SCENE40: 濁流をかきわけて、ゆく。
DELHI SEPTEMBER 12, 2005/ DAY 14

荷造りをすませ、階下に下りる。
ロメイシュが開けるワインを飲み、語らい、
今日はケサールの料理を、心ゆくまで味わい、
さて、いよいよ出発の時刻。

フライトは午前2時半。ここから空港までは30分。
だから12時ごろに出ても、普通なら間に合う。
けれど夕方から降り始めた雨は、かなり強い雨足で、大地を打ち付けている。

渋滞になることを予測して、早めの11時、家を出た。

案の定、途中から大渋滞。車はほとんど動きをとめた。
ドライヴァーのティージビールの、困った様子が伝わってくる。

「まだまだ、時間には余裕があるから、大丈夫よ」

そう言いながらも、乗り遅れたらそのとき、と思いながらも、気が気ではない。

やがて第一の川。
水にやられて、立ち往生する車が、あそこにも、ここにも。
それらをよけながら、進んでいく。
右に、左に、動かなくなったオートリクショーを押して歩く男たち。

冷や冷やしながらも、ようやく空港への一本道にたどりついたかと思いきや!
次はより深い第二の川。

空港に向かう途中らしき人たちが、動かない車を前に、携帯電話をかけている。
あそこでも、ここでも。

わたしたちの車は、大丈夫?

夫は傍らで寝息を立てている。この期に及んで、熟睡している。

「ちょっと、起きなさいよ! 見てご覧! 窓の外を!」

今にも車は溺れそうなくらい、深いところを、波をかき分けて走っていく。
ティージビールの真剣が、ハンドルを切る腕に、背中にほとばしっている。

「大丈夫、これは日本車だから。」

と、自らにいい聞かせ、濁流を眺める。

辛うじて、車は濁流を渡りきり、無事に空港へ着いた。

荷物をカートに積み込み、出発ロビーへ向かう。
ティージビールが、満面の笑みで手を振る。

飛行場。

延々と続く道の上に、繰り返し現れる、出口と入り口。
この飛行場もまた、同じ場所にありながら、最早、同じ場所ではない。

4年前、初めて降り立ったときから、何度となく、出入りしてきた地点。
あの初めてのときから、どれほどの道のりを進んだだろう。

次の、その次の、我々の出入り口は、果たしてどの飛行場だろう。

まだもうしばらくは、視界の悪い道の上を歩いていく。


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