SCENE 20: そしてアーユルヴェーダのトリートメント
KUMARAKOM, KERALA, OCTOBER 30, 2004 

いくつもの、複雑なハーブオイルの匂いが入り交じった、独特の香りがする部屋。
漢方薬とも違う、それは決していい香りではないけれど、「効きそうな」匂い。
サリーを着た女性に促され、部屋に入る。中央には木のベッド。
そして正面には、アーユルヴェーダの神様。


■アーユルヴェーダのマッサージを受ける

部屋に入ると、服を脱ぐように言われる。施術してくれる女性が、白い布を引き裂いて「ふんどし」を作ってくれる。それを身に付けて、木のベッドに腰掛ける。

身体に塗るオイルを温める間、まずは頭部のマッサージである。小さな器に注いだ油を、彼女はまずアーユルヴェーダの神様に向かってかざしたあと、わたしの頭に振り掛ける。そして頭をしっかりとマッサージする。

それから温まったオイルを持って、わたしの背後に回り、今度は背中にオイルを滴らせて、肩や背中全体をマッサージする。それが終わってようやく、木のベッドに横たわる。

足から順番にオイルをたっぷりと刷り込むように、なめらかにマッサージされる。木のベッドは当然、堅くて、決して寝心地のいいものではないけれど、オイル特有の香りに包まれて、瞬く間に心地よさに包まれて、いつのまにかまどろんでいる。

身体全体にくまなくオイルが塗られていく。顔にもたっぷりと塗られる。「注文の多い料理店」を思い出す。

今度はうつぶせになる。やはり木のベッドは堅くて寝心地が悪いのだが、またしても寝入ってしまう。1時間程のマッサージの後、スチームサウナに入る。ここで15分程、蒸される。いよいよ、「料理されている」気分になる。

オイルが肌に吸収されたころ、今度はシャワールームへ。よもぎのようなハーブを、お湯でふわふわと溶いたペースト状のものがボウルに入ったものを彼女は持ってくる。そのハーブのペーストを、シャワーを浴びる前に身体全体に塗り付けるように、とのこと。

背中の部分は彼女が塗ってくれ、あとは顔から足の指先まで、自分でしっかりと塗った。それはもう、泥遊びのような感覚で。一通り塗り終えたあと、シャワーを浴びて洗い流す。

そして今日の、アーユルヴェーダの治療が終わった。


さまざまな乾燥薬草が仕分けられた箱。

薬草をすりつぶす石。以前、メキシコの村でこれとそっくりの道具をみた。

椰子の葉に綴られた、アーユルヴェーダのレシピ

治療に用いられるオイルは、いずれもケララ産。1本1〜2ドル。ヘッドマッサージ用のオイルを購入

マッサージのあと、プールサイドでビールを飲む。おつまみはケララ名物バナナとタロ芋のチップス

ガーデンではプライベートパーティーが開かれ、伝統的なダンスが披露されていた。


■マッサージのあとは、プールサイドでビール。

アーユルヴェーダセンターのすぐ外にはプールがある。プールサイドにはバーがある。

「ビールでも1杯、飲んでいきませんか?」

という雰囲気、ばりばりである。そこをそのまま通過できようか。いやできまい。マッサージですっかりとほぐれ、シャワーで温まった身体をデッキチェアーに横たえる。蒸し暑かったはずの風さえも、心地よく感じる。

すかさずウエイターがやってくる。ビールを注文する。すると、ケララ特産だというバナナとタロ芋のチップスを持ってきてくれた。ちょっと湿気を含んでいて香ばしさにかける気がしたが、食べた。どうということはない、チップスである。

ところでビールを持ってきてくれた青年は、青年と呼ぶよりは少年と呼びたい、それも美少年と呼んでしまいたいチャーミングな男性である。チャーミングな上に知的な雰囲気だ。知的美少年はわたしの傍らに立って、

「どこからいらっしゃったのですか?」と尋ねた。そこからしばらく、おしゃべりが始まった。

このリゾートの敷地には、そもそも英国のベイカー家が七代に亘って所有していたプロパティ(土地と建物)があった。そこをタージグループが購入し、ベイカー家の邸宅であった建物を改装して客室とダイニングルーム、レセプションにし、コテージやヴィラを建築したと言う。

敷地の中央にある小さな湖は、かつて蓮の花が咲き乱れていたそうだ。しかし、ゲスト用のゴンドラやハウスボートを乗り入れるのに障害となるため、すべて取り払ったという。その蓮の花で覆われた湖を見てみたかったと思う。

「村びとのうち150人が、このホテルで働いています。ツアーガイド、レストランのウエイター、ガーデナー、ハウスキーパーと、職種はさまざまです。隣には、ココナツ・ラグーンというリゾートがありますが、こちらの方がいいですよ」

こちらの、彼らにとっての労働条件がいいのか、ゲストにとって居心地がいいのか、今一つあいまいなコメントであるが、なんだか楽しそうに働いている様子ではある。

極めて小さなリゾートにも関わらず、150人もの人々の雇用機会がここにあることを考えると、旅行者も村びとも、ある意味、持ちつ持たれつ、といったところであろうか。


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