COTE D'AZUR / GRASSE
コート・ダジュール/グラース

2/16/2003


A男は明日から3日間にわたり朝から晩までカンファレンスに参加せねばならないので、今日(日曜日)が唯一、南仏で遊べる日だ。しかしながら、目ざめるなり小雨混じりの曇天。しかもやたらと寒い。手袋もマフラーもなければ傘もない。何という準備の悪さ……。ホテルで傘を借りて、ひとまず観光案内所へ。

検討の結果、カンヌから20kmほど内陸に入ったGRASSE(グラース)という香水で有名な町へ、バスで出かけることにした。ちなみにグラースは画家フラゴナール(油彩「読書」は日本人にもなじみのある絵ではないだろうか)の出身地で、街にはフラゴナール記念館もある。時間が足りなかったので、今回は行かなかったけど……。

グラースに立ち寄ったあとは、カンヌから西へ10km弱のMANDELIEU(マンデリュー)というカジノのある町で「ミモザ祭り」があるというので、訪れることにした。


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灰色の雲に覆われた空。雨がしとしと、風が冷たく、少々がっかりな気分の朝。観光案内所を訪れ、ひとまずは香水の街グラースに行くことにした。

グラース行きのバスは1時間に1、2本。次のバスまで少し時間があるから、まずは朝食をとろう。

バス・ターミナルの近くにあるカフェで、慌ただしい朝食。プロヴァンス名物のパンとエスプレッソで軽く。

本当は食べる前に、飲む前に、写真を撮るべきだったのだが、うっかり忘れていた。旅の写真日記を作ろうと思った矢先だったのに……。

バスで香水工場へ。その名もフラゴナールFRAGONARD。本当はグラースの町中にもあったのだが、運転手さんと意志疎通が図れず、手前の町にある工場でバスを降りてしまった。あとからタクシーを呼ぶ羽目に……。

工場内は理科の実験室のような感じ。

香水の製造工程を説明するツアーが、一定時間おきに出ているのだが、英語ツアーのタイミングをはずしてしまい、なんだかよくわからないまま工場内をうろうろと歩く。

たまにA男がフランス語のツアーガイドがしゃべっている言葉を理解して、説明してくれる。

A男が聞き取ったところによると、このように植物の油脂に花をくっつけて24時間置いておくと、油脂に花の香りが移るのだそうだ。

世界各地から集められる香水のもととなる植物の図。日本(JAPON)から届いているのはOSMANTHUS……モクセイだ。

金木犀の香りが急に懐かしく思えてきた。

ラベンダーの花の部分が、木枠の中に広げられ、乾燥させられている。いい香りがする。

これは蒸留・精製の設備とみた。

最後はショップでお買い物。香水以外にも化粧品、石鹸やキャンドルもある。

「気に入った香りがあったら買えば?」とA男は勧めてくれるけれど、あれこれと匂いを嗅いでいるうちに頭がくらくらしてきて、識別不能に。購入断念。

工場からタクシーを呼んでもらい、GRASSEの街へ。ここを1時間ほど散策した後、ランチを食べて、「ミモザ祭り」に出かけることにした。

丘の上から街並みを見下ろせる。とても眺めのいい高台だ。

地中海沿岸のプロヴァンス地方は、海岸線から少し離れると、瞬く間に斜面が広がる。まるで山裾が海に流れ落ちているような塩梅だ。

だから少し内陸に入っただけで、海辺の風景を「見下ろす」格好になる。

日曜日だからお店が全部閉まっているのが残念! 

平日ならば、香水や石鹸を売る店が開いているのだろうけれど……。

建築に関して詳しいことはわからないけれど、このあたりで見られる四角柱の鐘楼はイタリアのトスカーナ地方のものと酷似している。ちなみに14〜15世紀のイタリア、サンジミニャーノやアッシジでは、鐘楼が富の象徴だったらしく、競って高く造られたという。今でもその名残で、それぞれの町にいくつもの塔が残っている。

四角柱は、ワールドトレードセンターの形に似ているとも思う。

赤茶色の甍の波も、地中海らしい風景。形といい色合いといい、京都の「八つ橋」に似ていると思うのは気のせいか。

列車で移動しているときに瓦の工場を通り過ぎた。赤土の山がどっしりとあった。この地域ならではの粘土だろうか。

アメリカでは見かけることのない、ヨーロッパならではの、路地。

思いがけないところから小道がのびていて、ついつい迷い込んでしまいたくなる。

外に吊された洗濯物や、ドアの前の自転車や、窓辺の鉢植えなどが、土地の人の息吹を静かに伝えてくれる。

かわいらしいカフェを見つけたので入ろうと思ったけれど、ここも日曜で休業。

木の彫刻が優しい雰囲気の、教会のドア。天使のモチーフがいい。

これがその教会。やはりイタリアの、バジリカ様式の建築だ。

ちなみにMUSEEとは、英語で言うところのMUSEUM。つまり美術館・博物館の意味。ギリシャ語のMUSEが語源だ。

そろそろミモザ祭りが始まる時間なので、グラースを離れる前に小さなカフェでランチにする。

アメリカで飲むペリエよりもおいしく感じるから不思議。新鮮だから、か。それとも周りの空気のせいだろうか。

この店のクロック・ムッシューcroque-monsieur(フランスの一般的な軽食)がおいしかった! 食べてる途中で見苦しいが、思わず撮影。トーストの上に生ハム、そしてチーズを載せて焼き上げたもので、ふんわりとした舌触りがなんとも言えずいい具合。ちなみにクロック・マダムcroque-madameはさらにこの上に、目玉焼きを載せたもの。

木のボードの載せて出されたピザトースト。イタリアのアシアゴ(ASIAGO)チーズの上に、粘りけのあるマッシュルームが……まさにナメコではないか! フランスにもナメコがあったとは。A男はとても気に入った模様。ちなみに彼がナメコを食べるのは、かつて河口湖で「ナメコ入りほうとう」を食べて以来のこと。

食後はタクシーでカンヌ郊外の小さな町で開かれている「ミモザ祭り」に行った。ミモザに覆われた「花電車」風の山車(だし)が次々に現れる。

山車から投げられるミモザの花を、沿道の人たちがキャッチする。花をつかんだ人は今年一年いいことがある、とかなんとかいう言い伝えでもあるのだろうか、みな相当な真剣さで、花を取ろうとしている。それにしてもこの山車……。ジョーズ?

おばさま方、寒空の中、楽しそうに、三人三様にダンシング! 山車はご覧の通り「海」に関連するモチーフのものが多い。

中世時代から変わらぬ祭りの衣裳……といった感じの奇妙なファッション。丸っこい胴体に、どういう意味があるのだろう。

「花をもらったらきっと幸運が訪れるんだよ」と適当なことをA男に言ったら、真剣に花をもらおうとし始めた。

信じる者は救われる!

パレードが行われているのは海に面したプロムナード。海風が吹きあげ、一帯はかなり寒く、じっと立って眺めているのはつらい。うろうろと歩きつつ、体温を温存。

しかしA男は寒さをも吹き飛ばす熱意で「ミモザもらい」に集中している模様。

キュートな女性が投げてくれるのを待ち受けていると見た。

やったぜ! かなりの収穫だ。
これで今年の幸運は間違いなし!

でも、色合いといい雰囲気といい、わたしにはミモザが「セイタカアワダチソウ」に似ていると思われ、花粉が身体に悪そうだという印象があり……。

今ひとつ好感を持てないのである。

ミモザをたくさんもらってハッピーなA男とパントマイムのお兄さん。

それまで硬直状態だったお兄さんだが、足もとの帽子にコインを投げ入れたら、突然動き出した。子供も寄ってきた。

そこで記念撮影。

これがミモザ。小さなボール状の花で、まさに花粉の塊。かわいいんだけどね。

花粉症の人には耐えられないイベントだと思われる。見るからに鼻がむずむず、目がしばしば、という感じ……。

この街の岬に立つ小さなお城。

すっかり身体が冷え切ったところでクレープスタンドを発見! なんともいい香りが漂っている。これを見過ごすわけにはいかないだろう。

一枚が結構大きいから半分ずつにしようと提案したが、即刻却下された。A男はしっかり一枚食べたいらしい。

いろんな種類があるけれど、わたしたちはコアントローとグラン・マニエ味をそれぞれ一つずつ頼んだ。

どちらも、半月型に折り畳んだクレープの上にグラニュー糖をまぶし、その上からリキュールをふりかけて、更に折り畳む。グラニュー糖の少しざらっとした舌触りと、フルーティーなアルコールの風味が何とも言えずおいしい。かなりおいしい。「もう一枚!」 と言いたくなる。

湯気を立てながら焼き上げられるクレープはいかにもおいしそう。スタンドの前には長蛇の列だ。でも一枚一枚丁寧に焼いているから、待ち時間が長い。

これはヌテラという、ヘーゼルナッツとチョコレートのスプレッド。フランス版ピーナッツバターというところか。とても人気があって、クレープだけでなくトーストなどにもつけて食べる。でも原産国はオーストラリアらしい。

ミモザ祭りからタクシーでホテルに戻った後、しばらく休憩して夕食に出かけた。ハーバー沿いにすてきなレストランを発見。この店は「おいしい料理を出してくれそう」な雰囲気が漂っていた。

これはコース料理の主菜に出されたミニサイズのブイヤベース。でもとても大きい。ブイヤベースはガーリック風味のマヨネーズ(アイオリ)とチーズ、乾燥したバケットのスライス(クルトン)と共に出される。

今日のワインは白にした。

ハウスワインながらとても爽やかな風味でおいしかった。ちなみにハーフボトルだが、ややサイズが大きめで13ユーロ。

フランスはワインがリーズナブルでおいしいのがうれしい。アメリカにもリーズナブルでおいしいワインはあるけれど……。

ハーバーを眺められる店内。赤と黄色を貴重にした店内のリネン類がプロヴァンスらしいムードを醸し出している。小さくてアットホームな店ながら、料理はどれもおいしくて感激だった。

コース料理を一つと、主菜を一つをオーダーし、それぞれ二人で分けたのだが、少な目にオーダーしたつもりでもかなり満腹になってしまう。

コースメニューに付いてきたティラミス。これも二人でわける。ティラミスはほとんど「生クリーム」状態でかなりふわふわ。

宿泊しているEDEN HOTELを記念撮影。これはラウンジのバーカウンター。

こちらはラウンジ。かなりシンプルでモダンなインテリア。でも冬のせいか少々寒々しい。部屋のエアコンもいまひとつ効きが悪くてどうにも寒い。

●クレープ●クレープの発祥地はフランス北西部のブルターニュ地方。そもそもはライ麦やソバ粉しか収穫できなかった貧しい時代のパン代わりだった。ソバ粉を使った「食事」としてのクレープ(「ガレット」と呼ばれる)が起源で、小麦粉が使われるようになったのはここ百年ぐらいとのこと。一般に小麦粉のクレープはデザート用に使われる。

かつてブルターニュからパリのモンパルナス駅周辺に出稼ぎに来ていた女性たちがクレープ店を出したことが、パリにクレープを定着させるきっかけになった。モンパルナス周辺には、今でもデザートではなく食事としてのクレープを出すレストランがある。

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