JUNE 24, 2005/ DAY 12
KINGMAN (ARIZONA)- HOOVER DAM (ARIZONA/NEVADA)- LAS VEGAS (NEVADA)
フーヴァー・ダムを経て、砂漠の大地に浮かぶ蜃気楼の町、ラスヴェガスへ

遅いランチをすませたあと、速やかに車に戻り、給油をして、ルート93に乗る。ここから北西へ向けて100マイル余り走ればラスヴェガスだ。ラスヴェガスの手前、アリゾナ州とネヴァダ州の州境にフーヴァーダムがある。1936年に建築された米国最大規模のダムで、コロラド川に建設されている。

午後7時近く、ダムに到着した。インフォメーションはすでに閉まっていたが、ともかくは全容を見ようと車を降りる。日が傾いてもなお、あたりの空気は熱く乾いている。

ダムの東側に、人造湖であるミード湖 (LAKE MEAD)が広がり、澄んだ水面を見せている。見下ろせば、魚が泳いでいるのが見える。光に満ちたラスヴェガスに電力を供給しているのはここの発電所だ。ここで貯水された水は、ロサンゼルスなどの都市部で、水道水として利用されている。また、コロラド川下流の氾濫を防ぐ役割も果たしているという。

西側を見下ろせば、高さ221メートルという巨大なダムの全容が見える。人工の建設物としては破格の大きさなのだろうけれど、これまで雄大な自然を見てきた目には、その大きさが特別のものとは思えない。

砂漠の中に浮かぶ蜃気楼のような町、ラスヴェガス。フーヴァーダムのお陰で電力がまかなわれているというのは深く納得がいく。生産と消費が隣接している顕著なケースだと思う。

さて、ラスヴェガスに到着するころには、すでに日が暮れかけていた。滞在先のホテル、ヴェネツィアンへ向かう。わたしたちがラスヴェガスへ来るのはこれで2度目。数年前、インド家族と一緒にザイオンやブライスキャニオンなどユタ州の国立公園巡りをしたあと、ラスヴェガスに寄ったのだ。

そのときは、ヴェネツィアンの向かいにあるミラージュというホテルに泊まった。ミラージュはホテルそのものが古めだし、カジノは騒がしいし(当たり前)、なんだか落ち着きのないホテルだったけれど、ヴェネツィアンはショッピングモールやレストランも充実している上、部屋も全室スイートで広めだからリラックスできそうだと思ったのだ。

それにしても、前回来たときも思ったけれど、大自然の中を走り抜けた果てにたどり着くこの町は、実体のある蜃気楼のようだ。久しく単調な風景を目にしてきた身には、ごてごてに装飾が施されたアミューズメントパークのようなインテリアが、なんだか滑稽な物に映る。なんなのだろう、このふざけた空間は。とさえ思う。しかし数日、いや数時間もすれば、この空気になじむのである。

さて、このホテル、ヴェネツィアンは、その名のとおり、イタリアのヴェネツィアをモチーフにしたホテルである。館内のショッピングアーケードには、ゴンドラが浮かぶ運河が流れ、カンツォーネさえ聞こえてくる。

ラスヴェガスに来ておきながら言うのもなんだが、わたしは、カジノに興味がない。前回はシルク・ド・ソレイユの"O"を観たりもしたが、世間の大絶賛とは裏腹に、わたしは、演出があまり好きではなかった。すばらしいショーであることには間違いないのだけれど。あのときも、大自然を巡ったあとで、感性が少し、混乱していたのかも知れない。

そんなわけで、ここでの2泊3日は、特に何の予定いれていない。敢えて言えば、「大自然に身を委ねた日々から資本主義的物質社会に戻るための派手な通過儀礼としての都市滞在」といった位置づけである。理屈っぽいのである。

部屋は全室がスイートで、広々としている。バスルームも広く、非常に快適だ。明後日、ここを出た後、西海岸のどこかの町に1泊し、そしていよいよ、ベイエリアに到着する。直後からアパートメント探しに引っ越しと、忙しくなるはずだ。旅は終わっても、また新しい旅が始まる。

明日はこの部屋で、できるだけのんびりと過ごそうと思う。

部屋にはさまざまなレストランのブローシュアが置いてあったが、重たい料理を食べる食欲はなかったので、軽くチャイニーズ(軽い?)ですませることにした。他のホテルに比べると、比較的お客の少ない静かなカジノを通過して、一画にあるチャイニーズレストランへ。点心とチンゲンサイのガーリック炒めとシーフード・フライドヌードルを注文。

青島ビールで乾杯し、喉を潤す。おいしい。

久しぶりに醤油風味を口にした途端、鳥肌が立った。毎度のことなのだが、長旅で醤油っ気のないものを食べ続けたあと、久しぶりに醤油とか味噌汁を口にすると、ものすごーく身体が安心するのだ。そのときに、一瞬、鳥肌が立つのである。身体の底から日本人なのである。っていうか、これは中国料理だけれど。

食事の後、夫が「バーで生演奏を聴いていこうよ〜」というけれど、わたしは疲労困憊だったので、振り切って一足先に部屋へ戻る。ゆったりとしたバスタブにしばし浸かり、寝心地のいいベッドに潜り込み、深い眠りへと落ちていった。

[DAY 12/ Miles Driven: 307 (3179)]


フーヴァー・ダム近くから望むコロラド川の様子。

丘陵地を切り開いて、道路は造られている。

フーヴァー・ダム。

ミード湖の水は澄んで美しい。

ダムの東側はアリゾナ州、途中、西側からネヴァダ州になる。

ネヴァダ州側にヴィジターセンターがある。

 

ダムの西側を見下ろしたところ。

 

規模が大きすぎて、全容をカメラに収めることができない。

身を乗り出すと滑落しそうで怖ろしい。建設中、96人もの作業員が命を落としたという。

荒野の彼方にラスヴェガスの町が見えてきた。

ベッドルームからリヴィングルームが見下ろせるスイート。

バスルームも広々としていて使い心地がいい。

カジノは素通りして、夕食を食べに……。

チンゲンサイの炒め物と焼きそば。蒸しエビ餃子も食べた。久しぶりのアジア風味はおいしかった。

ホテル内にはいくつものレストランがある。中でも目を引いたのはBOUCHONの案内。以前から気になっていたフレンチビストロなのだ。ここのエピ・バケットを食べてみたい。明日の朝食は、ここにしようと決めて、寝た。

BACK NEXT