JUNE 21, 2005/ DAY 9
MONUMENT VALLEY: NAVAJO TRIBAL PARK & THE NAVAJO RESERVATION (UTAH)
モニュメント・ヴァレーで迎える朝。毎日の、けれど今日だけの、格別の朝日

夜明け前に目が覚める。バルコニーに出る。砂岩*の連なる風景の向こうから、太陽の光がこぼれはじめている。寝ている夫を起こし、急いで顔を洗い、服を着替えて外に出る。朝の空気は軽く涼しく、申し分のない爽快さ。

日の出を見ようとロッジを出て、少し見晴しのいい場所まで歩く。前方に、やはり日の出を見るために集っているのであろう十数名の東洋人がいる。日本人だろうか……と思うが早いか、わたしに気づいた年輩の男性が「おはようございます!」と声をかけてくれ、皆が一斉に「おはようございます!」と一斉に挨拶。爽やかな朝である。

「日の出前にみんなで集合するなんて、さすが、時間に厳しい日本人だねえ〜」と夫は感心している。ロッジは満室状態なのに、日の出を見ようと起きだしているのは日本人多数とインド人1名だけである。

やがて、四方に太陽が光の矢を放ちながら、顔を見せ始めた。まだ太陽が地平の下にあるころは、淡くぼやけていた色彩の岩肌が、急に生気を帯びたように、温かく色付いていくさまがすばらしい。毎日繰り返される、しかし厳かなる夜と朝の境目。

うっかりと太陽を見つめ過ぎて、視界に黒く丸い影がいくつもできてしまった。

日の出を眺めたあと、ダイニングルームで朝食をとりながら、今日の計画を練る。今日は夕方までにグランドキャニオンの近くまで行き1泊し、明後日はセドナという町に1泊の予定だ。セドナのホテルには予約を入れているが、今夜はどこかで適当にモーテルなどを見つける予定である。

グランドキャニオンに時間を割くなら早めに出発するのがいいのだろうが、このモニュメント・ヴァレーにもっと近付いてみたいと思い、ツアーに参加することにした。ロッジ主催のツアーもあるが、ヴィジターセンター(観光案内所)近くからナヴァホの人たちがガイドをしているジープツアーが出ているというので、ロッジをチェックアウトしたあと、ひとまずそこへ行ってみることにした。

ヴィジターセンターには、ジュエリーや陶器、織物など、ナヴァホ・インディアンの工芸品がたっぷりと陳列された土産物店、眺めのいい食堂が併設されている。土産物店の一画で、俳優ジョン・ウェイン関連の書籍が数冊販売されていた。

名監督ジョン・フォードは、このモニュメント・ヴァレーを舞台に、いくつもの西部劇を撮影した。ジョン・ウェインの出世作となった『駅馬車』、『黄色いリボン』などは、先のグールディングス・ロッジを拠点に撮影されたという。ちなみにロッジの一画には小さなミュージアムがあり、撮影の様子を偲ばせる写真などが展示されている。

以前もどこかで書いたが、我が亡父、坂田泰弘の晩年における家庭内ニックネームは「ジョン」だった。それは、遠い昔、父の知り合い約一名が若いころの父をして、「ジョン・ウェインみたいだ」と、褒めたたえたことに由来する。娘から見るに、それはちょっぴり勘違い? な気がしてならなかったが、自ら「ジョンです!」と陽気に名乗るがん患者に「それは違うよ」と誰が言えるだろう。誰も言えまい。

そんなわけで、ジョン・ウェインの写真を見たとき、父を思って、ちょっと心が震えた。

さて、ヴィジターセンターを起点とした、砂岩群を間近に見られるルートは"VALLEY DRIVE" (ヴァレー・ドライヴ)と呼ばれるオフロードだ。四輪駆動車など、強靱な車に乗っている人ならば、地図をもらい、自分たちで巡ることも可能だが、我らがホンダ・アコードでは到底無理だ。

それでなくても重い荷物を抱えて、短期間に2000マイル以上も走り、更には数日中に1000マイル以上、走ってもらわねばならないのだから、無茶はさせられない。

ヴィジターセンター前には、ジープツアーや乗馬ツアーの案内を掲げた、掘建て小屋のような簡素な店が出ている。そこから1軒を選び、1時半、2時間半、3時間半、ほぼ一日と、いくつかのプランがある中から、わたしたちは2時間半のプライヴェートツアーに参加することにした。

本当ならじっくりと3時間半くらいは巡りたいところだが、グランドキャニオンに行く途中にも、立ち寄りたい場所があるから、ここに長居するわけにもいかない。

運転手兼ガイドはナヴァホのおじさんだ。彼の運転する、ドアの開閉さえままならない、おんぼろのジープに乗り込む。猛烈な砂埃を巻き上げながら、ジープは砂岩群に向かって走りはじめた。

GOULDING'S LODGE

*砂岩には、メサ、あるいはビュートと呼ばれるものがある。
●mesa(メサ):周囲が急斜面で頂上が平らな地形で、プラトー(plateau)よりは規模が小さい。
●butte(ビュート):孤立した周囲の切り立った丘でメサ(mesa)よりも規模が小さい。


ロッジの部屋のバルコニーから、まだ日の出前の風景。

まだ朝日に照らされる前の岩肌と、寝ぼけ顔の日本人女性。

やがて砂岩の向こうから、太陽がじわじわと上りはじめた。とっさに手を合わせて拝む夫。インドの習慣? 初日の出を拝む年輩な日本人のようでもあり、ミレーの「落ち穂拾い」の夕景のようでもあり。

太陽が顔を見せた途端、光に照らされた岩肌は目を覚ましたかのように、色味を帯びて、きらめきはじめた。が、まだ寝ぼけ顔の日本人女性。

長い長い影法師も生まれて、日の出前とは異なる情景。

本当に、すばらしい立地にあるロッジ。

朝食はヘルシーに、フルーツとオートミール、ヨーグルトを注文。

ロッジの便せんと封筒、そしてポストカード。

ナヴァホ国のサイン。 

ここからモニュメント・ヴァレー。

ひとまずはヴィジターセンターへ。

ナヴァホ・インディアンの工芸品が売られている店や食堂がある。

ここでは、ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の映画がいくつも撮影された。

いくつかあるジープツアーから適当なコースを選ぶ。少々割高でも、個人のツアーがおすすめ。

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