JUNE 1, 2005 バラのおかげで |
Tシャツ・ジャージ・スニーカー、髪はひとまとめ、軍手代わりにハンドケア手袋、腰にサポーター、上からウエストポーチ(ガムテープ、油性マジック、メガネ拭き常備)。荷造りの女王も、夕暮れ時は外へ出て、バラを見にゆく。鳥に会いにゆく。もちろん着替えて。 |
JUNE 3, 2005 BAKING! |
明日はティーパーティー。今日のうちに焼き菓子の準備を。スコーンは手作りイチゴジャム&クリームと。アップルタルトはアイスクリームと。フルーツタルトは、旬のベリー類をたっぷり載せて。小さい3つは味見用。さあ、今日は早く寝て、明日は早起きして、サンドイッチやスナックの準備をしなければ! |
JUNE 4, 2005 お別れティーパーティー |
引っ越しを9日後に控えて、今日はお別れティーパーティー。 振り返れば、この3年半の間に、この地を離れた知人、友人らも数多く。 |
JUNE 5, 2005 物心つくまえから、 |
多分とても幸せな、赤ちゃん。 |
JUNE 6, 2005 夏の夜 |
各々、思うところありて、無口な食卓。 |
JUNE 7, 2005 NEW YORK, NEW YORK |
何としてでも、引っ越し前に、と思ったらもう、仕上げずにはいられず。 今日はもう、たいへんな集中力で、ニューヨーク旅の写真と文を、まとめた。 主には、思い出ばかりの、ごく私的な視点からの、マルハン家のアルバム。 どうぞ、開いてみてください。 |
JUNE 7, 2005 幸せの青い馬 |
大陸横断ドライブに備えて、車をメンテナンスに持っていった。DC郊外、メリーランド州のベセスダまで。サービスが終わるまでには、数時間かかるので、向かいのバーンズ&ノーブルでドライブ用の地図を買ったり、 それでもまだ時間があったので、その新興住宅地の、ちょっと作り物めいた新しい繁華街を歩き、 ジュエリーや絵画などの工芸品がどっさりと陳列されたなかから、モンゴル的な空気が漂ってくる一画に気付いて、近寄ってみた。チベット……? いや、モンゴルだ。さらに別のテーブルには、モンゴルの遊牧民をモチーフにした絵が無造作に積まれている。 「これらは、モンゴルのものなんですよ」 店番をしている中年の女性が話しかけてきた。彼女たちは2年半前にモンゴルから来たという。これらの絵画は、夫が描いたのだという。しばらく、モンゴルの話に花が咲いた。 無数の中から、青い馬が目をひいた。 「それは、HAPPY
HORSESです。みんな、幸せそうでしょ?」 「今、現金を持ち合わせていないから、今回はやめておくわ」 すると彼女は、52ドルでもいいですよ。あなたに買って欲しいから。そう言っておまけしてくれた。 これから先、この絵を見たら、DCを離れる間際の、この慌ただしくも、わくわくとした、期待に満ちた心を思い出すことだろう。 |
JUNE 9, 2005 またいつか。 |
今日はルーマニア人カップルのシルヴィア&アンドレイと最後のディナー。みながお気に入りのZAYTINYAで待ち合わせ。まずはスパークリングワインで乾杯し、焼き立てふわふわのピタ・ブレッドをちぎりながら、オリーブオイルをつけながら、食べながら、ついこの間、あれだけしゃべったばかりなのに、競い合うように話題があふれる。 シルヴィアがラッピングした包みを渡してくれた。開くと、赤い表紙のアルバム。最初のページには、先週末のパーティーでの写真がある。その次のページには、彼女たちからわたしたちへのメッセージ、そしてその次のページには、わたしたちが初めて出会った、ヴァージニア州の温泉宿の写真……。 「この夕陽を見ているとき、アルヴィンドとわたし、はじめて話したのよね!」 シルヴィアが笑いながら言う。翌朝、アンドレイが「卵かけご飯」を食べているところ、わたしが食べ方を教えているところも写っている。初めて彼らが我が家に来たときの写真、一緒に桜を見に行ったときの写真、わたしが紹介した友人と彼らが一緒の写真、母と妹が来たときの、サンクスギヴィング・ディナーの写真……。ページをめくりながら、もう、胸がいっぱいになる。 ずいぶん前からの付き合いのような気がしていたけれど、まだ出会ってから1年と少し前だったのだ、ということに気がついて、驚く。 それにしても、コンピュータのモニターで見るのとは違って、やっぱりこうして手で紙を触れながら、ページをめくっていくのはいいものだ。このアルバムは、シルヴィアがコダックのサービスを利用して、作ってくれたのだという。今どきはもう、こんなこともできるのね。彼女の編集のうまさにも、そのサービスの利便性にも、感動する。 「わたしたち西海岸に遊びに行くからね!」「インドへもおいでよ。お腹の薬、持って」「3年後は多分わたしたちロンドンに住むと思う」「ロンドンで会うのもいいね」「でも、ルーマニアにも行きたいなあ」「日本で会うのもいいね。温泉泊まってさ」「ぼくはハワイがいいな」「ハワイはどこからも遠すぎ!」 きっとまた、いつかどこかで会えるだろう。まめなシルヴィアが積極的に働きかけて作ってくれたこの縁を、これからも大切にしていきたいと思った。 |
JUNE 10, 2005 『百合と向日葵』 |
いよいよ明後日は家具の運び出し第一弾。そして明々後日の朝には、ストレージルームが段ボール箱を引き取りに来たあと、午後にはわたしたちも、西へ向けて走り出す。荷造りはもう山場。身軽に暮らしていたつもりなのに、どうしてこんなに、物があるのだろう。今日は途中で抜け出して、近所のスパでフェイシャル。ここが意外にもよくて、驚く。しかしリラックスしたのも束の間、夫は仕事に追われていて、荷造りは手つかず状態。しぶしぶ彼のクローゼットを片付けていたら、ドアとドアの間で思い切り、指を挟んでしまった。ものすごく痛かった。というか今でも痛い。夜、お別れの挨拶に来てくれた友人とおしゃべりし、冷凍庫に残っているアイスクリームを食べて、要らない家具や食器などを引き取ってもらって、その間も夫は、「しまったはずの大事な書類が見つからない!」「捨てたかも!」と、背後で静かに騒ぐ。友人を送りに二人でエントランスまで出て、「また会おうね!」と別れた後、ロビーに入ったらさっきは気付かなかった、百合の花と向日葵の花。その、大好きな2つの花が、たいへん元気ではつらつとした様子で花弁を広げていて、本当に、花はいいなあと思う。さて。もう一息。自分を頼りに頑張ろう! |
JUNE 11, 2005 道。 |
本日、ついには、マルハン家「一丸」となって、荷造りに精を出した。それにしてもだ。「身軽でありたい」などとスローガンしていたのは、いったい誰なんだ。話が違うじゃないかこの荷物の多さは。3年半、努めて物を増やさぬようにしてきたはずだったのに。予想を大幅に上回る段ボール消費量。100箱を超えてしまった。即ち肉体労働量も予想以上。 今夜はもう、鍋釜の類も片付けたので、近所のレストランへ出かける。「引っ越し前は、行きそびれたレストランを巡ろうね」などと話し合っていたのは幻。明日は早朝5時起きだ。アルコールは禁止だ。食べるだけだ。そう言いながら店に向かったのに。いきなり爽やか白ワインを飲んでるし。髪の毛を引っ詰めていたが故に、よりでこっぱちだし。 冷製スープ、ガスパチョを食べ、具だくさんのコブ・サラダを食べ、骨付きラム肉のシャンクを食べ、満腹のころにはもう、酔いが回って、帰り道はまた、てれてれと。蒸し暑い薄暮の住宅街。家々に灯るアイボリー色の電灯。ご近所さんの夕餉の様子。今日もまた、鳥が鳴いて、犬が吠えて、花が香る。このありふれた夕暮れこそ。 「もう、ここを歩くのも最後だね〜」 見上げれば、微笑む三日月。 |