SCENE26: 懐かしい味! 蒸しトウモロコシと、父とわたし。
BANGALORE SEPTEMBER 7, 2005/ DAY 9

バンガロアに住む義姉スジャータとその夫ラグヴァン。
ニューデリーから遊びに来ている義父ロメイシュと家族5人で夕食に。
タージ・レジデンシ−・ホテルで行われている、
何やら有名なシェフらによる、インド料理のフェアに出かけた。

前菜、主菜、デザートと、さまざまな料理が並ぶなかで、目を引いたのはトウモロコシ。
これは紛れもなく、スイートコーンではない。堅いトウモロコシだ。
なによりまず、これを食べたい。
シェフが表面に、マサラ(スパイス)を塗り付けてくれる。

他の前菜はそこそこに、トウモロコシをかじる。
これだ! これ! この堅いトウモロコシ!! 懐かしい味!!!

今じゃ日本もアメリカも、ふにゃふにゃしたスイートコーンばかりで、
でも、わたしはこの堅いトウモロコシが、大好きだったのだ。
最後に食べたのは、いつだったろう。思い出せないくらい遠い昔。

いつだったか、米国の郊外をドライヴしたとき、農家でこんなトウモロコシを見つけた。
買おうとしたら「それは家畜の飼料用です」と言われた。

2001年、結婚式の時、インドへやって来た父。
車窓から眺めた露店の、炭火焼きのトウモロコシを見て、
「あ〜、あれはうまそうやね〜。食べたいね〜」
と言ったのを思い出す。
父も、この堅いトウモロコシが大好きだったのだ。

健康体ならいざしらず、一応は病を抱えていた父に、
汚れた道端で売っている食べ物を、食べさせる勇気はなかった。

トウモロコシを噛み締めながら、そんな話を家族にしたら、
「あれは、火が通ってるから大丈夫だよ」とラグヴァン。

あのとき、買ってあげればよかったかなあ。

ほかの料理もそこそこに、トウモロコシをおかわりして、
うわ、父がわたしに憑依している! と思えるくらいに。


【9月7日(水)】

夕べは、夜遅くにバンガロア入りした。夕食も軽く機内で済ませていたので、部屋でウェルカムフルーツを食べる程度にしておいた。スジャータたちには電話だけを入れて、今日、会うことにしたのだった。

昼間、夫は打ち合わせ。わたしはほぼ一日、ホテルで過ごした。そして夕方、家族を部屋に招き、しばらくおしゃべりをしたあと、タージ・レジデンシー・ホテルへ。TASTE ROYALTYと冠されたフード・フェアをやっているのを、スジャータたちがリサーチしておいてくれたのだった。

目いっぱい並んだ料理に感嘆しながら、しかしトウモロコシでお腹いっぱいになってどうする我よ。

ダイニングルームの一画に、レストランが招いた「タロットカード占師」が座っており、ゲストを無料で占っている。そもそも、占いその他「非科学的」なことは一切信じなかったはずの夫だが、占師が美しい女性であるのも一つの理由であろう、いや、理由のすべてであろう、「僕、占ってもらお〜っと」ってな勢いで、中座した。

やがてテーブルに戻って来た彼。

「彼女はすごいよ。僕の今の状況を、ぴったりと言い当てるんだよ。カードが示す意味を、とても明晰に判断して、アドヴァイスをしてくれたんだ。インドに来るべきかどうか、迷っているって言ったら、カードに聞きましょうか? って言って、カードを引かせてくれたんだ。そしたらね。今、決断して、迷わず来るべきだ、ってことを意味するカードが出たんだよ。彼女の説明は的確で、すごかった。名刺ももらってきたよ。もう少し、他にも聞いてくればよかったかな〜」

興奮した口調で報告する。占いを信じないなんて言っていたのは、いったいどこの誰だ。ものすごく、信じてはいまいか。続いてわたしも、スジャータも、そしてロメイシュも占ってもらった。他のゲストと交代で見てもらうため、ラグヴァンの順番までは、回ってこなかった。

わたしの占いもまた、非常にいい内容だった。見るからにポジティブなカードが並んでいて、それを眺めるだけで励まされる思いがした。決め手になるのは、わたしの「判断力」にかかっているということが、読み取れた。

前菜、主菜、デザート、そしてマサラ・チャイ……と、テーブルの上の皿は次々に入れ代わり、互いのカードの結果を報告しあい、これからの方針を語り合い、なんだか皆が饒舌の夜だった。

チップを500ルピーも渡したという夫。それは奮発しすぎやろうというほどに。それほど彼は、アドヴァイスをくれる人を、今、切望しているのかもしれない。最近通っている鍼クリニックの、すごく理解のある知的なドクター・リーに次いで。

「いつかバンガロアで大きいパーティーをする時には、彼女を招こう」

そう言いながら、夫は彼女の名刺を大事そうに、財布にしまった。


 

サモサやチャート、ゴルガッパなどのスナックが並ぶ一画。

スナックは、そもそもレストランで出される料理ではないけれど、フードフェアということで、シェフ自ら作ってくれる。

 

煮込み料理(カレー類)も、チキンあり、ラムあり、各種野菜類ありで、すべてを試していられないほどの種類の多さ。

あれこれと並ぶデザートに目移りするロメイシュ。わたしはグラブジャムンと、ミルク風味のデザート数種を少しずつ。ジンジャーのアイスクリームもおいしかった。

身を乗り出し、もんのすごい真剣さで、占師の話を聞いている夫。悩める年頃なのね。

食後のお口直し、パーン(Paan)。各種スパイスをキンマの葉で包んだもの。口をさっぱりせ、消化を促進する。ちなみにこれらは甘いMitha と呼ばれるもの。煙草を含んだものはSadaと呼ばれる、いわゆる噛み煙草。インド人家族はみな、食後にこれをパクリと口に入れ、ガフガフと噛んで飲み込む。我、こればかりはインド化できず。香水を食べるが如き風味にて。

 

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