ハースト・キャッスルをあとにして、ルート101をひた走る。海が見え隠れするルートだ。このあたりにはアザラシも多いが、あいにく視野に入ってこなかった。やがて道は上り坂になり、蛇行も激しくなる。西日が照りつけまぶしい。せめて8時には終着点へ、と思っていたけれど、今日もまた遅くなってしまいそうだ。 太平洋は、青く、広く、果てしなく、無口にさせる。何度か、見晴らしのいい場所で車を停める。 「あそこにクジラがいるの。見える?」 先に到着していたカップルが声をかけてくる。確かに、遠くに黒い影が見える。このあたりは、クジラもときおり姿を見せるのだ。カモメは空を舞い、風は吹きつけ、まばゆい水面に目が眩む。 やがて、ビッグ・サーが近づいてきた。去年、夫とともに訪れて、彼がとても気に入った場所だ。無論、厳密にはビッグ・サーのやや南にある「ジュリア・ファイファー・バーンズ・ステイト・パーク」というのが、その地の正式名称である。白砂の入り江があり、そこに滝が流れ落ちる、美しい景観があるのだ。 せっかくだから寄っていこうと、車を停め、トレイルを数分歩き、展望所まで行く。前回は昼間に訪れたので、滝のあたりに日差しが差し込み、全体に白っぽかったのだが、今日はいい具合に日差しが柔らかで、入り江のようすがくっきりと現れている。 今度来るときには、トレイルを歩いて、入り江まで歩こうね、と言いながら、展望所をあとにする。 さあ、これで寄り道はおしまい。2週間にわたる大陸横断の旅も、いよいよ最終章だ。シリコンヴァレーのサニーヴェールという町のホテルに予約を入れている。日が暮れてしまう前に到着するだろうか。 途中、工事渋滞に巻き込まれ、しばらくノロノロ運転が続き、サンノゼに近づくころには、あたりが夕映えに染まりはじめていた。シリコンヴァレー。確かに、その名のとおり、周囲を山並みに囲まれた「谷間」のような場所に広がっている。ハイウェイを走りながら、どこまでも続く山並みを眺めながら、ここが、これから当分の、わたしたちの「ただいま」と呼ぶ場所になるのだな、と、思う。 道に迷いながら、ようやくホテルにたどり着いた頃には、すっかりあたりは闇に包まれていた。急いでチェックインをすませ、閉店間際のレストランに駆け込む。 二人とも、気持ちが混沌としていて、もう旅が終わったのだ、という実感がわかない。ひとまずは、旅の無事の終わり祝して、ビールで乾杯する。そして、感慨に浸るまもなく、明日の予定を相談する。数日のうちに住処を見つけ、暮らしの基盤を整えなければならない。7月1日から、夫は新しい仕事を始める。 この旅で体験したことは、これから先、少しずつ、何らかの形で、わたしたちに影響を与えてくれるだろう。今は、ただ走り終えて、新しい土地に到達できたことを幸いに思うばかりだ。一刻も早く、ここでの暮らしが軌道に乗り、わたしたちの"HOME"
が日常のサイクルで営まれるための準備をしよう。 それにしても、アメリカ合衆国は、広い。 そして世界は、もっともっと、広い。 JULIA
PFEIFFER BURNS STATE PARK [DAY 15/
Miles Driven: 376 (3920)]
JUNE 27, 2005/ DAY
15
HEARST CATSLE, SAN
SIMEON (CALIFORNIA)- BIG SUR (CALIFORNIA)- SUNNYVALE
(CALIFORNIA)
紺碧の海を眺め走る。ビッグ・サーを経て、旅の終着点、新しい暮らしの始発点へ
シリコンヴァレー。今日からここが、わたしたちの拠点だ。がんばっていこう。