STOW-ON-THE-WOLD, COTSWOLDS/ APRIL 12, 2005

4月12日(5)「今までの人生で食べたラム肉の中で一番」。ストウ・オン・ザ・ウォルドにて

本当は、ボートン・オン・ザ・ウォーターのレストランで夕食をすませ、オックスフォード郊外のホテルへ行く予定だった。いくつかのレストランの店頭でメニューを見るものの、ピンとくる店がない。今晩は妥協したくないとの姿勢を示す夫、「別の町に行ってみよう」と言う。

夜遅くなって、田舎道を長距離運転するのはいやだと思うのだが、夫は更にホテルから遠のくSTOW-ON-THE-WOLD(ストウ・オン・ザ・ウォルド)へ行こうと言い張る。仕方ない。妻は夫に従った。

ストウ・オン・ザ・ウォルドはコッツウォルズでも大きめの町で、かつてはコッツウォルズ最大の羊のフェアも行われていたという。町の中央広場に2万頭もの羊が集められ販売されたと言うから驚く。どれだけメエメエうるさかったことだろう。

ストウ・オン・ザ・ウォルドはまた、アンティークショップも多く、中央広場では定期的にマーケットが開かれている様子。以前訪れたときは、この町のティーハウスでクリームティーを味わったのだった。

さて、町に到着するや、車を停めて中央広場のレストランを数軒、訪ねる。店頭のメニューをじっくりと吟味する夫。やがて、「ここにしよう!」と声があがる。その店、KINGS ARMS(キングズ・アームズ)は、宿とレストランが一体化したINN(イン)だった。

店頭にはメニュー以外に、雑誌のレビュー記事も張り出されていた。その記事の内容に、夫は好印象を抱いた様子。1階にはパブがあり、2階がレストランになっている。築500年以上だという建物で、「1645年の5月8日にチャールズ1世が宿泊した」との記録もある。たいそう古い話である。

さて、わたしたちは、2階のダイニングルームに通された。一画はワインショップになっていて、自分の好きなワインをそこで選ぶことができる。ワインの1杯2杯、飲みたいところだが、食後、運転しなければならないことを考え、軽くハーフパイントのビールで我慢することにする。

メニューは日替わりらしく、黒板に手書きで本日の料理が書き記されている。前菜にグリーンサラダを、主菜はラム肉のグリルと白身魚のグリルをオーダーした。

ビールを飲みながら、料理が来るのを待つ。なぜかものすごく、時間がかかるが、それでも辛抱強く待つ。そうしてテーブルに届いた料理。これがもう、非常に美味なのである。

白身魚もさることながら、ラム肉のグリルのおいしさ。たいしたソースはかかっていない、ただ質のいいオリーブオイルと塩胡椒と、ハーブだけでグリルした感じなのだが、食感といい、風味といい、抜群なのだ。柔らかく、しかし適度な歯ごたえがあり、肉汁たっぷり。脂身も適度についている。

たまに「ラム肉独特の匂いがなくて、おいしい」などという表現を聞くけれど、ラム肉はラム肉特有の匂いがあってこそのラム肉なのである。ラム肉の匂いがいやなら、別の肉を食べればいいのである。

常日頃、そう思っているわたしは、そのラム肉の匂いがプンプンするラム肉に感動するばかり。モンゴルのゲルで絞めたばかりのラム肉を食べたとき以来の、濃厚な風味である。苦手な人には多分最悪の風味である。

マトンの濃厚な匂いが得意なインド人ハニーも、大喜び。「今までの人生で食べたラム肉の中で、一番おいしい!」と何度も言いながら食べている。今回に限っては、わたしも異存はない。

非常に大振りの骨付き肉2つを、わたしたちはすっかり食べ尽くしてしまった。至福の夕餉であった。

もう、このままこの宿に泊まりたい。という気分だったが、そんなわけにもいかぬ。オックスフォードまで1時間弱、気合いを入れて運転席に座る。

町を離れると、あたりは真っ暗闇。この時間はもう、行き交う車もほとんどなく、風景もまったく見えず、ただヘッドライトが照らす前方十数メートルの路面だけが、延々と続いていく。

時折、ウサギだかキツネだかが飛び出してきてドキッとする。あおる車もないので、ゆっくりと走って行く。

たどりついたOXFORD HOTEL(オックスフォードホテル)は予想以上に快適だった。何より新しくて清潔なのがいい。部屋は広く、バスタブも広く、ベッドの寝心地もよく……。

とてもリラックスできた一夜だった。


ストウ・オン・ザ・ウォルドの中央広場。右側の建物が我々の入ったレストラン「キングズ・アームズ」

食料品店の店先にて。ブランデーバターにフレッシュライムマーマレード、シェリー酒入りアプリコットジャム……。あれこれと味見をしたいスコーンの友。

↑ワインを、と思ったけれど、運転を思って軽くビール。英国のビールはエールやビターが主流のよう。ちょっと気が抜けた感じの味わい。

→食事を終えた頃には、とっぷりと夜更け。このままこの宿に泊まりたかった。

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