坂田マルハン美穂のDC&NYライフ・エッセイ
Vol. 74 6/16/2002
アメリカンチェリーがおいしい季節の到来です。今、食べながら書いてます。甘酸っぱくて歯ごたえがよく、とてもおいしいです。 今はカリフォルニア州産が出回っていますが、そのうちワシントン州産のチェリーも出回ることでしょう。ワシントンと言っても、ここDCではなく、西海岸の北端にあるワシントンです。シアトル(イチローがいるところ)がある州です。 在米日本人向けの通販カタログも、日本向けのチェリーギフトが満載。わたしも母にリクエストされ、早速送りました。 さて、最近、夕暮れ時には毎日のようにジョギング&ウォーキングをしています。食事は家で作ることが多く、これまでの人生で最も健康的な毎日を過ごしています。そういう生活にもずいぶん慣れました。 桜が散り、バラが散り、華やかな花が少なくなったこの季節ですが、あたりが薄暮に包まれる頃、あちこちの家の庭で、無数の蛍がフワリ、フワリと、光っては消え、光っては消えるのが見え、それもまたいいものです。 ちなみにセントラルパークでも、蛍はあちこちで見られます。 さて、今日は、先々週の金曜(7日)に開いたパーティーのこと、それからユニークな歯科に行ったこと書きます。
●DC移転以来、初のパーティーを開いて楽しいひととき。 この間、日本大使館で開かれた日米協会のパーティーで名刺を交換した人たちから、その後メールが届いた。そのとき、なんだか話したりなかった感だったということで、改めてうちで集まることを提案し、DC移転以来、初のパーティーを開いた。 ニューヨークにいたころ、会社設立当初は、半年に一度の割で「ミューズ・パブリッシング」主催のパーティーを開いていた。新しいことを始めるにあたって、ささやかながらもネットワークを広げたかったのが主な理由だ。パーティーは、当たり前だが一度にたくさんの人と出会えるのがいい。 しかしmuse new yorkを発行しはじめてからは、自分でその場を提供するような時間的、精神的余裕がなかった。 DCでもネットワークを広げなきゃ、と思いつつも、毎日の仕事や生活を優先していて、招待や誘いを受けたとき以外は、まだ積極的に動き出していなかったので、これはいい機会だった。 できるだけいろんな人と、しかしある程度じっくり話もしたいし……というのに適当な人数は多分30人以内。それ以上になると、ホストをしながらひとり一人と話すことが不可能になってしまう。わたしの知人関係は20名程度だったので、A男も会社の同僚に声をかけ、できるだけ「国際色豊か」な顔合わせを目指すことにした。むろん、日米協会のパーティーで出会った日本人も、大半の伴侶が日本人以外だが。 さて、当日は午前中からパーティーの支度に取りかかる。近所のスーパーマーケット、FRESH FIELDSで食料やワイン、ビール、花などを買い、一旦家に戻ってから、今度はフレンドシップハイツという繁華街までバスで行く。フレンドシップハイツには、日本でいうところのホームセンターとインテリアショップとキッチン用品店がまざったような大型の家庭用品店がある。 ここでパーティー用のプレートやグラス、フォークなどを購入する。アメリカはパーティー用の商品が充実しているからいい。ニューヨークにいた頃は使い捨てのものを買っていたけれど、今後のことを考えて、使い捨てではないプレートやワイングラス、フォークやスプーンを購入した。 パーティー用のシンプルでリーズナブルな商品を見つけた。ワイングラス(ガラス製)もプレート(これもガラス)も、いずれも1ダースが9.99ドル。つまり1200円くらい。思わず必要のないやはりガラス製の小さなマグカップも1ダース購入した。これはパーティーが終わってからも、ビールやジュースを飲んだりするのに使っている。 フォークなどもしっかりとしたステンレス製で思ったよりも品質がよかった。 午後は部屋の片づけをし、ちょっとした料理を作る。一応、参加者は飲み物か食べ物を持ち寄ってもらうことにしていたが、それだけでは多分足りないと思われたので。 スモークサーモンとアボガドの巻きずし、それに「あったかご飯に混ぜるだけ〜」の寿司太郎(by 永谷園)。これを木製のすし桶に入れて布巾などをかけ、雰囲気を出す。寿司太郎は簡単で、それなりにおいしくて、意外に日本人以外にも受けるパーティーに便利な一品なのだ。ちなみにA男も気に入っている。 ご飯物は、パーティーのとき、結構すぐになくなるから多めに用意していた方が無難。料理が口に合わない人も、取りあえず、おむすびとか巻きずしでお腹がふくれるしね。 おかずは、チキンの一口カツを山盛り。そしてインド系、パキスタン系参加者のために、インド風サーモンカレー(醤油の隠し味入り)を大量に。モヤシの韓国ナムル風サラダ)、アスパラガスとトマトのサラダなどを大皿に盛り付ける。 あとはお決まりのセロリとニンジンのスティック、オリーブやチーズなどのおつまみ、トルティーヤにサルサソースなどのスナック類など。FRESH FIELDSで買ったサルサ(トマトベースのスパイシーなソース)が好評で、自分で作ったのかと尋ねられた。いいクオリティのソース類やチーズなどは、手抜きでも存在感があるから助かる。 さて、7時を過ぎた頃から次々と来客。友人やパートナーも一緒にいらして、と言っていたので、約三分の一、いや半分は、初めて顔を合わせる人ばかりだった。 この間のパーティーで会った弁護士夫妻は、友人の日本人カップル(妻は弁護士)と、弁護士オフィスで働く日本人女性を伴って訪れた。 また、ジョージタウン大学の研究員である日系アメリカ人女性とそのボーイフレンドも。彼らはうちの近所に住んでいるので、今度、また会う機会があるかも知れない。 やはり近所に住んでいるK子さんはアメリカ人の友人と一緒に手作りのお菓子を持って来てくれた。彼女はそもそも日本の大学で英語を教えていたのだが、その後、渡米し、こちらの小学校などで教鞭を執ったあと、企業に就職し、今はお菓子作りのビジネスを始めようとしているところ。 この日は、レモンとライムのカード(curd:クリームっぽいもの)の上にハニーデューメロンのスライスが載ったタルトを持ってきてくれた。甘酸っぱくて、爽やかで、とてもおいしかった。 米大手航空会社のフライトアテンダントの女性はアメリカ人の夫と訪れた。18歳の長女が、下の3人の子供たちのベビーシッターを引き受けてくれているらしい。この間のメールマガジンで子供は3人と書いたけれど、あれは間違いで4人だった。 上の2人が大きくなって、何か仕事を……と探していたときに、日系の新聞で、その航空会社が日本人のフライトアテンダントを募集しているのを見つけ、面接にいったとか。もちろんスチュワーデスの経験はないし、年齢も30歳を超えているし、身長も高くないのだが、即、採用が決まったという。 もちろん、彼女自身にその仕事に関する才能や力があって評価されたのだと思うけれど、日本の同じ業界では、年齢、身長、視力その他、とても制限が多いことを思うと、同じ職業なのに不思議なものだと思う。 彼女の友人である日本人女性は、料理を持って、ひとりでやって来た。彼女もアメリカ人の夫との間に子供が3人いるという。二人して、「アメリカは子供が産みやすい、育てやすい」と異口同音に言っていた。彼女たちを見ていると、わかる気がする。 以前のパーティーで同郷だとわかり盛り上がった商事会社に勤務する女性(夫はハワイ出身で、双子の子供がいる)も、子供をベビーシッターに預けてやって来た。夫は今、ハワイに赴任中らしい。ハワイのマカデミアナッツや、手作りのコーヒーマフィンなどを持ってきてくれた。 日系企業に働く女性と、ネイビーで日本に駐留していたというその夫。彼女らも2人の子供をベビーシッターに預けてやって来た。夫の方は佐世保基地にもいたらしい。以前、佐世保在住のライターの方(ビートルズファンでニューヨークに遊びに来たときに一緒にランチを食べた)が書いてくれた記事のあるmuse new yorkをあげた。あの連載だけは日英バイリンガルだったのだ。 それから、以前にも書いたけれど、これまで何度か会う機会のあった日本人女性とインド人男性のカップル。彼女たちは一度うちに遊びに来たし、わたしたちも彼らの家におじゃましたことがある。A男とも顔なじみだ。 A男の同僚のパキスタン人夫婦もやって来た。妻は建築デザイナーで、華やかな印象。二人ともニューヨークが好きで、しょっちゅう遊びに行っている。夫の方はお酒を飲みたいらしく、差し入れもワインだったが、妻が禁酒を命じているらしく、しぶしぶジュースを飲んでいた。 彼がインド風サーモンカレーを食べながら「おいしい!」と絶賛してくれたので、 「インドとパキスタンの料理は似てるでしょ?」とわたしが尋ねると、 「うん、似てるけど、パキスタンの方が断然おいしいね!」 と、まじめくさった顔で冗談(多分)をいうので、おかしかった。無論、インドとパキスタンの間柄を思えば冗談にならないんだけど。 さらにはA男の会社で夏休みの間だけ働いているというMBAの学生とその妻も訪れた。アーヴァンドは先週、出張で会社にいなかったのだが、同世代の同僚は皆、招こうということで(といっても計4名だが)、メールを送っていたところ、参加してくれたのだ。 だからA男も彼とは初対面。ちなみに彼はアメリカ人だが、奥さんが偶然にも日本人だった。彼女もこちらのベンチャーキャピタル・ファームに勤務している。この日、彼女とはあまり話をしなかったが、後日お礼のメールが届き、フレンドシップハイツにある会社で働いているというので、早速、数日前、一緒にランチを食べた。 みなで食べて、飲んで、喋って、結局12時頃まで宴は続いた。いろいろと興味深い話はたくさんあり、楽しい夕べだったけれど、それを書いていると果てしなく長くなってしまうのでこの辺で。 ところでサーモンカレーは、インド人、パキスタン人だけでなく、日本人にも好評だった。この次のパーティーは、いっそナンも焼いて、インド料理で統一しようかしら、とも思う。
●あなたは自分の笑顔がどれくらい好きですか? (歯医者のアンケートの一項目) 大口を開けて笑うと、どうしても見えてしまう、前から5番目の右側の歯。銀色にきらめいている。本当は去年のうちにマンハッタンで治療をすませるつもりが、それ以外の虫歯の治療などに時間を取られるうちに引っ越してしまった。 こちらに移って以来、なかなかいい歯科を見つけられず、色々な人に尋ねたりもしたけれど、今ひとつピンとくるところがなく結局、電話帳をじっくり見て選んだ。 最終的には、広告のサイズは小さいながらも、ロゴやコピー、デザインなどすべてが、最も洗練された、すっきりした広告を出していたところを選んで電話をした。そこは電話の対応や説明が非常によく、「よし、ここに決めたぞ」と思わせてくれる空気が漂っていた。 ここはひとつのオフィスにドクターが何人か入っているドクターズオフィスだ。アメリカでは、一箇所のオフィスを何人かのドクターが共同で使用しているケースは、歯科に限らず少なくない。 ところで、擬人化された歯が、歯ブラシ持ってにっこり笑ってるイラストとか、「治療前」「治療後」のグロテスクな歯の写真が載っている広告って、いまいちそそられない。 わたしの場合、笑ったときに見える銀歯をポーセリンに変えてもらうのが目的なわけで、つまり、歯科治療といえども美的感覚が望まれるから、美しい広告を出しているこのオフィスに、賭けてみようと思ったわけである。っていうか、もう、どうやって選べばいいんだが、わからなかったので。 オフィスに入るなり、受付の女性が満面の笑顔で出迎えてくれた。問診票を渡しながら、「喉が乾いたら、バーのお飲物を飲みながら、お書きになってね」と言う。 なるほど、一画にはバーコーナーがあり、冷蔵庫にはボトル水やジュースなどがきれいに並んでいる。 問診票の最後の方に、こんな質問があった。 「あなたは自分の笑顔がどれくらい好きですか? そのレベルを1〜10(満点)の数字で表してください。そしてその理由も記してください」 アメリカでは「笑顔」がいかに美しいかが重視される。虫歯などの疾病もさることながら、歯並びの美しさは表情に大きく影響を与えることは周知の事実だからだ。日本のように八重歯がかわいいなどという感覚は理解されない。 ましてや、わたしのように、大笑いすると銀歯が見えるような治療はありえない。 わたしは、自分の笑っている顔は好きなのだが、度を過ぎた笑顔は、前述の通り銀歯キラリ! の状態になるため、笑いの制御が必要となる。たいてい、制御できないから、A男にいつも "Scary(怖い)!!" と言われる。 わたしは自分の笑顔レベルを6とし、その理由を「銀歯のせい」と書いた。ちなみにこの銀歯で苦しんでいる在米日本人女性は非常に多い。歯医者でも、日本の治療は有名である。悪い意味で。 それにしても、このドクターズオフィスの、なんだかわけがわからぬが、過剰なサービスであることよ。 問診票を書き終えたわたしに、一人の女性スタッフが、これまた満面の笑顔で、あえてその並びのいい歯を露出するかのごとく大きな口を開いて語りかけてき、オフィス内を「ツアー」と称して案内してくれる。オフィス内にクラウンなどを作る「ラボ」があるのは稀有なことだとか、ドクターたちはいずれも高度な技術を持っているだとか、やったら丁寧に教えてくれる。 患者が出入りできるビジネスルームもあり、待ち時間にコンピュータも使える。もちろんインターネットもできる。 壁には各メディアに紹介された記事の数々がフレームに治められている。本棚には「笑顔の記録」と記されたいくつかのアルバム。開けば患者たちの「治療前」「治療後」の写真の数々。その大きさのまた、半端じゃないこと。ほぼ「原寸大」である。 どうでもいいけど、治療前と治療後じゃ、メイク法まで変わってるから、印象も変わるよね、という写真も多い。それでもやっぱり、いかに歯並びがその人の印象を変えるかがよーくわかった。 さらには映画を観ながら最新の機械でホワイトニングができる部屋とか、機材を消毒しているクリーニングルームだとかも見せてもらった。いささか行き過ぎの感ありで、途中で笑いそうなって困った。全体に、かなり芝居がかっているが、まあ、こうしてきちんと見せてくれる分には安心できていい。 さて、いよいよ治療のため個室に通される。 わたしの口元を見るなり、ドクター 「あなたは歯並びがいいし、歯の形もいいし、どこに問題があるの?」 そう。わたしは小学校1年生のときに、歯の矯正をしていたから、歯並びはとてもいいのだ。これに関しては矯正を強制的にさせた母に感謝である。 「問題は、ここよ!」 そう言いながら、思い切り大きく口を開いてキラリ! を見せると、 「あ、わかった。もう説明してくれなくていいよ。わかったから」と、つれない。 ドクターとアシスタントが二人がかりで歯のチェック。一本ずつのデータをコンピュータに落とし込む。さらに、わたしがニューヨークの歯科医で撮影してもらっていたX線写真を持参していたのだが、それをスキャンし、コンピュータに取り込んで拡大し、白黒反転させながら、状況説明。 モニターは二つあり、一つは患者が椅子に横たわった状態で見られるよう天井に設置されている。ドクターは比較的若く、今ひとつ作業がちんたらしていたが、丁寧に口内の状況を説明してくれるのでよしとする。 「ぼくのガールフレンドは、お父さんがネイビーだったから、日本に住んでた時期もあるんだよ」と、聞いてもいないのに、いきなりプライベートの話を持ち出すあたり、アメリカ人である。 さらには、胃カメラならぬ口内カメラで口の中を照らしながら撮影。自分の口内を見るのって、なんだか気持ちいいものじゃない。それにしても随所に施された銀のクラウンのまぶしいことよ! カメラのライトに照らされて、そーりゃもうギラギラしてる。 「アクセサリーがまぶしいのはいいけど、口の中がまぶしいのはねえ……」とドクター。ほんとほんと。こつこつ時間をかけて、全部取り替えたいくらいだ。 結局この日は検査で終わる。親知らずを抜けとか、ここを治療し直せとか、やたらとたくさんの治療プランを押しつけるドクターと違って、取りあえず、クラウンの取り替えに伴う左右の歯のチェックくらいにすませてくれそうで、そのあたりも好感が持てた。まあ、要は仕上がりだから、まだ油断はできないが……。 帰りに受付で「おみやげ」をもらった。マグカップにボールペン、冷蔵庫などに貼るマグネット、歯ブラシなど。すべてロゴが入っている。そしてなぜだがハーシーのキッスチョコが数個。こういうところがアメリカね。 この歯医者が見かけ倒しでないことを祈る。 来月には笑顔レベル10だ! |