JUNE 22, 2005/ DAY 10
CAMERON (ARIZONA)- GRAND CANYON NATIONAL PARK, SOUTH RIM (ARIZONA)
視力が及ばない光景。グランドキャニオン

夕べもまた、夕食が遅くなり、就寝も遅れた。旅も十日目。そろそろ疲れが出てくるころだ。どんなに楽しんでいたとしても、普段とは違う場所を巡る旅は、自分が思う以上に疲労している場合が多いから、敢えてペースを落として休息する必要がある。

一人旅なら話は別だが、それが伴侶であれ、家族であれ、友人であれ、生活のリズムや習慣、価値観の異なる人と四六時中、共に行動する際には気疲れが伴う。これまで取材でいろんな人といろんな土地を旅した経験から言えば、1日のうち、短時間でもいいから各自ひとりになれる「自由時間を設ける」ことが大切だと思う。

更には長期の取材旅行なら、1週間に丸1日の休みは必要である。仕事の種類にもよるが、例えば紀行の取材などに関しては、移動ばかりを重ねて、次々に新しい経験を重ねるのは、いいこととも言い切れない。

短期間に、あれもこれもと詰め込む昔のパッケージ旅行のような旅のスタイルは、よほど鋭い感性を持ち、記憶力が鮮やかな人でない限り、印象全体が浅薄になり、何が何だかわからなくなることのほうが多いだろう。強く深く、旅を心に刻みたいならば、欲張りすぎないことだ。

そういう意味で、今回の旅はもう、最早「欲張りすぎ」の域に達しようとしている。そもそもが、「はじめに目的地ありき」ではなく、大陸横断のついでに観光するという旅だったこともあり、「欲張りやすい」状況だったことも影響している。「大自然の旅」に関しては、モニュメント・ヴァレーとキャニオン・デ・シェイあたりをじっくりと巡るだけで、わたしはもう十分だと感じていた。

が、ここまで来ていて、行ったことのないグランドキャニオンを通過して行くのも、惜しいものである。結局は欲張ってしまうのである。

今日はグランドキャニオンを巡った後、およそ100マイルほど走ってセドナへ行く予定である。セドナは赤い岩々がある場所、くらいしか情報を得ておらず、従って、今夜は早めに到着して、観光などはせずにホテルでゆっくりしようと思う。

さて、本日のハイライトであるグランドキャニオン。20億年以上かけてかけて形成された、地球上で一番大きな「大地の裂け目」である。全長277マイル(約443キロ)、平均幅10マイル(16キロ)、深さ1マイル(1.6キロ)という途方もないスケールの大峡谷だ。

人々は、コロラド川の北側に位置するノースリム、もしくは南側に位置するサウスリムのいずれかから、この大峡谷を眺めることができる。眺めるだけでなく、谷底へ歩いて下りたり、ヘリコプターのツアーで峡谷に接近することもできる。

ホテルで朝食をとり、チェックインをすませたわたしたちは、ルート64を西へ向かって走る。途中のヴューポイントで車を停め、グランドキャニオンの序章を眺めながら、やがてサウスリムのゲートに入る。ここからまず、最初のポイント、展望台のあるデザートヴュー・ポイントへ。

展望台には大勢の観光客がひしめき合い、パチパチと写真撮影をしている。人波をかき分けるようにして、その全容が見えるところまで行く。

その光景を見た瞬間、「及ばない」と思った。いくらコンタクトレンズを付けていても、全容を捉えるべく視力が、追いつかないのだ。視点が定まらず、ふらふらと泳ぐ。見えているけれど、よくわからない。広すぎて、漠然としている。広さとは、目だけで捉えるものではなく、五感で捉えるものなのかもしれない、と感じた。

この10日の間、すでに広大な大地を延々と走り続け、すでに「五感で」雄大な光景を捉え続けてきた。そのせいか、正直に言えば、グランドキャニオンを見ても、猛烈な衝撃を受けることはなかった。自分もその構成員の一人である故、勝手な言い分ではあるのだが、人の多さと騒がしさに、落ち着いた気分で風景を眺められる状況でなかったのも、感動が浅かった理由かもしれない。

個人的には、以前訪れたブライス・キャニオンや、小規模ながらも神聖な空気が漂っていたキャニオン・デ・シェリ、またモニュメント・ヴァレーの景観の方が心に滲みた。

夫もわたしも、少々無口になり、しばらくはそこにいたものの、「次の場所に行こうか」と、もう一つ別のポイントを目指した。

次なるナヴァホポイントは、人も少なく、とても静かだった。谷底を蛇行するコロラド川もくっきりと見える。日の高い時間帯よりは、早朝や夕暮れ時の、光の陰影がくっきりした時刻が眺めるにいいころなのだろうけれど、それでも十分に、この大峡谷の迫力は伝わってくる。先ほどよりはずっと、風景に近づいた心持ちで、その場にいることができた。

やがて空は曇り始め、次のポイントであるグランドヴューに向けて走るうちにも雨が降り始めてきた。グランドヴューでは、木陰で雨を凌ぎながら、稲妻が光る様子を眺めた。先ほどとは様子が一変した景観に、ただ、見入る。

やがて雨が小降りになったところで、ホテルやロッジ、鉄道駅のあるグランドキャニオン・ヴィレッジに到着。ここでランチを食べたあと、次なる目的地、セドナを目指すことにした。


本日もフルーツたっぷりの朝食。ここもまた、ダイナミックなメロン。でも小さく切ってあるよりもむしろ、新鮮でおいしく食べられる。

今日は2680マイルからのスタート。車の調子はいい。

キャメロンからサウスリムまでは西へ57マイル

途中のビューポイントで。すでにここからグランドキャニオンは始まっている。

「うう。これ以上は怖くてダメだ!」……誰も端っこに立てなど言っていないのに。

「全然、怖いことなんてないよ!」
そう言いながら、 足をすくませる夫の傍らをひょいひょいと駆け抜けて行ったお兄さん。気付いたら、あんな遠くで、豆みたい。

デザートヴューからの眺め。コロラド川がよく見える。

峡谷に雲の影が模様を描いている。

石造りのウォッチタワー(展望台)は観光客でひしめき合っていた。

ナヴァホポイントは静かでよかった。

またしても、バイクのお兄さんに声をかける夫。

気を付けて、よい旅を〜。

途中で雨が降り始めた。

あのあたりは集中豪雨の模様。

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