■ボストンから空路ラスベガス、レンタカーでザイオンへ
さていよいよ、今日から本格的に、インド人家族との旅行が始まる。父ロメイシュ、姉スジャータ、その夫ラグバンも加わっての5人で行動となる。
早朝起床、7時過ぎの便でボストンからラスベガスまで飛ぶ。前夜は飲み過ぎた上に夜遅く就寝で睡眠不足。機内で少しでも眠りたかったのだが、あいにく満席、しかも周囲は騒がしい「大家族連れ」。
席もバラバラだったから、一人、騒がしいただ中に身を置き、ろくろく眠られず。子供が騒ぐならまだしも、大人が騒ぐからやってられない。著しく体調不良である。
ボストンとラスベガスはマイナス3時間の時差。よって正午ごろ、ラスベガスの空港に到着する。ようやく着いた、ホッと一息……するまもなく、直ちにレンタカーを借り、一路ザイオン国立公園を目指す。3時間以上のドライブである。
借りた車は4WB(フォードのエクスプローラ)。自分の車以外を余り運転したことのないA男なので、最初はわたしが運転するというのに、僕が運転したいと言い張る。そのくせ「危険なこと」をしでかすものだから、こらえ性のないわたしは疲労も加わり、怒り(どなり)の口調。
昨日の反省もいずこ、早くも口論となり、わたしは旅のしょっぱなで、すでに「鬼嫁」の印象をインド人一家に植え付けた模様。ああ、もう、知るかい!
だいたい、疲労と空腹が重なるだけで、不機嫌になってしまうわたしたちである。自制心がないのよね〜。
(わたしという人間は、ほんと、我慢が足りない)と思いつつも、しかし意地っ張りな姿勢は崩せず、かなり長いこと、心中にてブーたれ続けていた。大人げないことしきり。とほほ。
それに引き替え、スジャータとラグバン。二人して蚊の鳴くような小さい声でしゃべるし、静かだし、のんびりだし、感情を表に出さないし、ましてや喧嘩をしてるところなど見せないし、ともかく、まあ、「穏やか」なのだ。
わたしとA男の喜怒哀楽の表現レベルが
喜=====================================
怒========================================
哀=============================
楽===================================
とすると、ラグバンとスジャータの表現レベルは
喜===
怒
哀=
楽===
といったところか。ともかく、両極端なカップルなのである。だから「感情をあらわにするわたしって、ほんと動物的でアホみたい」と反省させられるのだが、次の瞬間、忘れている。
そんなこんなで、道中、ドライブインでランチを取り、ひたすら走り、夕刻、ようやくザイオン国立公園へ。ちなみに宿泊予定地は公園内ではなく近隣の町であるスプリングデールだ。
ここでもおんぼろモーテルが予約されており、その外観を見た瞬間にわたしは全身脱力、疲労の極みに達し、まるで貝のように口を閉ざしてしまった。予約した彼らの前で「こんなぼろい宿、いやだ!」とも言えず、黙るしかなかったのである。
だいたい、ボストンでの2泊、あの埃っぽくてベッドがぎしぎしときしむおんぼろの宿に泊まったことも、熟睡できず疲労の原因なのだ。治りかけていた腰もまた痛みはじめて、ともかくひどいコンディションゆえ、貝になったとしても、不思議ではない。我ながら。
うつろな目をしたわたしに、このままじゃまずいと思ったのか、A男がやんわりと、宿の変更を申し出、ほぼ円満に、他のホテルに移ることができた。小さな町なので、よさそうな宿はすぐに見つかった。
リーズナブルでそれなりに快適なベスト・ウエスタンチェーンのリゾートである。幸い空室もあった。冷房の効いた清潔な部屋で、寝心地のいいベッドに横たわった瞬間、涙がにじんだ。つくづくエモーショナル(感情的)なわたしである。
夕食までの時間、プールに行き、ジャクジーで身体の疲れをほぐし、ようやく人心地を取り戻して、「この街一番」との評判のイタリアンレストランへ。
期待はしていなかったので、いまいちな味でも特に不満もなく。だいたい、アメリカの「内部」、しかも国立公園界隈でおいしいものを食べようというのは、至難の業である。
ホテルに戻った後、爆睡する。