坂田マルハン美穂のDC&NYライフ・エッセイ

Vol. 76 7/14/2002

 


瞬く間に7月も中旬。一時期は猛暑だったアメリカ東海岸ですが、ここ数日は涼しく過ごしやすい日々が続いています。

DCに移って以来、さまざまなパーティーやイベントに参加する機会が増え、知り合いもずいぶん増えました。かつてはA男と別々に生活していたので一緒にパーティーに参加する機会などは少なかったのですが、最近は二人揃って出かける機会が増えました。

わたしの場合はニューヨークで一人暮らしをしていても、仕事柄、いろいろな人と出会う機会が多かったけれど、会社勤務のA男はプライベートの付き合いに発展する出会いがほとんどありませんでした。しかし最近になり、彼も仕事抜きでリラックスできる付き合いが増えてきたのは、何よりだと思います。

先週は、新たに日印カップル(妻日本人、夫インド人)の知り合いができました。わたしの知人を介して、彼らのホームパーティーに招かれたのです。

そこでもまた新しい出会いがありました。特にA男はフレンドリーなインド人男性たちとの会話に盛り上がり、おいしいインドの手料理に喜び、とても楽しそうでした。

パーティーなどで新しい人に出会うということは、そこで自己紹介をしあったり、お互いの話の接点を探ったりと、それなりにエネルギーのいることではありますが、同時に得難い出会いに発展することもあります。 

ニューヨークにいたころは、ほとんどの出会いが「仕事を通して」だったのが、こちらに来てからは、仕事抜きでの出会いが増え、それなりに貴重なネットワークが広がりつつあり、これはこれでいいものだなと感じています。

さて今日は、独立記念日の連休の出来事について、です。

 

●独立記念日、ヴァージニア・ビーチに行って来た。肥満した人々についての考察。

7月4日はアメリカの独立記念日だった。今年の4日は木曜日だったから、金曜日を休みにして4連休をとる人も少なくなかったようだ。A男もまたその一人。連休とはいうものの、取り立てて予定を立てていなかったのだが、直前になってビーチに行こうということになり、ヴァージニア・ビーチのリゾートホテルに2泊3日の予約を入れた。

ヴァージニア・ビーチはワシントンDCから車で南へ走ること約4時間。ヴァージニア州の州都であるリッチモンドを経由して、東へ向かう。ヴァージニア州は、日本人にとってあまりなじみがないかもしれないが、アメリカ建国の舞台となった街が点在し、歴史的な見どころも数多くある。

リッチモンドにほど近いウイリアムズバーグは、英国植民地時代の首都として栄えた街。かつてさまざまな政治機関や大学などが設立され、コロニアル文化が花ひらいた。

現在は、「コロニアル・ウイリアムズバーグ」と称された大規模な歴史テーマパークが設立されており、そこで往時の面影をしのぶことができる。「コロニアル・ウイリアムズバーグ」では、建造物も、人々の衣裳も、レストランの食事も、18世紀植民地時代のままに再現されているのだ。

わたしたちはこれらの街をハイウェイで通過しながら、午後、ヴァージニア・ビーチに到着した。大西洋に面し、延々と南北に伸びるビーチ。目抜き通りにはレストランやショップが軒を連ねている。連休を利用して訪れる家族連れで、界隈はひたすら賑やかだ。

わたしたちが予約を入れていたのは、北端にあるリゾートホテル。プライベートビーチがあるというのでここを選んだ。

ビーチでビールを飲みながら本を読んだり、浮き輪を買って、A男と二人、波間を漂ったり(かなり波が大きいので、途中何度も頭から波に飲まれる)、ボードウォークを歩いたり、目抜き通りを散策したり、束の間の休暇を楽しんだ。

楽しんだ。が、いやなこともあった。このメールマガジンは、「よかったこと」よりも「悪かったこと」を書いた方が読者からの反応が高いので、だからというわけでもないが、そのときの日記を抜粋する。

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夜は、このあたりで最も「まとも」と言われているレストランの一つとることにした。宿泊しているホテルのレストランだ。11階のレストランからはビーチを一望できるのだ。なにしろ今日は7月4日。独立記念日である。花火の打ち上げを見られるではないか。

きちんとした服に着替え、アクセサリーを施し、ビーチとは違った気分でレストランへ向かう。結論から言えば、レストランの雰囲気は灯りも低く、ムードがあり、とてもよかった。予約を8時半まで待っただけあり、窓際の席に通してもらえた。しかし、料理はひどかった。値段はかなりいい。しかし、値段を考えると許せぬほどまずかった。

パスタとシーフードを頼んだが、パスタはそこいらのダイナーよりひどいんじゃないかというくらい、柔らかく茹で上げられたものだった。茹でて更に蒸した、って感じで、口当たりが「モワッ」としている。

シーフードも過剰なバターで味付けられていて、ベタベタしていて、何が何だかわからない。

それでも、ワインはまあまあおいしいのを選んだし、雰囲気もいいし……。と思いつつ、花火が打ち上がるのを待っていた。

ところがどっこい。花火が始まった途端、レストランの中央でパーティーをやっていたグループの老若男女がいっせいに窓辺に駆け寄り、わたしたちのテーブル間際にある全面の窓ガラスを覆い尽くしてしまった!

その前にも、子供たちが店内を走り回っていたので、ウエイトレスを通して注意してもらっていたのだが、大人がこれだからかなわない。

「こういうきちんとした場所では最低限のマナーを守るべきだ」という思いと、

「7月4日という特別な日だから」という思いと、でもやっぱり

「この、田舎もんのデブ軍団めが!」という思いとが入り交じり、相当に不愉快。

そんなに花火が見たいなら、外に出ろ! ビーチから見ろ! まずい食事を優雅な気分で食べようと努力している身にもなれ! と思うものの、口には出せず。

今日が7月4日じゃなければ言うんだけれど。っていうか、7月4日だから花火が打ち上げられているのだが……。

だいたい、なんで花火のかわりに、ずらりと並んだどでかいお尻を見ねばならぬ。

わたしたちの怒りに満ちた表情に気がついたのか、グループの一味である老夫婦が「あなたたち、わたしたちに怒ってるでしょ?」という。

「あったり前じゃない! 聞くまでもないでしょ?! こんなに自分勝手でマナーの悪い人たちを見たことはないわ!」とわたしが息巻くと、少し反省したのか彼らはテーブルに戻っていった。どうせ戻るならみんなを一緒に連れて行け! 

ちなみに、レストラン中央は一段高くなっていて、彼らのテーブルからも、十分、花火は見えるのだ。

結局、自分たちのことしか考えられないのよね。ここがどういう雰囲気の店なのかもよく判断がつかない。

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今読み返すに、かなり熱いですね、わたし。マナーの悪い人がいるのは、日本もアメリカも同じ。どこの国も似たり寄ったりだ。そういう人に邪魔されて気分を害するのなら、こういう大衆的なリゾートには来てはいけないのかもしれないと思った。

さらに、ネガティブなコメントを連発するが、大勢の、過激な肥満者たちを見るのもかなり辛かった。着衣の状況ならまだしも、それが水着になると、なんだかもう、絶句する。

目抜き通りを歩きつつ、たとえばレストランやパンケーキ屋の店内をちらりとのぞき、アーヴァンドと二人で目を丸くしたことがしばしばだった。

大山盛りの生クリームに覆われたワッフルを頬張る子供。猛烈な厚みのパンケーキがふやけるほどシロップをかけて食べる老夫婦……。

大盛りのアイスクリーム、大きなカップに入ったジュース、油っこいスナック……。どこもかしこも、ジャンクフードを山ほど食べている人だらけである。

そして目に入る人の多くがコニシキ状態。ビーチでもそうだ。そんな大きな水着を、いったいどこで購入したのかと問いたいくらいだ。

マンハッタンやDCの中心あたりで生活しているとあまり出会わないが、ちょっと郊外に出ると激増する肥満者数。そういう人たちを目にするにつけ、アメリカは病んでいるとつくづく思う。まず、あれほどのボリュームの食料を摂取する異常さ。

大人の一日に摂取すべきカロリーは2000〜3000KCalくらいだろう。しかし彼らはどう見ても、10000 KCalくらい取っているだろうと思われてならない。アメリカの食品にはすべてカロリーが表示されているが、それを参考にしている人は、ごく一部だろう。

肥満の理由の一つに「貧富の差」を挙げる人も多いようだが、「感性の差」「知識の差」の違いが大きいだろう。

デブ王国が築かれてしまった原因の一つは、もちろん食べ物に関する知識、健康に関する知識のなさが大いに影響していると思われる。

気になって少し調べてみたのでいくつかを箇条書きにしてみる。

1. 米国の肥満による経済損失(医療費、雇用関連の損失)は1999年時点で年間2億5兆円と推定される。

2. 米軍では毎年3000人〜5000人の兵士が肥満のため除隊を余儀なくされている。

3. アメリカの学校ではこの20年間、家庭科の授業が廃止され、料理や栄養について学校で学ぶ機会がなくなった。

4. 中学・高校では体育の授業が廃止され、部活動をしない子供たちは運動をする機会がない。

3.4.にある通り、肥満はすでに子供時代から始まっている。赤ちゃんがミルクの次に与えられるのが、コーラやジュースで、離乳食の次に与えられるのがマクドナルドのハンバーガーやフライドポテトである。これで肥満しない方が不思議だろう。

これらの食生活は、対肥満だけでなく、基本的な健康状況や精神状態にまで影響

を与えているに違いない。

更に言えば、今回わたしがヴァージニア・ビーチでつくづく思ったのは、

この国の人々の「緊張感のなさ」だ。

「世界で最も強い国、アメリカ」の国民として、自分たちは絶対的に守られているという安心感が、動物的な緊張感のなさを生み、ひいては、デブ・パラダイスを育んでいるのではないだろうかと感じた。

少しばかり方向違いの豊かな文明によって、本能が麻痺してしまった、という感じ。

動物的本能に照らして言えば、なにかしらの危険が迫ったとき、走って逃げるのは不可能だぞ、という人間が、この国にはあふれている。20メートルも走れば心臓麻痺を起こすだろう。

スーパーマーケットに行けば「ファットフリー」「ローカロリー」をうたったさまざまな食品が並び、あらゆる食品にはカロリーをはじめ、栄養成分表が必ず明記されている。けれどそれを参考に食品を購入している人は、たぶん相当に少ないだろう。

一方、過激で短絡的な食事制限を伴う、主に西海岸、ハリウッドあたりに端を発するダイエット方法が雑誌などの紙面を常に賑わせている。

日本ならば、減量関連の商品広告に出てくるコピーが「5キロ、10キロ減量成功!」といったところが一般的だろうが、こちらの場合は「50キロ、100キロ減量!」などが一般的だからね。一桁違う。

日本人女性の、どこから見ても痩せているにも関わらず、「わたし、今、ダイエット中なんですう」などという意味不明な世界とは、話の次元が違うのだ。

話が長くなったが、肥満者多数の背景にはさまざまなアメリカ社会の問題が絡んでいると思えてならない。

 

●ビーチの帰りにアミューズメントパーク「ブッシュ・ガーデン」へも行った。

A男がビーチでガイドブックを読みながら、帰りに、ブッシュ・ガーデンへ行こうと言いだした。ウイリアムズバーグの近くにあるブッシュ・ガーデン。イタリアやフランス、ドイツ、スコットランドなど、ヨーロッパ各地の雰囲気を再現したヨーロピアンなテーマパークだ。

ホテルを早めにチェックアウトし、ランチタイムにブッシュ・ガーデンに到着した。各国のエリアには、その国の民芸品などを実演販売するショップやレストラン、そして遊具(乗り物)がある。

ちなみにこのパークはバドワイザー(ビール)の会社と同系列らしく、隣にビール工場があった。

ローラーコースター関係も3種類くらいあって、A男いわく、中には「アメリカで一番すごい」やつもあるらしい。なにがどうすごいのかはよくわからないが、三半規管が超過敏なわたしに、そんなものを乗るのは無理なので、取りあえずパーク内を散策することにした。

まずはアイルランドのエリアでランチを食べる。大きな大きなベイクドポテトにソーセージを挟んだスタッフド・ポテト、それにポークハムのスライス入りサンドイッチ。どれも意外においしい。もちろん、バドワイザーを飲みながら料理を楽しむ。

パーク内で働いている人の中には、ヨーロッパ各地からの「夏のアルバイト学生」が何人も見られた。国名を記したバッチをつけているのだ。

A男がひとりで乗り物に乗っているあいだ、わたしはショップを覗いたりして過ごす。A男が戻ってきてからは、しばらくドイツのエリアに入り浸る。中でも鳩時計のコーナーにしばらくいた。

A男は子供の頃からずっと鳩時計が欲しかったらしい。以前から、「いっしょに暮らすようになったら買おうね」と言っていたのだ。いろんな種類があって、どれもかわいいが、一番欲しいのは500ドルくらい。高い物だと1000ドルを超える。悩んだ末、取りあえず、もう少しリサーチしてから買うことにした。

その後、A男に強引に引きずられ、一番やわ、な感じのウォーターコースターに乗ることにした。丸太を模した乗り物に乗り、水の上を滑るように走るやつ。山場はわずか2回。ぐるぐる回るのではなく滑り落ちるだけだから酔うことはなさそうだと思ったのだ。

おっそろしい勢いで滑走するジェットコースターに比べると、とても生ぬるいムードに満ちた乗り物だったが、わたしには十分怖かった。服もびしょぬれになり、それなりに達成感も味わった。が、酔う暇もないくらい、短時間だった。

ちなみにここは夜10時まで開いている。わたしたちはDCまで帰らねばならないので8時頃出て、家路についた。

★コロニアル・ウイリアムズバーグのホームページ

http://www.history.org/

★ブッシュ・ガーデンのホームページ

http://www.buschgardens.com/buschgardens/va/

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インド関係のメールマガジンを発行している方から、相互のメールマガジンを紹介しましょうとの提案を受けた。理由はもちろん、夫がインド人だからだ。わたしのメールマガジンの読者の方々は、そもそもニューヨークに興味があったわけで、インドには特に興味がないと思われるのだが、偶然にも「インド好き」な方は、ぜひお訪ねください↓。

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