ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 22 12/17/2000

 


マンハッタンに暮らし始めて、5回目の冬です。寒さに弱かった私も、年々ニューヨークの冬で鍛えられています。風が吹いていなければ摂氏0度くらいでも、別段、寒いと思わなくなりました。何しろ、たまに冷え込むと、体感温度が摂氏マイナス10度を下ることもありますから。外出には手袋と帽子が必携です。

アメリカの場合、外は寒くても、室内は、セントラルヒーティングによって暖房されていますから(建物によって暖房のパワーに強弱がある)、すきま風が寒いとか、寒くて朝起きるのが辛いといったことはありません。部屋では真冬でも短パンにTシャツでOKです。暖かいのはうれしいのですが、むやみにエネルギーを浪費している気もします。アメリカは、夏は夏で、ギンギンに冷房を入れますから。

さて、今日はフィットネスとパーティーの話題です。前号のメールマガジンに関していくつかの反響をいただきましたが、毎号、重たい話題が続くのも好ましくないので、改めてご紹介します。

 

●体重大幅減を目指し、フィットネスセンターへ

アメリカ的尺度で食生活を続けた結果、ここ数年で体重が5キロ増えた。もともと痩せていれば5キロ増加くらいは許容範囲かとも思うのだが、そもそも渡米前から「体格がよかった」ので、由々しき事態である。夏場はセントラルパークでジョギングをするから、若干減るものの、冬になると運動不足でいけない。うちのビルには、プールとジムがあるのだが、マシンを相手に黙々とエクササイズをするのが苦手で続かない。さらに私は三半規管に欠陥があるようで、泳ぎ続けるとめまいがするため、プールもだめである。

言い訳をするが、太らない体質の人は別として、アメリカ生活で太ってしまうのは、逃れようのない現実である。スーパーマーケットの食品、レストランで出される料理、なにもかもが日本のものより一回りも二回りも大きいから、「大きいもの」に、視覚も、そして胃袋も慣れてしまうのだ。

先日、久しぶりに食器棚の整理をしていて、奥の方にあった、日本で使っていたご飯茶碗を見つけて「うわー、小さい!」と驚いてしまった。よく、こんな小さい茶碗で、ちまちまと食べていたものだ。ここ数年、ご飯は、シリアル用のボールなどに大盛りについで食べている。うどんやラーメンなど、一玉じゃ満足できない。具も盛りだくさんに入れる。育ち盛りの青少年のようである。それでも、平均的アメリカ人に比べれば、小食な方である。多分。

体重増加に歯止めが利かないもう一つの理由がある。日本だと、一定の体重を超えると「洒落た服が買えなくなる」という致命的な事実にぶちあたる。私は身長が166センチで、日本では比較的高い方だ。それに横幅が加わると、選択肢が非常に狭くなり、気に入った服を手に入れるのに苦労するのだ。靴のサイズも24.5センチで、品切れの場合が多かった。

ところが。アメリカでは我が体型が標準で、品揃えが豊富なのだ。ショーウインドーに飾られている服も、問題なく自分のサイズが見つけられる。それより大きいサイズも、たっぷりある。靴だってよりどりみどり。日本じゃLとかLLサイズの私がこちらではSかMなのである。うれしいものだ。それでも、マンハッタンは全体にサイズが小さめな方で、地方都市などのデパートに行くと、衣服のサイズは格段に大きくなる。地方は肥満した人がとても多いのだ。

先日、日本のニュースを見ていたとき、大相撲の様子が映し出されたのだが、久しぶりに見た力士たちが「小さく見えて」びっくりした。なにしろアメリカには、力士並みの体格を備えた人がたくさんから……。

前置きが長くなったが、上記の事態を鑑み、先日よりフィットネスクラブに通い始めた。マンハッタンには健康を気遣うニューヨーカーのため、たくさんのフィットネスクラブがある。私が入会したのは、マンハッタン内に10数店のチェーンを持つEQUINOXというクラブ。このクラブには最新鋭のマシンがたくさんあり、シャワーはもちろんサウナもある。また別料金でマッサージやフェイシャルなどのサービスも受けられる。

ただ、私は前述の通りマシンは苦手なので、クラスに参加するのを目的に入会した。月々の会費を支払えば、クラスは好きなだけ参加していいのだ。最近、マンハッタンのフィットネスクラブでは、マシン相手だと続かない私のような人向けに、さまざまなクラスを用意しているところが多い。エクササイズ用の自転車をこぎながら歌を歌う「カラオケ・サイクル」や空中ブランコを使って上半身を強化する「サーカス・スポーツ」など奇抜なクラスもあるらしい。

EQUINOXの場合、ヨガやエアロビクスをはじめ、ストレッチ、太極拳など30種類ほどのクラスがあり、週ごとのスケジュールが組まれている。私が好んで参加しているのは「エアロボ・キック」や「カーディオ・キックボクシング」といった、キックボクシングの基礎練習をエアロビクスなどとミックスしたクラスだ。

1クラス(1時間)の参加者は10数名程度。比較的簡単な動きなので、初心者でも気軽に参加できる。インストラクターの動きにならって、リズミカルなディスコミュージックにあわせ身体を動かす。パンチやキックの「素振り」をするのは、ものすごく気持ちがいい。

なぜか参加者は女性が主で、男性は数名。女性たちはいずれも仕事帰りのキャリアウーマンといった風情で、「日ごろのストレスを発散しなきゃ!」という感じで、顔つきも真剣である。運動神経がよさそうな人たちばかりだ。

一方、クラスに参加する男性はなぜかやぼったい人が多い。特に一昨日参加したクラスには、コリアン2名とオーソドックス・ジューイッシュ1名が参加していたのだが、3人ともポッテリとしており、全くリズムに乗れず、キックもまるでスキップのようにしか見えず、人のことを笑っている余裕などないのだが、失礼ながら、つい笑いがこみあげてきて困った。

オーソドックス・ジューイッシュ(正統派のユダヤ教信者で、黒い衣服、帽子に身を包み、もみあげを長くのばしている人)の男性は、やはりスポーツウエアも黒一色。見た目も動きも、まるでクマのぬいぐるみようで、コロコロしながら手足をばたつかせている。A男がここにいたら、間違いなくこんな感じだろうな、とも思う。

A男といえば、私がキックボクシングのクラスを始めると告げたら「お願いだからそれ以上ワイルドにならないで。ヨガにしてくれ」と懇願された。

本当は10キロくらい減らしたいが、目標が遠すぎてもくじけるので、せめて渡米時の体型に戻すべく、まずは5キロ減を目指してがんばろうと思う。

 

●ベンチャーキャピタル・ファームのクリスマスパーティーへ

先週の日曜日、A男が勤めるベンチャーキャピタル・ファームのジェネラル・パートナー(仮にマイクとしておこう)の邸宅で開かれたクリスマスパーティーに行って来た。

話に入る前に、日本でもすっかりなじみになっているとは思うが、簡単に語彙の説明をしておこう。ベンチャーキャピタル(VC)というのは、ベンチャー企業などへの投資にあてられるリスクマネーを指す言葉で、その投資を行う企業がベンチャーキャピタル・ファームだ。日本人が「ファーム」と聞けば「Farm: 農場」を思い浮かべてしまうが、この場合のファームは「Firm: 会社」である。さらに、投資を行う人物をベンチャーキャピタリストと呼ぶ。

A男の会社は、創立以来20年以上を経た、ベンチャーキャピタル・ファームの古株で、主にテクノロジー関連の企業に投資している。マイク(50代の男性)は、ワシントンDC近辺のベンチャーキャピタル・ファーム協会の会長をしているため、このような親睦会を兼ねたパーティーを年に一度行っているようだ。

邸宅には500名ほどのゲストが集まっていた。招待状に「子供たちもお連れください」とあったので、うち約100名は子供たち。子供用の会場も設けられており、サンタクロースやギター弾き語りのお兄さんもいて、幼稚園さながらのムードだ。

大人たちは子供を預け、安心して会話が楽しんでいる。アメリカのパーティーでは、普通、ドリンクなどを片手に、立ったままで話をする。目が合えば、臆することなく話しかけ、自己紹介をする。あちこちで会話に花が咲いていて、とても賑やかだ。おつまみやサンドイッチなどの前菜をトレーに載せ、ウエイターが会場を巡り、ゲストに出す。一画にはバーコーナーもある。各部屋の暖炉には火が入り、和やかな雰囲気だ。大きなクリスマスツリーの下にはたくさんのギフト。クリスマスソングを歌うコーラスグループもいる。

アメリカでは、たとえ夫婦でなくても、ボーイフレンド、もしくはガールフレンドとして公の場に参加できるのがいい。このような業界には、男女両方が仕事を持っており、結婚をしていないカップルも多い。「どうして結婚しないの?」なんて尋ねる人はいないから、いやな気持ちにさせられることもない。

パーティーに参加しているのは、DC周辺のベンチャーキャピタル・ファームや、テクノロジー関連企業のCEO(Chief Executive Officerの略で社長、取締役を意味する)やオフィサー(役員)、その家族など。大半が30代後半以降から40代、50代にも関わらず、小さい子供を連れている夫婦が多いのも、印象的だった。

アメリカのテクノロジー・ビジネスのメッカといえば、周知の通り、カリフォルニアのシリコンバレーである。こちらは20代、30代の若手ビジネスマンが活躍しており、中でもインド人の勢力は圧倒的だ。3割から5割のIT関連企業の創設者はインド人である。

一方、DCはかなりコンサバティブ(封建的)で、年齢層も高い。しかもゲストの9割が白人で、次いでインド人。マイクもそうだが、白人の中にはユダヤ人も少なくない。東アジア人は、私と、もう一人、DCでテクノロジー関連企業を経営するコリアン女性だけだった。

最初のうちは、便宜上、A男と一緒に、知り合いの人たちへの挨拶や自己紹介を繰り返す。日本のように「まあ、XXさんでいらっしゃいますか? うちの主人がいつもお世話になっております」といった社交辞令は不要なので気が楽だが、それでも、多少は「いいガールフレンドぶり」を発揮せねばと思い、満面の笑みを続けたものだから、30分もたたないうちに、頬の筋肉が疲れてしまった。

マイクは最近、若い女性と再婚し、3歳の子供がいる。20歳と19歳の前妻との息子たちもパーティーに来ていた。マイクの妻は、ニューヨークでビジネスをしており、週末ごとに互いが行き来する生活を送っている。A男のボスである彼は、私にも気を遣ってくれ、私が出版関係の仕事をしていると知るや、「君と同じ年頃の、同業の女性がいるから」と、彼女を探しに行き、紹介してくれる。

彼女はワシントンポスト(ワシントンの新聞)のビジネス・経済欄を担当するジャーナリストだった。シャープで知的な雰囲気を漂わせている。このパーティーのゲストの多くと面識があるようだ。互いの仕事について簡単に話した程度だが、がんばって仕事をしている女性と会話するだけで、心地よい刺激を受ける。

このようなパーティーに参加し、多くのアメリカ人に接して思うのは、私が下手な英語で話をしようが、女性であろうが、常に対等の姿勢で、間違っても見下すような態度をとる人がいないということだ。たとえそれが「見せかけ」であろうとも、人と人との交流を円滑にするのに、非常に好ましい。英語には、日本語のように尊敬語や謙譲語や丁寧語がないせいかもあるが、もちろんそれだけが理由ではない。

ことさら日本のおじさんを批判するつもりはないが、若い女性、しかも無名の会社勤務となると、あからさまに「下」に見る人が少なくない。むしろ、かなり高い地位についている人、仕事やその他で偉業を成し遂げた人の方が、人を見下すことなく、丁寧に接してくれる場合が多い。それは、日本で仕事をしていたころ、著名な人たちにインタビューをした際にも痛感したことだ。

今回のパーティーの席では、名刺交換をする人は見なかった。もちろん、もっとビジネスライクなパーティーに出れば、アメリカでも名刺交換はするし、対会社の人間として話しもする。しかしながら、基本的な会話の主体、立場の主体はあくまでも自分。まずは個性で話をする姿勢がある。

少なくとも私にとっては、日本よりもアメリカでの方が、たとえ英語が不自由であっても互いに敬意を持って話ができるという上で、非常に気分がいいし、楽しいし、得るものが多い。

話が横道にそれるが、以前、在ニューヨークのとある団体主催で、赴任したばかりの駐在員向けセミナーがあった。大企業の新規駐在員がある恒例のセミナーだ。少しでもいろんな企業の人たちと知り合いになりたい「営業心」で、私にしてみれば非常に高額の参加費を支払って出席した。朝から夕方まで丸一日、アメリカと日本のビジネスの違いや法律、経理など、多彩なセミナーの内容にも興味があった。

気合いを入れて名刺をたっぷり持参していったのだが、会場に入って唖然とした。数百名の日本人ビジネスマンが、大学の講義室のように正面を向いて配置されたテーブルに座り、朝食に用意されたクロワッサンとコーヒーを、黙々と口に運んでいる。会話が聞こえない。

セミナーが始まり、質疑応答を求められても、手を挙げる人がなかなか出てこない。そしてランチタイム。この時くらいは、みんな席を立ったりして自己紹介をし合うかと思いきや、仕出し弁当のようなものが各自の机に配膳され、しかもご飯茶碗とおみそ汁まで別に付いてくるものだから、きちんとテーブルに座って食べる以外、術がない。

仕方なく、隣に座っていた男性とだけ話をする。数百名も会場にいるのに、お通夜のようなムードで参った。これは主催者側に大いに問題があると思う。こんな時こそ、アメリカのスタイルで、セミナーを開催するべきではないだろうか。互いに自己紹介をしあったり、ちょっとした世間話ができるような雰囲気を演出することが、非常に実践的であると思うのだが。

ちなみに、そのセミナーに、私を含め女性が3人しかいなかったのも印象的だった。

日本人で、アメリカンスタイルのパーティーが苦手だという人は少なくない。比較的積極的な私でも、最初の頃は何となく気が引けていた。しかし、慣れてしまえば、これほど気軽に、そして短時間の間に、色々な人と出会えるチャンスはないと思う。

今回のパーティーはA男関係のパーティーだったから、私が普段、接することのない業界の人たちと話すことができ、ことさら刺激的だった。

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「ジョブ・ドラゴン」という日本語の就職支援サイトの「コミュニティ」に、私が紹介されていますので、ご興味のある方は、ちらっと、ご覧ください。

http://www.jobdragon.com/index.html


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