JUNE 26, 2005/ DAY 14
LAS VEGAS (NEVADA)
ブションで朝食。思いがけず、キッチンを見学させてもらって感激の朝

さて、今日はラスヴェガスを離れ、いよいよカリフォルニア入りである。昼までにはチェックアウトをして、出発する予定だ。夕べの食事に気をよくしたのか、夫が、「朝食は、ブションで食べようよ」と言う。もちろん、異議なしである。

やはり朝も、エピ・バケットがテーブルに供される。風味のよいバターを塗り、ほどよく香ばしいそのパンを味わう。ミントティーと絞り立てのオレンジジュース、それから本日のおすすめであるカニ肉のオムレツ、フレンチトーストを注文する。

上品な味つけのオムレツ。添えられたブリオッシュのトーストがおいしい。器の趣もいい。一方、フレンチトーストは、フレンチトーストと言うよりはブレッドプディング、それも「おやつ」に近い甘さと見栄えの一品だった。おいしいけれど、朝食には甘過ぎるな、と思いつつも、二人でシェアしながら楽しむ。

「この店の、このバケットが食べたかったのよ」という話を、夕べ夫にしていたのだが、彼はさも、自分もまたこの店のパンに関心を持っていたかの口調で、ギャルソン(ウエイター)に話しかける。

「ここのパンはとてもおいしいですよね。バターも味わい深いし。キッチンで焼いているんですか?」

夕べの料理のことも、ほめたりなどして、ギャルソンと雑談する。フランス語を操る男性だったのでフランスから来たのかと思えば、ブラジル出身だとか。この店に働きはじめてまだ数カ月らしいが、非常に感じのいいギャルソンである。

ほどなくして、彼がテーブルに戻ってきた。

「あと30分ほどしたら、キッチンは朝食とランチの間に入り、一段落します。もしもご興味があるようでしたら、見学なさいませんか? シェフに確認しなければなりませんが……」

キッチンを見学?! 目を輝かせる我々。

「ぜひ、見学させてください。30分、ここでコーヒーをいただいてますから! どうもありがとう!」

満面の笑顔で応じる。取材をするわけでもないのに、キッチンを見学させてもらえるなんて! 米国では、いや米国に限らず、レストランによっては、頼めばゲストをキッチンを見学させてくれるというが、今まで仕事以外では敢えて見学させてもらったことはなかった。ましてや、ギャルソンから申し出てくれるなんて、うれしい限りだ。

エプロンを身につけた年輩の女性シェフの一人が、キッチンを案内してくれることになった。早速、中に入る。まず驚いたのは、そのキッチンの清潔さ。キッチンがきれいであるのは当然のことだけれど、たいてい、素材や調味料などが散らばっているものである。しかし、このキッチンはどこを見回しても、先ほどまで朝の準備で忙しかった、という片鱗を感じさせないほど片づいていた。

何人ものシェフが、ランチの準備のために各々の作業をしているが、潤沢なスペースがあるため、忙しそうな気配が感じられない。ニンニクやタマネギ、ニンジンなどの皮をむいたり切ったりする下ごしらえの担当、チキンのグリルを下焼きする担当、突き合わせに欠かせないフレンチフライを準備する担当……、という具合に、それぞれに各所で準備がなされている。

プロの作業には無駄がなく、素材を切る手つきを眺めているだけでも楽しい。夫はまったく料理ができないのだが、「僕は料理が大好きなのです」という顔をして、シェフの一人に調理法などを熱心に聞いている。なかなかに、取材上手なのである。

奧には、ペーストリーのコーナー、ベーキングのコーナーがある。

「わたしは、ペイストリーの担当なの。プロフィトロールのアイスクリームは、わたしが作るのよ」

と、案内してくれている女性が言う。

「あのアイスクリーム、おいしかったよね〜!」

ハーゲンダッツの方がいいかも、なんて言っていた癖に、我々も調子がいいのである。山ほどのエピ・バケットを見て、パンを焼く行程も垣間見られて、本当に楽しい。特別ゲストのためのパーティールームにも案内してくれた。

「僕の妻は、料理が好きなんです。おいしいお菓子も作るんですよ」

アメリカナイズされている夫が、妻を褒める。妻も妻で、アメリカナイズされているため、謙遜したりはしない。

「お料理がお好きだったら、カリナリースクールに通うといいわよ。勉強になるわよ〜。実はわたし、以前は料理が下手で、息子たちからも、母さんの作る料理はまずいって文句を言われてたくらいなの。だけど、一念発起してカリナリースクールでベイキングとペイストリーを学んだのよ。そうしたら、この通り。今は見事なものよ!」

実は以前から、カリナリースクール(料理人養成学校)に大変興味があり、短期のコースがあれば通いたいと思っていた。カリフォルニアにはいくつかの有名な学校があるから、行く機会があればとも思っていたところだったので、一層、関心が高まった。

今回のラスヴェガス滞在。ハイライトはブションであった。


サクッとした歯ごたえのブリオッシュのトーストがおいしい。

フレンチトーストは、フレンチトーストと呼ぶよりは、お菓子である。朝食には、ちょっと甘過ぎ。でも、一般のアメリカ人にはこれくらい甘い朝食がいいのかもしれない。

キッチン見学。昨日食べたチキンがマリネされている様子。レモンや各種ハーブに24時間漬け込むらしい。

熱心に調理法を尋ねる夫。いかにも「料理好き」な風情で。

さっぱりと整頓されたペイストリーのキッチン。

パン生地を計量しているお兄さん。

テーブルに登場するのを待ちわびているエピ・バケットら。

こちらはブリオッシュ。現在、イースト発酵中。

パンの種類によって焼く温度が異なる。それぞれの段に個別の温度計が設置。

こちらはバケットが発酵中。

ペースト状のフォアグラは、この器に入ってテーブルに供される。

すっきりと片付けられたキッチン。ランチ開店まであと30分とは思えない落ち着き。

 

たいへんハッピーな夫、および皆さん。

 

さあ、いよいよ出発。

預けていた車を外で待つ。乾いた暑さを癒すため、屋根から霧が噴霧される。「気持ちいい〜」といいながら、霧を浴びる夫。あやしいからやめて。

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