SCENE 23: 鳥たちの棲家を訪ねて
KUMARAKOM, KERALA, OCTOBER 31, 2004 

ゆっくりと寝ていたい、という気持ちと、朝の限られた光景を見ておきたい、という気持ちが交錯しつつも、早起きを選ぶ。6時半にリゾートを離れ、隣接するバード・サンクチュアリのウォーキングツアーへ。

夕べの雨でぬかるんだ森の小道を抜け、カヌーで細い運河を滑り、見たことのない鳥たちの姿を眺める。


10月31日(日)

■鳥たちのパラダイスはすぐそばに

このケララの地には、実に様々な自然の表情がちりばめられている。このバックウォーターエリアの、バード・サンクチュアリ(鳥の聖域)は、その魅力のほんのひとかけらだ。

ホテルからでも十分に、舞い飛んでくるさまざまな鳥を見ることができるけれど、朝の森を歩いてみたい。ということで、ホテルのレセプションに、空が白みはじめた朝6時に集合。

ガイドは村の青年で、少しつたない、土地言葉の訛りが強い英語を話す。

早起きしたにも関わらず、同行するもうひと組のカップルが15分ほど遅れて登場する。早起きしたのに待たされるのはいやなものだが、インドだから仕方ない。彼らはちなみにバンガロールから来たインド人カップルで、わたしたちと同世代の気配。

ガイドから、ぬかるみを歩くので汚れてもいい歩きやすい靴を履いてくるよう言われていたのだが、彼女は10センチは軽くありそうな「厚底サンダル」を履き、更には地面に触れんばかりの裾の長いジーンズを履いている。おしゃれさん、であるが、それで森を歩けるのか? と他人事ながら気になる。

さて、ガイドに率いられて、ホテルに隣接する森に入ってゆく。

早くも、夕べの豪雨で水のたまったぬかるみに遭遇。避けて通る道もなく、足首まで水に浸かりながら数メートル歩く。わたしはジーンズの裾を折り曲げて、ざぶざぶと行く。夫は短パンにスニーカー姿にも関わらず、中盤でなにゆえにか、思いっきり滑って転び、短パンにも関わらず、裾部分を広域に亘り、大いに濡らす。

かつてザイオン国立公園で川下りをした際、やたらと転びまくってリュックまでずぶぬれになって、中に入れていた携帯電話を壊してしまったことを思い出す。彼はどうにも、水に弱い様子だ。

一方、懸念していた厚底の彼女は、ジーンズの裾を折り曲げることもなく、そのままざぶざぶと水辺に突入する潔よさ。よろめきもせず、心配すべきは他人ではなく自分の夫であった。

それにしても、ジーンズの裾をおりまげないのはやはり、「いまどき」なファッションをしていても、インド人女性はむやみに外で素足を露出しないものなのね、と思う。

水に弱いのに加え、ヘビが苦手な夫は、ガイドにしきりに、「ヘビはいるの?」「毒ヘビは?」と確認をしている。インドは確かに、コブラを筆頭に毒ヘビが多いし、毎年、途方もない数の国民が毒ヘビによる被害で死亡している。一度テレビのドキュメンタリーで見て驚いたものだ。確かな数字は覚えてないが、ともかく、すごかった。(漠然とした情報で失礼)

というわけで、ヘビを恐れるのも仕方ないというものだ。一方、わたしは巳年だから、というわけではないけれど、ヘビはさほど苦手ではない。というか、毒がなければ触るのも平気である。と自慢げに書くことでもないけれど。

さて、森を抜け、カヌーに乗り込み、ゆっくりと細い水路を渡り、鳥たちが生息するあたりに向かう。途中で、キングフィッシャーを見つけた。インドのビールの銘柄にもなっている鳥だ。羽のあたり全体が目のさめるようなまばゆいスカイブルー。お腹のあたりがオレンジ(稀に黄色い鳥もいる)で、頭部は茶色、嘴は赤である。

姿はちょっと丸っこくて、チョコボールの鳥みたいな雰囲気である。

キングフィッシャーが舞い飛ぶ姿はまた一段と鮮やかで、一瞬しか見られないのが惜しいくらい、いつまでもその姿を眺めてみたいと思わせる美しさだった。

それにしても、湿地帯は蚊が多い。あらかじめ「Odomos」という虫よけを塗ってきておいたが、それにしても油断ならぬ蚊の多さである。

インドに来る旅行者は、マラリア予防の薬を飲むか注射を打つか、あらかじめの処置をする場合もあるようだが、わたしの場合、基本的には「短期間の観光旅行」につき、特に強く勧められているわけでもないからこれまで、何もしたことがない。

ただ、いくら刺されないように注意していても、刺されるものなのだ。気をつけないと。特に足の甲をやられやすい。靴下の上からでも刺すから大したものだ。足の甲って、掻きにくいし、痒さが際立つのよね。

一方の夫は、すでに子供時代、2回もマラリアを経験している。だいたい1回罹患すれば免疫がつくはずなのに、2回である。なのに、あるいはだから、3回目のマラリアを心配し、ガイドに尋ねる。

「この地域はマラリアに罹る人は多いの?」

するとガイドは力強く答える。

「ケララでは、マラリアは、お勧めされていません!」

意味不明の発言に一瞬戸惑うが、多分、報告されていない(not reported)と、勧められていない(not recommended)を間違ったのだろう。勧められてどうするマラリア。ちょっと間抜けな間違いだったので、こっそりと笑う。

さて、鳥である。

鳥らの暮らしを脅かさないためにも、かなり遠くから双眼鏡を使って眺めることになる。シラサギのような鳥をはじめ、ツル科の鳥、その他、生息する鳥の名前のきちんと覚えていないが、ともかく、いろいろな鳥を見た。(漠然としていて失礼。後日わかれば、書き加えます)

このあたりはカモノハシもいるらしい。見ることはできなかったが時々姿を現すとか。一方、川を泳ぐ水ヘビは間近で見た。見たいものを見られず、見なくてもいいものは見られる。そんなものである。

そんなこんなで、約1時間半、ジャングル的な森を探検して、楽しかった。

ちなみに「ジャングル」とはインドの言葉で、「ジャングルブック」はインドが舞台だ。このクマラコムから車で数時間走ると「タイガーのサンクチュアリ」もあるという。また別の機会に、訪れることができたならと思う。

双眼鏡で木々にとまる鳥たちを眺める。

キングフィッシャー。とまっている姿はころんとしていてかわいい。この写真では、実物の鮮やかなブルーがでてません


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