ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー
Vol. 9 10/16/2000
メールマガジンを発行し始めて、たくさんの方々から質問、意見、指摘、感想のメールをいただいています。すべてにお返事はできませんが、全部きちんと拝見しています。さて、その中に、以下のような質問がありました。 <筆者がワシントンDCへ行かれた際、NYのコリアンモールで購入したニラを調理されたことが、私には理解できませんでした。ひょっとして、食材(カレイまで?)を持って出張へ行かれたのでしょうか? DCでは、調理のできる宿泊施設に泊まられたのでしょうか? しかも、そこには和食用の調味料などが揃っているのでしょうか?> 私はホームページの方にもエッセイや日記を掲載していているため、そちらで説明している事情はこのメールマガジンでは省いていたのですが、メールマガジンの読者の方すべてが、ホームページをご覧になっているとは限らないわけで、理解しにくい文章があったかと思います。今後はホームページに書いていることも重複しますが掲載していきます。 さて、質問の答えですが、記事に書いていたコリアン・スーパーマーケットはマンハッタンではなく、ワシントンDCのものです。現在、私の仕事及び生活の拠点はマンハッタンですが、この春、MBAを卒業したA男の就職がワシントンDCに決まりました。これを機に、私もマンハッタンだけではなく、ワシントンDCでも仕事をすることにしました。 A男の住居の一画に、弊社のオフィスを設置し(デスク、電話、コンピュータ、ファックスなどを揃えた程度ですが)、月に何日か滞在し、仕事をしている次第です。ですから、キッチン(換気扇付き!)で調理もできるし、醤油にみりん、味噌、酒、その他、和食用の調味料もばっちり揃えています。 私は人からよく「行動力がある」と言われますが、さすがにカレイやニラをマンハッタンからワシントンDCまで運ぶ熱意はありません。まあ、これは行動力とは別の問題でしょうか。
★穏やかな週末 今日は日曜日。今週は、後半から暖かくなり、昨日、今日ととてもいい天気だ。スーパーマーケットやデリ(デリカテッセンの略:食料品店)の店頭には、ハロウィーン用の大きなオレンジ色のカボチャがゴロゴロと陳列され始めた。ニューヨークの秋空は、いつもに増して深い青。ただ、眺めているだけで、すがすがしい気持ちにさせられる。 昨日の朝、目覚めると、太陽の日差しが暖かく部屋に差し込んでいた。健康にいいからと日本から送ってもらっている「スギナ茶」を大きなマグカップに入れて飲みながら、週末版の分厚いニューヨークタイムスを広げる。 細かい記事を読むのは面倒なので、ARTのセクションの映画やミュージカルの情報などに目を通す。夕べ、週末をマンハッタンで過ごすためにDCからやって来たA男は、同じくスギナ茶を飲みながら、眉間にしわを寄せてMONEY & BUSINESSのセクションを読んでいる。ベンチャー・キャピタリストである彼は、世界情勢と株価の変動に、敏感でなければならないのだ。 余りの天気のよさに、セントラルパークでのんびりしようということになった。アッパーウエストサイドには、パンケーキやワッフル、フレンチトーストなどの「ブランチ」がおいしいレストランがたくさんあり、週末のブランチタイムには長蛇の列ができる。その店のいずれかで食事をしようかとも思ったのだが、それよりも外で食べる方がおいしいかも、ということで、デリに向かった。 最近、近所にできた「BALDUCCI'S」というイタリア系の高級デリだ。ダウンタウンのウエストビレッジに本店があり、こちらはいつも大盛況だが、うちの近所の店はさほど込んでいない。チーズにパン、お総菜、生鮮食料品、各種調味料、菓子類など、イタリアをはじめヨーロッパの食材もたくさん揃っている。全体に値段が高いけれど、ここのお総菜を食べたことがなかったので、試しに買ってみることにした。 紙袋を下げてセントラルパークへ向かう。目指すは広大な芝生の広場 「SHEEP MEADOW」。訳すると羊の牧草地。もちろん羊はいないが、その代わり大勢のニューヨーカーたちで賑わっている。 ビキニ姿で読書する女性、上半身裸で汗をだらだら流しつつ日光浴する男性、赤ちゃんと戯れる夫婦、抱き合いつつ激しい接吻を繰り返す熟年カップル、ランチを広げる大家族のグループ、ギターを弾き語る男性、フリスビーに興ずる若者、熱く見つめ合うゲイのカップル、バック転をしては周囲の喝采を受ける若い女性、ラジカセから流れるメロディーに合わせ踊る男の子……。 それぞれが思い思いに太陽の光の下、気持ちよさそうに過ごしている。みなが本能の赴くまま行動しているので、さながら動物園のようでもある。 マンハッタンという都市において、セントラルパークの存在意義は本当に大きいと思う。地図を見ていただくと分かるとおり、マンハッタン島の中心に横たわるこの広大な公園には、森や湖、動物園などがあり、豊かな自然に満ちあふれている。ニューヨーカーはジョギングをしたり、イヌの散歩をしたり、ぼーっとくつろいだり、この公園を存分に満喫している。私がニューヨークにひかれる理由の一つが、この公園の存在でもある。セントラルパークについては、いつかまた改めて書きたいと思う。 さて、多くの人たちが、直射日光を受けたがるので、木陰は比較的空いているから、私たちはお気に入りの木の下にランチを広げる。BALDUCCI'Sのお総菜は値段の割においしくなかったから、詳細は省く。おにぎりにすりゃあよかった。 お腹いっぱいになったら眠たくなったので、ごろりと横になり、梢の向こうに広がる青空をぼーっと見つめる。飛行機が、飛行機雲を作りながら、空を横切る。広告用のゴンドラが浮かんでいるのも見える。誰かの手を放れた緑色の風船が、どんどん青空に吸い込まれていく。 A男は先ほどから、熱烈に抱擁している熟年カップルが気になってしようがないらしく、チラチラと眺めては「あー、まだキスしてる」とか、「うわっ、おっぱいまで触り始めた!」とかいちいち報告するからうるさい。 「そんなにジロジロ見ないの!」と言ったものの、人目を気にせず公の場で過激に抱き合う大人がいて、それを誰も気にしないというのがこの国で、やはり動物園のようである。 そよそよと吹く風が気持ちいい。そのうち深く寝入ったらしく、ふと目覚めたら太陽が傾いていた。1時間30分も寝ていた。お腹の上に、枯れ葉が数枚、落ちていた。まだ眠りたいというA男を起こして公園を離れる。 夕方は、五番街を散策。CLUB MONACOというブティックで、すてきなチェック柄のパンツを発見。普段はWOODBURY COMMONという郊外にあるファクトリーアウトレットでまとめてショッピングをするのだが、今日はなぜだかどうしても欲しくなり、試着をして買った。ちなみに、クリントン大統領の愛人として一躍有名になったモニカ・ルウィンスキーが、以前、テレビのトーク番組に出演した際、CLUB MONACOのレッド系の口紅をしていたとかで、その口紅が爆発的に売れたという話を聞いたことがある。アメリカ人は流行にあまり左右されない印象があったので、そのエピソードにはちょっと驚いたものだ。 ロックフェラーセンターの一画にある「紀伊國屋書店」で日本の雑誌を数冊買い、その近くにある和菓子店「源吉兆庵」で、どらやきや大福などを購入。A男は好物のカステラを、DCに持って帰ると言って買っていた。夕食後のデザートにするらしい。途中、近所のタイ料理レストランで、ビールを飲み、牛肉のサテー(串焼き)、パッド・タイ(タイ風焼きそば)などで軽く夕食を取る。 帰り道、ビデオショップで「GHOST DOG」という、ジム・ジャームッシュ監督の映画を借りる。主人公の黒人男性(殺し屋)は、サムライに心酔しており、武士の道徳を著した「葉隠」を座右の銘にしているというストーリー。 途中、芥川の「羅生門」「藪の中」などもキーワードとして登場する。ユニークな映画だった。 非日本人、特に欧米人の目から見る日本人とその文化は、当の日本人からすれば何とも奇妙に映る。海を渡ると過去と現在の情報が混沌するから、なおさらである。無論、日本人が異国に対して抱いているイメージもまた同じようなものだろう。「異文化」とは、さまざまな誤解や思い込みの上に解釈される性を持っているのだ。 これだけメディアやインターネットで海外の情報を入手できるようになっても、やはり実際に見ると聞くとでは、驚くほど違う。また、伝える人間の視点によっても解釈が変わってくる。世界とは、本当に、広いものだ。
●Comment. 9(S.Oさん) いつも楽しんで購読しています。さて、VOL.8記載のロックフェラーの点灯式ですが、12月1日というよりも、例年12月の第1週目の水曜日だと思います。今年は事情で11月29日と発表されていると記憶しております。 >>ご指摘ありがとうございます。私の間違いでした。今年はS.Oさんのおっしゃるとおり11月29日水曜日、夜の9時ごろに点灯されるそうです。ちなみに点灯にあたってのセレモニーは午後7時から開催されます。
●Comment. 10(T.Nさん) 貴メルマガの内容は、筆者の実際に体験されていることの実況中継で、非常に興味深いです。あえて観光客むけに有名スポットやイベント紹介などをせず、NYの日常生活を書いてらっしゃることに賛成です。個人で定期的にメルマガを出しつづけることはかなりのエネルギーを必要とすると思います。実際、個人の生活が忙しく時間がなくなったり、ネタ切れや根気がなくなって急に間隔が空いたり、短期間で自然消滅状態となるメルマガが沢山あります。貴メルマガには是非、一定期間続けていただきたいと思っていますそのためにも、少し出し惜しみ(?)して、非常用に書き溜めしておかれたらと余計な心配をしております。(一部抜粋) >>どうもありがとうございます。私の場合は、よくも悪くも仕事とプライベートの境目がつけにくい生活ですから、仕事が立て込むとメールマガジンの方に時間を割くことができなくなります。一時中断する可能性もあります。ただ、こちらに来て4年たちますが、日々さまざまな出会いや発見があり、書きたいことはたくさんあるので、ネタが尽きるということはありません。今日はニューヨークの寿司の話題を書こうと思っていたのが、日記だけでいっぱいになりましたし……。 読者の方にとっては、多分定期的に届く方がいいのでしょうが、書き溜めるというのも、内容に時差が出てしまうので、実現しにくい気がします。仕事はもちろん、muse new yorkの発行などは、もちろん気ままにするわけにはいきませんが、このメールマガジンは趣味の延長で発行していますから、「書きたいことを書きたいときに」という気分で、続けていきたいと思いますので、ご理解ください。 |