちがまるで呼応するかのように「メエエエェェェ〜〜!」「メエエエェェェ〜〜!」「メエエエェェェ〜〜!」と鳴きはじめ、ものすごい騒ぎである。更にはそれまで逃げていた羊たちが、いっせいにこちらに向かって来るではないか。

親分羊はくるりと方向をかえ、より一層メエメエ叫びながら、わたしに向かって突進してくる。こ、こわい。さっきまで逃げていたのに、なによ急に! と思いながら、慌てて柵の外に出る。羊が人間を襲う話は聞いたことがないが、大勢の羊がメエメエメエメエ叫びながら押し寄せてくる様は、怖いものである。

しかし夫は平気なもので、にこにこしながら状況を見守っている。そして、

「角砂糖、持って来るんだったねえ」

と残念そうに言う。そう。コッツウォルズを旅したことのあるトルガに教わっていたのだ。羊は砂糖が好きだから、牧草地に行くときには角砂糖を持っていくといいよ、と。本当かどうか知らないけれど、羊は砂糖を喜んで食べるらしい。

親分羊は、夫の指先からエクレアのチョコレートの甘い香りを嗅ぎ取って、「こいつら砂糖、持ってるぞ〜!」と仲間に知らせたのだろうか。どうだろうか。わからん。

わたしたちが柵の外に出ても、いつまでもいつまでも、メエメエメエメエ鳴きながら、我々を見つめる羊の群。その鳴き声が、人間の声にとても似ているところがまた不気味。一緒になってメエメエ叫んでみる我々。

「角砂糖、持ってくればよかったねえ」

いつまでも、残念そうな夫である。


ドライブの途中で現れる、見渡す限りの草原。畦道に揺れる白いスイセンが愛らしい。

ぎょっとするほど派手に青いフォードが我々の借りた車。

これは10年前に取材したときの記事の一部。このときに撮ったのと同じ建物を撮影した。帰国して見比べたところ、違いを発見! それにしても、このときは一眼レフ(35ミリのポジフィルム)でじっくり撮影していたから、写真が丁寧できれい。フィルムを無駄にできないから、1枚1枚を大切に撮ろうという集中度も高かった。ふむ。やっぱりデジタルカメラの一眼レフを買おうかしら……。

同じ建物の前で、夫を撮影。10年のうちに、壁のツタが伸びていた! 十年一昔。何だか感慨深い。

ピーターラビット兄弟がぴょんぴょん跳ねてる牧草地。

牧草地で羊と見つめ合う夫

親分風情な一頭の羊が夫に近寄ってきた

何かと夫にまとわりつく親分

メエメエメエメエ叫びながら、今度はわたしに向かってきた。な、なんなのよ〜!

ほかの羊たちも一斉に、うるさいくらいにメエメエメエメエ鳴きながら近寄ってきた。

顔の黒い羊はお面みたいで、ちょっと不気味。わたしたちが柵の外に出ても、いつまでもいつまでも鳴き続けていて立ち去ろうとしない。

「わざわざ柵越えて入ってくるくらいなら、角砂糖の一つや二つ、もって来いよな」と言いながらガンを飛ばす親分羊。ごめんなさ〜い!!

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