プラハ、そしてヴルダヴァ川


 

その曲を初めて耳にしたのは、中学1年の秋、音楽の授業の時だった。胸を突くような、繊細ながらも力強さをたたえたその旋律は、くっきりと私の耳に残った。部活の帰りにレコード店に寄り、LPを探した。

スメタナの連作交響詩「わが祖国」。授業で聴いたのは、第二楽章の「ヴルタヴァ(モルダウ)」だった。レコードジャケットにはヴルタヴァ川が横たわるチェコの首都、プラハの光景が広がっている。まだ見ぬその地に思いを馳せるように、ジャケットを開いたり閉じたりしながら、繰り返し聴いた。   

中央ヨーロッパに位置するチェコ共和国は、ポーランド、ドイツ、オーストリア、スロバキアという4つの国に囲まれた海のない国。大きくボヘミアとモラビアという二つの地方に分けられる。

首都プラハの歴史は、9世紀、プラハ城の創設と共に始まる。天を射るかの如き数々の尖塔、今にも動き出さんとする聖人たちの彫像を備えた建築物など、美しいプラハの街並みを作り上げたのは、1346年、ボヘミア王となったカレル4世だ。同時に神聖ローマ帝国の皇帝でもあった彼により、今日見られるプラハの街が形成された。

プラハを訪れる者を引きつけてやまないのは、今なお中世の面影をとどめる街並み、そして気軽に芸術に親しめる環境だろう。ボヘミア国民音楽の父と称されるスメタナの名を冠したスメタナホールをはじめ、大小さまざまなシアターやホールが町中に点在しており、クラシック音楽やバレエを、まるで映画でも見に行くように気負いなく楽しめる。プラハはまた、実存主義文学の先駆者であるフランツ・カフカや、宗教改革者のヤン・フスらを育んだ街でもある。

あの音楽の授業から十数年経ったある春の日、私はカレル橋の上からヴルタヴァ川の流れを見下ろしていた。やがてエルベ川と名を変えてドイツを貫き、海へたどり着くその川は、思い描いていたそれよりも幅広く豊かに、蕩々と流れている。その姿をぼんやりと眺めながら、「ヴルタヴァ」の旋律を幾度となく口ずさんだ。


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