坂田マルハン美穂のDC&NYライフ・エッセイ

Vol. 75 6/30/2002

 


6月もまもなく終わり。いよいよ夏本番ですね。7月から8月にかけては、わたしとA男にとって、あれこれとイベントの多い季節です。

7月4日はアメリカの独立記念日でアメリカ全体が盛り上がりますし、7月7日はわたしとA男が初めて出会った日。7月18日は結婚記念日、8月9日はA男の誕生日、そして8月31日はわたしの誕生日……とまあ、いずれにせよ、個人的なイベントばかりですが……。

さて、前回の「歯医者」の話。予想外に反響が多かったので、今回もちょっとばかりご報告を。それから、今月はA男と一緒にマンハッタンに行ってきたので、そのときの様子もお知らせします。

 

●ついに笑顔レベル10! 取りあえず「仮り歯」だけど、見た目ばっちり。

とうとう銀歯とおさらばした。治療の前に、まずは、歯のクリーニング。クリーニング担当の女性と話をしていたときのこと。彼女、ややいぶかしげな顔をして言う。

「ミホ、あなたの英語は全然、日本人らしいなまりがないわね。アメリカ人の友達が多いの? それとも他の国の人と話すの?」

「アメリカ人の友人は少ないけど、夫がインド人よ」

「えっ? 何ですって!」

「インド人」

「インド人って、あのインド? アジアの?」

「そうよ」

「やだぁ! だからなのね! わたしはスリランカ出身なんだけど、あなたの発音が、たまーになんだか、親しみのある響きだから、不思議だなあと思ってたのよ」

(ええええーっ! わたしの発音がたまにインド人っぽい?! A男の英語はなまりが少ない方だと思ってたけど、やっぱり影響を受けてたのね。あうぅ……)

歯のクリーニングを終え、歯ブラシ、歯茎刺激用のゴム、デンタルフロスなどおみやげにもらい、いよいよ銀歯の取り替えへ。

この間と同じ、若い白人男性ドクターと、黒人のアシスタント男性により、治療を受ける。ラズベリー、ブルーベリーなど何種類かあるフレイバーのうち、チェリー味の「麻酔注射用・麻酔塗り薬」を歯茎に塗られ、麻酔注射を打って、いよいよ銀歯取り。アシスタントのおじさんは、BGMのジャズのリズムに乗りつつ、口内のバキュームを支える。

ガーガーギーギーと頭が痛くなる金属音をたてながらドクター、

「わぁお!! これって、銀っていうより、鉄だよなあ!」

「ほんとだ! ご飯食べてるとき、鉄の味、しなかった?」

二人、わたしの口をのぞき込みながら、言いたい放題。

 

そしてついにはずれた銀のカバー。ドクターは、診察室の前を通りかかった他のドクターを呼び止め、みんなしてそれを見る。

「うわ! これが日本の銀歯か。この形はまた、ユニークだ」

「これ、写真に撮って、学会の雑誌に投稿しようか」

「すごいなあ、なんでこんなもの、被せるんだろうなあ」

「ミホ、これどうする? 持って帰る?」

……。いらん。いらんよ。

さんざん言ったあと、アシスタントのおじさんは反省したのか、

「ごめんね。ちょっと僕たち、言い過ぎだよね」と一言。

別にいいけど。だいたい、口を開けたままじゃ、なにも言い返せやしないんだし。

ちなみに彼は昔、小児歯科の助手だったらしく、とてもやさしい雰囲気ではある。麻酔のとき、わたしの肩に手を置き、子守歌を歌ってきかせる母のごとく、リズムを取りつつ、気分を散らしてくれたりもする。

結局、隣の歯も虫歯が進んでいたらしく、そこの銀の詰め物も全部とってもらい、白い仮の詰め物を埋めてもらう。

何時間も口を開けたままで、もうへとへと。あごが疲れた。わたしの口は、見た目はふつうサイズだけど、伸縮性がないらしく、口の中も狭いから治療しにくいらしい。ジュリア・ロバーツの口を借りたかった。

それにしても、もう、キラリ! がないのだ。思い切りにっこりしても大丈夫。来月、きちんとしたクラウンができる。でも、今の仮の歯でも見た目は十分だ。

帰宅して、A男に見せると、

 

「ミホ! 全然違う! よかったねえ!」と喜んでいる。

その夜、ことあるごとに、ニカーッと笑顔を炸裂させていたら、A男が

「ミホ、やめて。scary! (怖いよ!)」

いずれにしても、怖いのね。

-------------

ところで、何名かの読者からの問い合わせがあった治療費や保険について、簡単に触れておく。歯のクリーニング、2本のクラウン付け替えで、今回、合計2268ドルだった。前回は検査だけで130ドルほど。ちなみに、わたしはA男と結婚したので、彼の会社の保険から治療費が下りる。

病院で一旦支払い、後に自分で保険会社で手続きをする場合と、病院側がすべて手続きをしてくれ、本人は支払う必要がない場合とがある。今回のドクターは、一旦支払わねばならなかった。

アメリカの医療技術は進んでいるが、医療保険の制度は非常に遅れているし、問題が多い。日本と違って国民健康保険のようなものがないのだ。医療費が驚くほど高く、しかし保険制度が整っていないから、個々人で任意に加入せねばならない。

勤務先の会社が福利厚生の一環で保険を整備してくれていればいいけれど、そうでない場合も多く、個人で高い保険料を支払って加入する必要がある。しかも、カバーされる項目が結構ややこしくて、歯科だけは別だとか、オプションで別料金を払わなければならないとか、何かと面倒だ。

わたし自身は結婚するまでの五年間、海外旅行者傷害保険を毎年更新していた。しかし、「旅行保険」である以上、あれこれと条件がある。もちろん歯の治療には使えない上、持病など長期間にわたる疾病には適用できない。

 

この五年間のうち、わたしは何度か歯科へ行ったが、そのたびに数百ドル、時には千ドルを超える治療費を払ってきた。歯も、懐も、ものすごく痛かった。しかし、歯科の保険に入って、毎月高額の保険料を払うよりは、安かったのは事実だ。

わたしがこうして潔く銀歯とおさらばできたのも、A男と結婚して保険が使えるようになったからこそ。である。

さらにDC界隈に住んでいる人から、わたしが行ったのはどの歯科か、との問い合わせがあった。わたしはまだそこがいいのか悪いのかわからないし、おすすめできるほど他の歯科を知らないが、興味のある方はこちらのサイトへ。

http://www.washdent.com/

 

●今月はA男と一緒にマンハッタンへ。今回は(も)ほぼ遊び。

☆6月20日(木):晴れ

今月はA男も一緒にマンハッタンへ行った。最初の二日間は、彼のカンファレンスに便乗して宿泊し、最後の一泊だけプライベートの予約。

木曜日、わたしは一足先にアムトラックで昼頃到着。A男は夕方、飛行機で来る。

カンファレンスの都合上、グランドセントラル駅に近いグランドハイアットへ。ここはまあまあいいホテルのはずなのだが、やはりマンハッタンのホテルは高いばかりで設備が整っていないところが多い。

客室にミニバーなし。バスタブなし。しかも、部屋が古い。しけた絵がいくつも掛かってるし、枕もベッドもなーんか庶民的すぎ。部屋は広めだからよかったけれど。マンハッタンでは250〜300ドル以上は出さないと、快適な部屋に泊まれない気がする。

数年前にA男と日本に行ったときに泊まった福岡のハイアットの方が数倍よかった。ピカピカしてて、快適で。A男も「ニューデリーのハイアットはとても高級だよ」と言ってた。

とはいうものの、ロケーションは非常に便利。ロビーも広々としていて天井が高く、気分がいい。ただ、まだニューヨークは水不足で、ロビーの一画にある噴水がカラカラになっているのが痛々しかった。

ミッドタウンは観光客とビジネスマン&ウーマンでいつもごみごみしているけれど、出張にはとても便利。なにしろ今回は日本語の本を大量に買いたかったから、本屋が近くてうれしい。

まずは41丁目にある古本屋BOOK OFFで大量に購入。いったんホテルに置いて、今度は紀伊國屋で大量購入。計20冊以上をデスクに並べて、ほくほくとうれしい。

その後、五番街を散策などして、ホテルのバーで読書。通りに面したバー&レストランはなかなかリラックスするのに雰囲気よく、A男が到着するまで読んでいた。

夜、ホテルの近くにある居酒屋「酒蔵」で夕食。日本酒メニューが多いのはいいけれど、どれがどんな味やら、よくわからず。福岡の地酒「萬代」をオーダーするが、やや甘かった。

さまざまに居酒屋メニューをオーダーし、ゆっくりと杯を傾け、なかなかにいい夕餉であった。

 

☆6月21日(金):晴れ

午前中、クイーンズの中国系印刷所へ。一応これが、今回でもっとも大切な仕事だった。DCに移ってから印刷所に来るのは二回目だが、例のマネージャー、仮にジェームズは、スケジュールを優先してくれて、とてもいい感じに対応してくれるのでうれしい。印刷も、つつがなくスムースに進む。

昼前にミッドタウンに戻り、この間と同じネイルサロンへ。今回は深紅のマニキュア、ペディキュアを施す。「オランダのチューリップ」と命名された鮮やかな赤だ。

昼、カフェテラスのある新しい日本料理店へ。雰囲気はイタリアンだが、メニューはこてこてジャパニーズ。ひとり、うな丼などを食す。

それにしてもマンハッタンの埃っぽさが辛い。ずっと住んでいると気にならなかったが、無闇に自然にあふれたDCからたまに訪れると、かなりつらい。特に蒸し暑かったせいだろう。コンタクトレンズは霞むし、鼻の穴はむずむずするし、顔は脂ぎるし……。なんだか汚いわね。失敬。

午後、再び書店巡り。更に数冊書籍購入。夕方からホテルのラウンジでビールのみつつ読書。ひたすら読書。今回は友達に会う約束を入れていないし、仕事は印刷所と写真撮影だけだから、気分はほぼホリデーだ。

夕方、A男がカンファレンスから戻り、五番街を散策。ウインドーショッピングをしつつ北上する。昨日は日本料理だったから、今日はインド料理店、ということで、ミッドタウンの東側にあるDAWATで夕食。おいしかったが、ちょっと重かった。最近、外食が減ったので、ちょっと重い料理、塩分のきつい味にはすぐに胃袋&舌が敏感に反応する。

二人して、夜、水をやたらと飲む。

 

☆6月22日(土):晴れ

A男とふたり、昼前にホテルを出る。ホテル近くにある、最近オープンしたばかりの日系デリ「ZAIYA」へ。BOOK OFFと同じ並び(41丁目、五番街とマディソン街の間)にある。日本のパンを久々に食べたくなり、ここでブランチ。土曜ながらもやはり日本人客が多かった。

確かに日本のパンはおいしかった。でも食べながら(わたしは本当に、この味が好きなんだろうか)という妙な感じがした。柔らかな食パンに挟まれた卵サンド、ツナサンド、きめのこまかいバナナマフィン、そして懐かしい蒸しパン……。

おいしいけれど、なんだかピンとこない。好きなのか、まあまあなのか、よくわからない、変な感じ。ずっとここで暮らしていて、わたしの味覚は変わりつつある気がした。

日本人だらけの中に、ヘルメット被った工事現場の作業員が二人やってきた。体格のいい、いかにも肉体労働者だ。そんなたくましい二人が、小さなテーブルにちんまりと向き合い、割り箸を割って、パック入りの寿司を食べ始めた。ヘルメットを被ったまま。なんとなく、かわいい光景。ニューヨークらしいシーンだなあと思う。

食後、五番街からバスに乗り、ダウンタウンへ。ユニオンスクエアでバスを下り、青空市をのぞいたり、ブティックに立ち寄ったりとふらふら。それにしても暑い。あまりに暑くて頭が熱い。帽子を買うことにする。

ファンキーな若者ファッション(という表現自体がばばくさいが)の安っぽい店で、最近はやりのカウボーイ風麦わら帽子を見つけた。ふざけて被ってみたら、あら意外! よく似合うこと! 着ていたヒョウ柄とのシャツとの相性もぴったり。

A男に見せると「似合うよ! かわいい!」とのこと。うふ。

どうしよう。これにしようかなあ、ほかの店で探そうかなあと一応悩む。

「ミホ。今日だけじゃなくて、また被るっていうんなら買えば?」

とA男は大人の意見。ううむ。また被るかなあ。ビーチに行くときとかドライブとかのときにいいかもね。近所の散歩のときも。などとあれこれ考えて買う。

調子に乗って、はやりの革製のヒラヒラしたベルトをはめてみて「これはどう?」と彼に見せたが、それは行き過ぎ、と却下された。まあな。わかっちゃいたけどさ。

それにしても、ダウンタウンは露出度が高い。若い女性たちはみんな、プリンプリン、ブリンブリンしている。ややコンサバティブなDCから久々に来てみると、それを痛感する。A男なんて、

「ああ、もうおっぱいだらけ! まぶしい! 目がやられる!」

などと言ってるし。うれしそうに。

おっぱいだけならまだしも、最近はやりのローライズ・ジーンズ。あれには本当に目がやられる。パンティーが見える見えないの騒ぎじゃない。椅子に座っていると、お尻の割れ目が見えてるし、もう前なんて、ちょっとずらしたら大騒ぎよ。あれは際どい。

A男も「どこまでシェービングしてるのかなあ」と気になって仕方がない模様。わたしも多少、気になる。

ともあれ、スリムでお腹がパシッと引き締まっている女性が履いている姿はセクシーでいいけど、ぶよぶよのお腹ではくのはよしてほしい。かなり見苦しい。

「ミホ、最近の女性はもう、パンティーをはいてないね。みんなトングだよ、トング。パンティーはもう、廃れるね」

トングとは、あの物を挟むトングではもちろん、ない。

トング。それはパンティーラインがみえない、新時代のパンティー。Tバックみたいなもんだな。

まあ、ともかく、パンティーラインが見えるのはみっともないからということで、みなトングを履いてる模様。トングならジーンズからはみ出ても「おしゃれ」ということになるらしい。

だからって、普通のパンティーが廃れてもらっても困るんですけどね。

イーストヴィレッジからソーホーへ歩き、更にウエストヴィレッジへとダウンタウンうろうろ。ブリーカーストリートのカフェでビールを飲み、しばらくぼんやり。それにしても、マンハッタンは本当に活気がある。

ダウンタウンも本当に賑やかだ。去年のテロのことが夢のよう。あの直後は、痛いほどの静寂に包まれていたのに。

わたしたちは、人々の間を縫いながら、ひたすら歩く。A男はシャツを2枚買った。わたしはスニーカーを購入。

夕方は悩んだ末、スパニッシュレストランへ。パエリアをはじめ、各種タパスを食べる。食後、ウエストヴィレッジからイーストヴィレッジまで再び歩き、ふらふらとしたあと、ホテルへ。

楽しい一日だった。

 


Back