SCENE15: 日曜の午後。ここはインドなのかイタリアンなブランチ
MUMBAI (BOMBAY) SEPTEMBER 4, 2005/ DAY 6

遠い親戚にいざなわれ、
イタリアン・レストランでブランチ。
スパークリングワインで乾杯のあとは、
目移りするほどたくさんの前菜ブッフェ。
メニューには、平然とビーフもあって、
店そのものも、訪れる人たちも、
ここはいかにも、新しいインド。


【9月4日(日)】

夫のはるか遠い親戚が、偶然、同じホテルに滞在していた。アトランタ在住、ムンバイ出身の彼は、現在、米国の大手不動産会社に勤めており、インドのオフィスビルや高級アパートメントの開発などに携わっている。彼は最近、しばしばムンバイを訪れており、今回も家族を米国に残して1カ月程の滞在だという。

実は昨日、わたしたちは「住宅地見学」の折、タージグループが開発した超高級アパートメント "Taj Wellmington Mews" を訪れた。この建物は建築されたばかりとあって、さすがに外観も美しく、周辺区域も整備されている。スパやカンファレンスセンター、プールなども完備。いわば滞在型のホテルである。「住みたいかも」という雰囲気が漂っている。

参考までにとフロントで資料をもらう。一室あたりの面積が広いのだろう、わずか80室しかないというその物件の内訳と家賃を見て、眼を見張った。家具付きとはいえ、ステュディオ(1部屋)が1カ月5500ドル、2ベッドルームは12500ドル、3ベッドルームは15000ドル。1カ月の家賃が、優に100万円を超えるのである。「住みたいかも」などと横柄に言ってる場合じゃないのである。

噂には聞いていたが、ムンバイ。世界で一番、天と地、頂点と底辺の差が著しい場所ということを実感する。

その"Taj Wellmington Mews" の開発に、はるか遠い親戚であるところの彼は携わっていたらしい。その彼に誘われて、今日はホテルの真裏にあるイタリアン「インディゴ(INDIGO)」でブランチ。汚らしい周辺環境とは裏腹に、異種の空気が流れているような爽やかさの、おしゃれな店内。カウンターには目にも美しい色とりどりのアンティパスト(前菜)が並んでいる。

まずはスパークリングワインで乾杯し、偶然の再会を祝す。ムンバイの「最先端」を熟知する彼から、この町のさまざまを聞く。我々の赴任先はバンガロアが有力だったが、ここにきてムンバイが優勢である。

「ムンバイはニューヨークと一緒で何もかもがスピーディーなんだ。仕事のチャンスはバンガロアとは比べ物にならないくらいある。バンガロアは確かにハイテク関係じゃ成長しているけれど、南インド特有のスローな空気だしね。面白くないよ」

ムンバイ大好きな彼は、わたしの仕事にも言及し、

「君には、絶対にムンバイの暮らしが合ってるよ」と言い切る。

リスクを嫌い、慎重に物事を進める傾向にある夫に向かって、

「君はまだまだ若いんだから、新しいことにチャレンジしなきゃ。いくつ? 33歳? まだまだこれからだよ。失敗を恐れてちゃだめだよ。僕みたいに年をとってるならともかくさ」

と、はっぱをかける。「僕はもう年だけど」と、日本人的常套句を口にする彼に、夫が「そういう君は、いま幾つなの?」と聞けば、「君より7つ年上だよ。結婚が遅かったから、息子はまだ3歳だけどね」とのこと。

なによ〜。わたしと同じじゃ〜ん。自分だって、若いんじゃ〜ん。と言いたいところだったが、インドにおいて「年上の妻」は基本的にタブーで、夫もわたしが年上だと知られるのを好まないので(でも最近じゃ貫禄も手伝って、見るからに年上なんだけど)、黙っておいた。

ちなみに彼は、日本人であるわたしにとてもフレンドリーだ。というのも、若かりしころ、日本人女性と付き合っていて、彼女とともに日本へも行ったことがあるという。

「彼女は弁護士で、とても知的ですばらしい女性だったよ。さばけた女性だったんだけど、日本料理店に行くと、なぜか態度が変わるんだ。僕にビールをお酌してくれるんだよ。日本料理店以外では、絶対にそんなことをしないのに、日本料理店に来ると、お酌をしなきゃならない気分になるんだって。あれはおかしかったな〜」

どうして彼女と別れることになったのかは知らないが、ひょっとすると家族の反対にあったのではなかろうかという気がした。

ところで彼もまた、「おいしいもの好き」らしく、ムンバイのグルメ情報に明るい。

「この店のスフレがおいしいんだよ。あ、でもムンバイで一番のスフレといえば、タージマハルホテルのゾディアック・グリルだな。あそこのカマンベールチーズ・スフレは最高だよ!」

スフレもまた、夫の好物である。案の定、彼にとっての「ベスト・スフレ」話が始まった。

「スフレっていえば、ニューヨークのトライベッカに、Capsouto Frereっていうフレンチビストロがあるんだけど、そこのスフレも最高だよ! 焼き立てのスフレに、ウエイターが目の前で、とろりとしたソースを流し込んでくれるんだ。ソースには何種類かあって、どれもおいしいんだよ〜」

「今じゃ、ムンバイでも、そんなのふつうだよ、ふつう!」

ほとばしるムンバイひいきである。濃い顔した男二人が、スフレで競い合ってどうする。

そんなこんなで、おいしい料理を堪能し、会話も弾んで、楽しいブランチであった。


インド門の前で行われるロックコンサートに先立ち、ホテルからも「騒音に関する通達」が部屋に届いた。音量は、我々ではコントロールできないとのこと。土曜と日曜の夜の騒音を覚悟していた。ところが静かな土曜の夜。イヴェントの主催者が、警察に許可を取るのを忘れ、直前で中止になったとか。新聞、TVのニュースでも取り上げられ、事態は裁判沙汰に。インドだもの。

夫の友人に案内されて、タージマハルホテルの真裏にあるレストラン「インディゴ」で、日曜日のブランチブッフェ。2階はバーと、テラスのあるパーティールーム。

スイーツも種類がたくさん。バナナ・ブレッドプディングにライムパイ、チョコレートケーキなど。「パラペーニョ(唐辛子入り)」という斬新なチョコレートケーキは、しかし非常に美味だった。

アンティパスト(前菜)のブッフェ以外に、主菜をアラカルトで注文できる。わたしはマッシュルームのリゾット、友人はエッグベネティクト、夫はステーキを注文。このワッフルはお店のサービスでテーブルに。

 

夫が注文した小振りのステーキ。インドで牛肉を食するなどもってのほか、と思われそうだが、昨今はもう、ビーフを出す店の存在は、さほど珍しいわけではないようだ。アンティパストにもおいしいローストビーフがあった。夫曰く、ステーキ肉は柔らかめで、とてもおいしかったとのこと。わたしは満腹で、味見する余地もなかった。

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