■マックス&カラの結婚式は町はずれの樹木園にて行われた
エンジニア(工学者)であるマックスとサイエンティスト(科学者)であるカラは、オリジナリティにあふれる結婚式を企画していた。招待状をもらったときには、思わず笑ってしまった。なぜなら
「結婚式を行う樹木園から、披露宴会場まで、約1時間、サイクリングをします。一緒にツーリングしたい人はご連絡ください」とあるのだから。
「サイクリング王」であるマックスは、これまでも相当の長距離を自転車で行き来してきたから、1時間くらいなんのその、なのである。だからって結婚式に自転車を取り入れるとは、尋常ならない。
それでもってパートナーのカラも彼とその趣味を共有できているところがすごい。
さて、当日は曇天のボストン。雨を気にしつつ、午後3時過ぎ、結婚式の会場である樹木園へ向かった。式は緑の草原の一画で、参加者が輪になって行われた。
仲間たちによる手作りの結婚式に、教会の祭司はいない。友人らが司会、進行、そして独自のスタイルで「誓いの言葉」や「指輪の交換」を行うのだ。なんともほのぼのと、温かみのある式だろう。
司会者がマックスとカラの「なれそめ」などを読み上げている間、マックスの目から涙がポロポロとこぼれていた。ちなみにカラは平常心の表情である。
約1時間ほどで式は終わり、さていよいよ、ツーリングである。驚いたことに、参加者約80名のうちの約半数が自転車で披露宴会場に行くという。みんなバックパックなどを背負ってきていて、木陰で着替えてヘルメットを被り、小雨のなか、颯爽と走り出した。
マックスとカラは、気のあった、いい友人らを持っているのだなあと、しみじみ感じ入る。
ところで主役の二人は特製自転車で、正装のまま街を走り抜けるらしい。なんとユニークなことか。
ヤワなわたしとA男は、タクシーで会場のあるハーバード・スクエアへ。パーティー開場の時間まで、カフェでしんみりと語り合う。
常日頃から、なにかと喧嘩の絶えないわたしたち。
「マックスとカラは、喧嘩なんてあまりしていなさそうだよね」
「マックス、幸せそうだよね」
「それにひきかえ、わたしたちは……」
などと言いつつ、我が身を振り返るひととき。
2年前のわたしたちの結婚式。すでに出会って5年目で、初々しさなどほとんどなく、しかもインドのニューデリーで、ハチャメチャなノリの毎日。「厳粛な気持ち」になんて少しもなれず、式の最中も「妙な式次第」がおかしくて、笑いをこらえていたわたし……。
もう一回、結婚式をやり直したい。厳粛な気分で。しかもウエディングドレスで、などと思いを巡らす。
■披露パーティーは、ミュージアムのパティオで。
パーティーは、ハーバード・スクエアのはずれにあるミュージアムのパティオで行われた。天井が高く、外光が降り注いでくる、とてもすてきな空間だ。
入館してしばらくの間は、ワインなどを飲みつつ、他のゲストらと語り合う。バンドの音楽が流れ始め、参加者が集まったところで、指定されたテーブルに着く。
メニューはベジタリアン。ブルーベリーのスープに始まり、ホウレンソウとアルギュラのサラダ、そしてワイルドマッシュルームなど野菜のロースト。いずれも上品で繊細な味わい。
同席のゲストたちと語り合いながらの食事は楽しく、途中、ちょっとした出し物やスピーチなどもあり、いい雰囲気で時が流れる。ケーキカットのあとは、バンドの演奏に合わせてのダンス・タイム。
みんな踊る。
スジャータとラグバンも踊る。
ロメイシュと誰かイタリア人のおばさんも踊る。
わたしとA男も踊る。
もちろん、マックスとカラも、手を取り合って踊る。
飲んでは踊り、語っては踊り、瞬く間に夜が過ぎていった。