ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 4 10/02/2000

 


ワシントンDCに向かう列車の中で、ノートパソコンに向かっています。マンハッタンからDCまでは、アムトラックと呼ばれる鉄道で約4時間。追加料金で急行に乗ると3時間で到着します。飛行機だと1時間ぐらいですが、私は普段、列車を使います。ぼーっと車窓から景色を眺めたり、本を読んだり、うとうとと眠り込んだり、こうしてノートパソコンを広げたりしているうちに、3、4時間はすぐに過ぎていきます。おなかが空いたら食堂車でハンバーガーやピザを買えますし(あまりおいしいものではありませんが)、ビールも売っているので、ピーナッツやポテトチップスをつまみに1杯飲むというのもなかなかいいものです。

来週はDCのお店取材の仕事が入っているので、10日間ほど滞在する予定です。ニューヨークとDCの話を織り交ぜながら、お伝えしていきたいと思います。(9/31/2000)

 

★アジアな午後

今日は日曜日。午前中、部屋の掃除や洗濯などをすませたあと、午後はこの先1週間の食料品などを買い出しに行った。マンハッタンは車がなくても生活するのになんら支障はないが、アメリカ合衆国の大半の都市、町においては、車なしでの生活は不可能だ。ショッピング、子供の学校の送り迎え……、何につけても車が要る。郊外には、至る所にモールと呼ばれるショッピングセンターが点在していて、食料品や生活用品を買い出しに、人々は車で繰り出していく。

今日、私とA男が出かけたのは、コリアン系のショップやレストランが連なるモールだ。広大な駐車場にも関わらず、空きスペースがない。誰かが出て行くのを待って駐車するしかない状況だ。なんとか車を停め、巨大なスーパーマーケットに入る。この店は、日本の食料品も扱っているHan Ah Reum というチェーン店で、マンハッタンの郊外にも何軒か店を持っている。

大きなショッピングカートを押して店内に入るや、その混雑ぶりに驚かされる。10 カ所ほどあるレジの前は長蛇の列だ。これは時間がかかりそうだなと思いつつ、ショッピングを開始。入り口に、山のように積み上げられたお米を、まずは一袋。日本語、ハングル、それぞれのパッケージがあるが、私はカリフォルニア産の「玉錦」を購入。ほかに「国寶ローズ」「田牧米」といった銘柄もある。いずれもカリフォルニア産だ。かつて、カリフォルニア米といえば、やや長めの中粒米などが多かったらしいが、最近のものは日本で作られる米と同じ短粒米で、とてもおいしい。

ここでは、他のスーパーマーケットでは手に入らない、アジア系の生鮮食料品がたっぷりと揃っている。直径が15センチほどもあるニラの束や、観葉植物のように青々としたネギ、量り売りの大豆モヤシ、レンコン、ハクサイ、シイタケなどを次々にカートに入れる。片手で抱えきれないほど大きなキムチの瓶詰めや、豆腐(絹・木綿)、コンニャク、魚のミンチに厚揚げ……。A男の好物であるライチーも購入。

さて、次は肉売り場。アメリカのスーパーマーケットには、ステーキ用の厚切り肉しか置いていないが、コリアン系は薄切りの焼き肉用、すき焼き用、しゃぶしゃぶ用の牛肉があるからうれしい。豚肉や鶏肉の部位も豊富に揃っている。そればかりか、ブタの鼻や耳がそのままパックされていて、強烈だけどおもしろい。どうやって調理するのだろう。

チャイナタウンもそうだけれど、魚売り場の充実度はコリアンも負けてはいない。アメリカのスーパーマーケットで買える魚は、せいぜいサーモンがいいところ。あとは鮮度が怪しいものが多く、魚に厳しい日本人には、なかなか手が出ない。しかしここは違う。生きのいい魚がずらりと揃っている。サバもタイもタチウオもイカもある。私は身が締まったヒラメを選んだ。ワシントンDC 郊外にはカニ(Crab) の漁港がたくさんあるだけあり、生きたカニも山積みされている。勢い余ってかごを飛び出したカニが床を歩いていたりして、なんともワイルドだ。

それにしても、ここは東アジア人のパラダイス。黒い髪、黒い瞳の人たちばかりだ。コリアンを中心に、中国語、日本語も聞こえてくる。もう、誰がなに人だか、さっぱりわからない。とにかく込み合った店は、独特のアジア的世界が広がっていて、妙に気持ちが高ぶってくる。

加工食品のコーナーは、ハングルと日本語が入り交じったパッケージが陳列されている。海苔、昆布、カレー、味噌、麺類、するめなどの干物……。こうしてみると、日本とコリアンの食生活は似たようなものがたくさんある。一方、大きな袋に入った真っ赤な唐辛子などを見ると、似ているけどやっぱり違うな、とも思う。いずれにせよ、アメリカ人から見れば大差ないことには違いない。

肉まん、餃子、枝豆などの冷凍食品、柿ピーやカッパえびせん(コリアンバージョン)、蒟蒻畑(ゼリー)などのおやつ、それから日本酒なども買い込んで、レジに並ぶ。長蛇の列は相変わらず。30分はゆうにかかりそうだ。文庫本を読みながら列を待つ日本人のお父さんがいた。待たされることを心得ている。ぬかりがない。

私は、カートをA男に任せて、もう一度店内を巡る。常時携帯しているデジタルカメラでこっそりと店内を撮影(後日、ホームページに掲載します)。竹製のしゃもじや、身体を洗うナイロンタオルなども買った。

山ほどの食料品を買ったけれど、値段は随分安い。繁盛するのもよくわかる。買い物を終え、すっかりおなかが空いた私たちは、早めの夕食をとるべく、今度はベトナミーズのモールへ車を走らせる。ここにはベトナム系のスーパーマーケットやレストランが立ち並んでいる。どの店がおいしいかわからない私たちは、数店のレストランをのぞき込み、賑わっている店を選んで入った。ベトナムの33というビール(薄味)で喉を潤した後、ベトナム風の生春巻き、揚げ春巻き、そしてシーフードの硬焼きソバに、カニのショウガとネギソース和えを食す。どれもこれも、おいしい。特にカニはショウガとネギの風味が利いていて、きちんと身も詰まっていて最高だった。2人ともおなかいっぱい食べて、チップ込みで28ドル。マンハッタンの半額以下である。

アジアのエネルギーを補給して、今夜は何となく気分がいい。さあ、明日も仕事、がんばるぞ。

 

●Comment. 4 (N.Sさん)

はじめまして。福岡県北九州市役所の公務員です。あなたのリポートが、アメリカを含む諸外国の生の情報を知る上でとても参考になり、役立っております。今後とも楽しみに拝読させていただきますのでどうぞ宜しくお願い致します。できましたら、今後ともあなたのありのままに見た日本のマスコミでは報道されない記事が多ければ、益々大歓迎です。(一部抜粋)

>>私が日本で編集やライターの仕事をしていた頃は、雑誌やガイドブックの仕事で、頻繁に海外取材へ出かけていました。旅を通して強い印象や感銘を受けたのは、実際には記事にはならない、人々の生活の様子やありのままの文化でした。ニューヨークの情報に限らず、今まで私が取材や旅行を通して体験したこと、またこれから体験するであろうことを、このメールマガジンやホームページ、muse new york などを通して、少しずつ発現させていければと思っています。ところで、北九州の門司にお住まいとのこと。私は下関の梅光女学院大学に通っておりましたので、小倉や門司へはよく遊びに出かけました。門司は古くから海外と交易があり、日本にありながらもどこか異国情緒の漂う、独特の雰囲気をたたえた港町ですよね。学生の頃、一人で門司の街を散策しているとき、何とはなしに、旅情をかりたてられたことを思い出します。


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