ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 27 1/27/2001

 


月曜日の午後、マンハッタンに戻ってきて以来、今週は、めまぐるしく過ぎていきました。今は土曜日の午後。昼頃、A男とジムへ行き、しばらくずごしたあと、サウナ(スチーム・ルーム)にも入ってすっきりしたあと、飲茶を食べて帰ってきたところです。

先ほど、マンハッタン内なら1時間以内でビデオや生活用品を配達してくれるwww.kozmo.comで、ビデオを借りました。夜、友人夫婦と食事に出かけるまでの時間、こうしてメールマガジンを書いたりビデオを観たりしてのんびり過ごそうと思います。でも、運動、食事を終えた今、無性に眠いです。昼寝でもしたくなります。

さて、今日は、今週の出来事の中から印象に残った出来事をご紹介します。

 

●ギリシャ版「おばあさんの味」

muse new yorkの「国際結婚をした日本人インタビュー」の取材のため、マンハッタン郊外のクイーンズというところに行った。取材前にランチをとろうと、見知らぬ街をうろうろとしていたら、小さなレストランが見つかった。特にあか抜けしない食堂風の店だが、店に入った途端、なんだか「幸せな空気」が漂っていた。

イタリアのカンツォーネ風の音楽が流れているが、どうもイタリア料理店ではないようだ。メニューをしっかり見てみると、ギリシャ料理ということがわかった。知らない料理ばかりだったので、物腰のおだやかな初老の給仕におすすめの料理を尋ねる。すると、『スタッフド・ズッキーニ、アーティチョーク添え』を勧められた。

「アーティチョークは好みがあるから、もし嫌いだったら他の料理をおすすめしますが……この料理は僕のおばあさんを思い出させてくれるんですよ」

彼の一言にひかれて、その料理をオーダー。幸せな空気が漂う店だから、きっと料理はおいしいに違いないと確信し、またもや昼間から白ワインを頼む。出されたパンは焼きたてて香ばしく、オリーブオイルに浸して食べると、なんともおいしい。焦げ目のあたりが、私の好きな「揚げ餅」の風味がして、それがまたいい。料理が来る前に、パンがおいしくて、バクバク食べてしまった。

軽めのレモン&バターソースがかかったズッキーニの挽肉詰めは、ロールキャベツのような味わい。アーティチョークも柔らかく、ほどよい塩加減。まさに、「家庭料理」の素朴さが漂っている味だった。冬の午後の穏やかな日差しが窓からテーブルにこぼれ落ち、心地よい音楽においしい料理。なんとも幸せなひととき。

給仕をしている男性はオーナーらしい。料理はギリシャのクレタ島の伝統的な料理だという。

「じゃあ、あなたのふるさとはクレタ島なの?」

と尋ねると、残念そうに

「そうだったら本当にいいんだけど、ビッグシティ、アテネの出身なんだ。クレタ島に生まれたかったよ」と言う。

なんだか急にクレタ島に行ってみたくなった。それにしても、隣のカップルが食べていたデザートもおいしそうだった。あいにく時間がなく、デザートを食べる余裕はなく立ち去った。ちなみに、料理とワイン、コーヒーを含めて15ドル程度。リーズナブルである。

場所柄、不便ではあるけれど、いつか取材をさせてほしいと思わせるレストランだった。今度はディナータイムに行ってみよう。

 

●エジプト人と結婚した日本人女性を取材

彼女はmuse new yorkの読者で、時々、アンケートハガキに感想を書いて送ってくれていた。あるとき、彼女が国際結婚をしていることが書いてあり、取材をさせてもらうことになった次第。アパートメントのドアをあけるや、アラビアの衣装に身を包んだ(ショールを被った)彼女が現れた。

ある夏、イタリアに旅行中、今の夫(エジプト人)と出会った。彼はニューヨークに暮らしていたのだが、たまたまその時、ヨーロッパを旅していたらしい。ベネチアで出会い、その後、電話で何度かやりとりをしたあと、その年の冬、彼の住むニューヨークへ来て結婚したという。

今は3人の息子たちに恵まれた賑やかな家族だ。彼と結婚するにはイスラム教徒にならねばならなかった。だからイスラム教を学んだ。彼女がアラブの服装をしていることで、周囲からは「夫に従順な妻」だと見られがちだが、決して「夫の伝統を引き継ぐため」ではなく、「自分自身がイスラムの真理に共感を覚え、それに信じているからそうしている」のだという。

伝統ならば、もちろん日本人だから日本の伝統がいい。ただ、宗教と伝統は異質のものだと彼女は力説する。

お酒、タバコ、賭事をしない、浮気をしない(浮気をしたら、その人も妻にせねばならない。つまり養わねばならない)といった一般的な戒律は周知の通りだが、彼女はイスラムの教典である「コーラン(クルアーン)」を通して、自分の拠り所を見いだしているようだ。

国際結婚について、記事で触れたいといいながらそのままだった。読者の方からもリクエストがあるので、近いうちにまた、取り上げようと思う。

 

●カラオケを大熱唱する夕べ

muse new yorkの「マンハッタン出産ノート」の記事を書いてくれているRさんと夕食に出かけた。次回のmuse new yorkで紹介する、トライベッカにあるフランス料理店に出かけた。ここは、料理もさることながら、デザートのスフレがもう、フワフワで温かくて、ものすごくおいしいのだ。

ウエイターが、フワフワのスフレをテーブルに運んでき、客の目の前で、スフレの真ん中に穴をあけ、温かいソースを注ぐ。そして更にホイップクリームを詰め込むのだ。ソースはチョコレート、ヘーゼルナッツ、オレンジ、洋ナシなどの中から選ぶ。

しつこいようだが、そのフワフワ感は、筆舌に尽くしがたい。

仕事や結婚、育児のことなど、とりとめもなく話しながら、おいしい料理を楽しんだ。意外に早めに食事を終えたので、二人してカラオケに行くことにした。彼女は1歳になったばかりの息子を妊娠する前に行ったきりだから、2年ぶりのカラオケだという。私も久しぶりだったので、さっそくイーストビレッジにあるカラオケボックスに直行。

マンハッタンには日本人経営のカラオケボックスが数軒ある。また、コリア・タウンにも、日本語の歌を揃えたカラオケボックスが少なくない。最近は、カラオケを楽しむ若いニューヨーカーたちも多いから、もちろん英語の歌も用意されている。

私は「歌う」ことは好きだが、カラオケには余り行かない。ニューヨークに来てからは年に2回ほど、A男と一緒に出かける程度だ。

A男を初めてカラオケに連れていったときは楽しかった。まず、彼が知っている曲を探すのに一苦労。インド出身という土地柄のせいか、彼の好みのせいかわからないが、20才代後半にも関わらず、アバの「ダンシング・クイーン」とか、イーグルスの「ホテルカリフォルニア」とか、フランク・シナトラとか、古くさいヒット曲ばかりを選ぶ。

また、彼の「絶対無音感」にも度肝を抜かされた。音感、リズム感が皆無なのだ。ただ、英語の発音は美しいので、妙な具合である。カラオケマシンも毒気にあてられるのか、解析不能になるようで、最後に出るスコアは決まって高得点だから罪である。

さて、Rさんと私は同じ年齢。彼女は20代前半の友人とカラオケに出かけて、歌う曲歌う曲「懐メロですね」と言われて居心地の悪い思いをしたことがあるという。しかしながら、この日の私たちは違った。

私が伊藤咲子の「ひまわり娘」を歌えば、彼女は小坂明子の「あなた」。大橋純子の「たそがれマイ・ラブ」に久保田早紀の「異邦人」、ピンクレディーや松田聖子のメドレーでは二人とも立ち上がって踊りまくる(注:私はいつも立って歌う)。中盤、無理してミーシャとかアイコとかの曲をそれぞれ歌ったが、どうにものりが悪い。第一、よく知らないから歌唱後の充足感に欠ける。

気分を変えて演歌をうなろうと、私が「津軽海峡冬景色」を歌えば、彼女は松村なんとかの「帰ってこいよ」に続き森昌子の、ひゅるり〜ひゅるりらら〜という曲で演歌二連発。A男とのカラオケでは決して実現できない、劇的な場の盛り上がりようである。

1時間30分程度だったが、エネルギー全開で歌いまくった。満腹だった胃袋もすっかりこなれて、非常にいい運動になったひとときだった。

 

●ナチュラルなオイルで自分の香りを作る

嗅覚が強すぎるせいか、香水をつけると、自分の匂いにやられて気分が悪くなってしまう。けれど「いい匂い」は好きなので、これまでも爽やかな香りのパフュームなどを見つけたら、気が向いたときに付けたりしていた。

ふと、オリジナルの香りを調合してもらえる店はないものかと気になり、インターネットで検索すると、マンハッタンに1軒だけ見つかった。他にもあるのかもしれないが、ひとまず、イーストビレッジにあるその店に出かけてみた。

こぢんまりと、雑然としたその店では、女性のオーナーが一人で店を切り盛りしていた。かつて看護婦をしていたというタイ人女性で、香りに興味を持ち、10年ほど前に店をオープンしたとか。

600種類を超えるパフューム・オイルはすべて天然素材。世界各地から取り寄せているという。パフューム・オイルは、アルコールやケミカルを一切含まないから肌にも優しい。

人によっては1、2種類、あるいは4、5種類を混ぜ合わせて好みの香りを作る。人種によって肌の質や香りが違うから、必ず自分の肌に一度つけてみて、30分ほどたってから匂いを確かめるといいらしい。

1時間ほど、取材を兼ねてオーナーにあれこれ尋ねつつ、自分のオイルも購入した。一つはおすすめの「レイン」というブレンドされたオイル。リリー、ローズ、ムスク、ジャスミンが混ざっている。すがすがしく、優しい香りだ。身につけていても香水特有のつんとしたきつさがないのがうれしい。

そのほか、ラベンダーとローズのブレンド、キュウリとライムのブレンドを購入。「キュウリ〜?」とお思いだろうが、これがなかなかいい香りなのだ。ライムの香りとほどよくブレンドされ、夏の爽やかな緑を思わせる。

3種類を購入した私に、オーナーの彼女は、「ロマンティックな夜を過ごしたいならこのオイルがいいわよ」と、ペルシャ・ムスクのサンプルをくれた。シャワーの後、うなじや胸の谷間、それに腰のあたりに塗るといいのだとか。何だか顔を赤らめてしまった。

(詳しくは次号muse new yorkに掲載した後、ホームページにも詳細を掲載する予定です。)

 

●メトロポリタン・オペラ「仮面舞踏会」を観に行く

オペラやバレエのシーズンは4月頃までなので、それまでにいくつか観ておきたいと、インターネットでスケジュールをチェック。ヴェルディの『仮面舞踏会』(UN BALLO IN MASCHERA)を観に行った。この日の指揮は、プラシド・ドミンゴだった。

リンカーンセンターの「メトロポリタン・オペラハウス」には、音楽をテーマにしたシャガールの巨大な壁画が二枚(青を基調にしたものと赤を基調にしたもの)が架かっている。ゴージャスな建築物だ。

オペラ鑑賞は、一種の社交場でもあるから、タキシードやドレスで着飾った人たちも大勢見受けられる。上演中の休憩時間(インターミッション)は2回ほどあり、いずれも30分ほどと長い。その間、人々は席を立ち、サロンでワインやシャンパーンを飲んだり、人と語らったりする。

さて、『仮面舞踏会』のストーリーは、スウェーデン国王が、自分の親友の妻と恋に落ちてしまい、そのことが親友に知られ、親友が国王の反逆者たちと手を組み、『仮面舞踏会』の夜、国王を刺殺するというもの。

国王と彼女の関係はあくまでも「プラトニック」だったが、お互いに気持ちを抑えることができなかった。だから国王は、あえて親友を昇進させ、彼らを遠隔地に赴任させる計画をしていた。そんな事情を知らない親友は裏切られたとばかり思い、刺す。刺されたあと、胸から血を流しながら、国王が心情を吐露する。

「私は彼の妻を愛していたが、彼を裏切るようなまねはしたくなかった。たとえ、僕が死んでも、彼をとらえたりしないでくれ!」と、周囲の人々に叫ぶ。そのあたりはかなり目頭が熱くなるシーンなのだが、刺された後のせりふが長くて、いつまでも終わらない。なかなか絶命しないことに、ちょっと笑ってしまった。

何しろ胸から血を出して横たわっていながらも、お腹の底から響き渡る大きな声で絶唱するのだから。

ちなみに、シートの前にデジタルの小さな画面があり、そこに英語でサブタイトル(字幕)が出るので、ストーリーはつかめる。

それにしても、舞踏会のシーンは舞台装置がとても美しく、衣装もまたきらびやかで、観ているだけで優雅な気持ちになれた。


Back