●母妹渡米 特別編●2004年11月24日から12月7日まで、福岡から母幸子と妹あゆみが遊びに来ていました。二人が米国に来るのは2002年の初夏以来です。サンクスギビングデーを皮切りに、クリスマスのイルミネーションに彩られたニューヨークやDCの町並みを目にしながらの2週間。例年に比べると暖かく、全般的に好天に恵まれ、ほぼ連日、出歩き遊ぶばかりの日々でした。そのときの様子の断片を、ここに記しておこうと思います。

NOVEMBER 24, 2004  ようこそアメリカへ!

早朝、福岡空港を出発した二人は、成田空港にて国際線に乗り換え。
全日空機でワシントンDCのダラス国際空港へやって来ました。

午前10時ごろ、遅れることなく無事に到着!

 

NOVEMBER 25, 2004  HAPPY THANKSGIVING!

  

サンクスギビングデーの早朝。少し曇り空だったが、次第に雲が晴れてきた。母と妹と3人で近所を散歩。1時間ほど歩く。

やがて灰色の雲が立ちこめてきて、家に帰り着いた後には雨。しかしまた、雲は晴れて、青空がのぞく、美しい秋の空。

さあ、2時からのパーティーに向けて、準備を始めよう。


 

今年のパーティーは6人だから、ターキーは小さめ9.7ポンド。結構大きく見えるけれど、去年の16ポンドと比べるとかなり小柄。

今年のスタッフィングは「栗おこわ」。母は、栗の皮を剥いているところ。渋皮が剥がれにくい。日本の栗に比べると、形が悪くておいしくなさそう。

右はブリーチーズの上にいちじくジャムを塗ったもの。おつまみ。お菓子のようにおいしくて、宴の前に食べはじめて、やめられない。


 

部屋を彩る秋の花々。

菊の花にもいろいろあって、どれも暖か秋の色。


 

そしてターキーの焼き上がり。今年もこんがり、おいしそうにできました!

(仕上がりの形が去年と違うと思ったら、本当は、胸を下に「うつ伏せ」で焼かなきゃならないのに、間違って今年は「仰向け」で焼いてしまった! )

手前の付け合わせはマッシュドポテト。奧はターキーの肉汁やスープストックで作ったグレイビーソース。そして妹作のエビ・マカロニグラタン。フェネルやズッキーニ、ニンジン、ブロッコリーはオーブンで調理中。


 

友達、ルーマニア人のシルヴィアとアンドレイも到着。料理を前に記念撮影。みんなお腹が空いていて気もそぞろ。本日、わたしが「一家の長」となりて、ターキーを切り分けた。マーサ・スチュワート的に。

ターキーとソースの相性もばっちり。栗おこわとターキーの相性もまた和風テイストが入って去年を凌ぐおいしさ。見た目の悪かった栗は、しかし「マロングラッセ」を彷彿させる甘みと歯ごたえ。意外なおいしさに喜びひとしお。エビマカロニグラタンもほどよい焼き加減で、みんなよく食べた。


 

部屋で気取る母。と、シルヴィアたちが差し入れてくれた、おいしい濃厚チョコレートケーキ。

3時頃から夜更けまで、宴は続いた。今年もまた、いい一日が送れました。

神に感謝の感謝祭。

 

NOVEMBER 26, 2004  ジョージタウンへショッピング

今日は朝から青空快晴。早起き散歩のあと朝食をとり、母と妹と3人でジョージタウンへお出かけ。夫はインド人の親戚宅に招かれて、ひとりベセスダへ。

街はサンクスギビングの連休とあって、行き交う人も多く、華やいでいる。アンティークショップやブティックを覗きながら、ゆっくりと坂道を下っていく。普段は立ち寄らない店に、足を運ぶ。少しずつ、荷物が増えてゆく。

「ドサを食べておいで!」という夫の勧めに従い、なぜかランチはインド料理の食堂で。味よりも、見た目のインパクトが印象的な、これはドサの写真。スパイスの効いたポテトが巻き込まれた「マサラ・ドサ」を、マンゴーラッシーとともに味わう。わたしと妹はそれなりに楽しみ、母は「?」のご様子である。


食後もショッピングモールやブティックを歩く。ちょっと奇抜な「大人の玩具店」にも立ち寄って、母も妹もちょっぴりカルチャーショック。ふふふ。

最近はもう、5時を過ぎると暗くなって、瞬く間に薄暮の時刻。手に手に紙袋を携えて、タクシーで帰路につく。

夫はインドの親戚宅で、ごちそうランチを食べてきたらしく、とても御機嫌。
「グラブ・ジャムン、おいしかったよ〜」に始まり、宴のメニューの逐一を説明してくれた。

夕飯は、昨日のパーティーの残りをあれこれと、温めなおしての。翌日でも、それなりにおいしいターキーである。でも、もう、十分。

 

NOVEMBER 27, 2004  郊外のショッピングモールへドライブ

「美穂たちも、こんなふうになるんでしょ! 僕はショッピングなんて行かないからね」
今朝のニューヨークタイムズ一面の写真を示しながら、夫が笑って言う。そこには、サンクスギビングのホリデーセール(時間限定)に殺到する人々の姿が。「わたしたちは、のんびりと、お買い物するんです!」そう言い残して3人で、車に乗り込みヴァージニア州へ。

トールペインティングの専門店や手工芸品の一大ストア"Michaels"などを訪れる。ありとあらゆるハンドクラフトの材料がそろった店内は、むやみやたらに創作心をかきたてるけれど、やるべきことの優先順位を思い巡らせ、「買っちゃダメだ」と自分に言い聞かせる。母と妹は日本にはない素材などを買い集め、旅の序盤から、スーツケースの空きスペースを心配する。


更に車を走らせて、タイソンズ・コーナーにあるショッピングモールへ。

MACY'S, NEIMAN MARCUS, SAKS FIFTH AVENUEといったデパートメントストアのほか、リッツカールトンホテルを併設した、大きなショッピングモールだ。

まずはチーズケーキファクトリーでランチ。わたしの好きなタイ風チキンのサラダラップをはじめ、アメリカ的にハンバーガーやエビのフライなどをオーダー。そのボリュームの多さに驚嘆するもまたをかし。

食後、ふらりとモールを散策。サンフランシスコの銘菓(?)、"See's Candy"が臨時出店していたので、お気に入りのナッツ入りチョコレートキャンディを購入。母と妹も気に入って、いくつかをお土産などに。

 

NOVEMBER 28, 2004  近所をお散歩。近所でお買い物。

明日から3泊4日のニューヨーク旅行に備えて、今日はちょっぴりのんびりと。
天気がよかったので、わたしと夫は久しぶりに、二人で近所を散歩する。
森の道を歩く。木漏れ日の中、比較的、黙々と。

それから母と妹も合流し、ビショップス・ガーデンへ。
こんなことをしていいのか悪いのか、知らないけれど、
母が持ってきていた父の灰を少し、枝垂れ桜のたもとにまいた。
それから近所のスーパーマーケット、ホールフーズとセーフウェイへ。半ば見学の気分で。

ディナーはベセスダのスペイン料理店「ハレオ」にて。
サングリアで乾杯し、あれこれのタパスを味わう。瞬く間に4連休が過ぎる。

 

NOVEMBER 29, 2004  さあ、クリスマスシーズンのニューヨークへ!

今朝もまた、朝焼けが美しい。
この部屋からの毎朝の、見事な朝焼けはまた、ささやかな贈り物。

荷物を整え、8時過ぎに、家を出る。
夫は明日から2泊3日でカリフォルニアに出張。少し気が楽だ。

今年はニューヨークもまた、あまり寒くないようで、よかった。


前回はレンタカーでニューヨークへ行ったけれど、今回はアムトラック(長距離鉄道)で出かけることにした。ユニオンステーション(写真)を9時に出発。12時過ぎにはマンハッタンに到着する。

アムトラックはシートもゆったり、なかなかに快適なのだ。途中、カフェカーでコーヒーを買ったり、持参のおやつを食べたり、まどろんだりしながらの3時間あまり。

幸い遅れることもなく(アムトラックはしばしば遅れる)、ニューヨークのぺン・ステーションに到着した。


まずはカーネギーホールの向かいにあるホテルにチェックイン。それからタクシーに乗ってコリアタウンへ。以前訪れた時に味わったコリア料理の味を再びと、妹のリクエストに応えて。コリア料理は、注文した料理に、たっぷりの前菜が「おまけ」でついてくるのがうれしい。「これにご飯があれば十分!」というくらいに。でももちろん、あれこれと頼むのだけれど。わたしたちは、石焼きビピンパに豆腐のスープ、春雨の炒めもの料理を注文した。わたしは韓国のOBビールも。ホットな料理とビールですっかり身体が温まり、満腹の昼餐。

コリアタウン周辺の問屋街(付近にパーソンズというファッション関係の専門学校もあり、この界隈は通称ファッション・ディストリクトとも呼ばれている)で、日が暮れるまで、リーズナブルなジュエリーなどを見て回る。


コリアタウンからタクシーを飛ばし、今度はミッドタウンの北部へ。57丁目でタクシーを降りる。夜になるとクリスマスのイルミネーションが際立って美しい。

毎年、57丁目と五番街の交差点の中空に浮かぶ、巨大な雪の結晶を見るのが大好きだった。今年の雪の結晶は新しいものになっていて、わたしは以前の方が好きだったけれど、新しいものは新しいものなりに美しかった。

わたしにとって、ニューヨークのクリスマス情景は、格別の思い入れがあるのだと思う。どんなに冷たい風に吹かれても、イルミネーションが心を沸き立たせてくれた。12月のこの街を歩き、過ぎ去った一年を振り返る。少し儀式めいた心持ちで、新しいスケジュールノートを買う。まっさらなノートの滑らかな紙面に、最初の一文字を綴る時の、小さな緊張感。終わりと始まりの交錯する時節はセンチメンタルを連れてくる。


この時期のマンハッタンは、デパートメントストアのショーウインドーも華やぐ。
クリスマス仕立てのディスプレーが美しく、人々は「誘導路」に沿い、ウインドーを眺め歩く。

写真は高級百貨店「バーグドルフ・グッドマン」のショーウインドーの一部。
それぞれのウインドーが、それぞれのテーマで語られている。いずれの窓も斬新で印象的。

これはチョコレートをモチーフにしたもの。
その緻密なデコレーションは、じっくりと隅々までを眺めてしまいたくなる興味深さ。


雰囲気のいい場所でお茶でも。
と、セントラルパークに面したプラザホテルに入る。
観光馬車が行き交うあたり。

ロビーにはきらびやかなクリスマスツリーがそびえ立ち、一段とゴージャスな雰囲気。
まばゆいシャンデリアもクリスマスに似つかわしく、昼間のコリアタウンとは別世界。


軽くお茶のための休憩のつもりで入ったけれど、
ラウンジは、ハイティー&アフタヌーンティーの時刻。
周囲には、おいしそうなスイーツを味わい楽しむ人々の姿が。

夕食の代わりに、3段のトレイが魅惑的なアフタヌーンティーをとることにした。

それぞれに、好みのお茶を飲みながら、何杯も飲みながら、
サンドイッチやスコーンや、プチガトーを味わいながら、語り合う。
周りのゲストがいなくなって、ウエイターさえいなくなって、
ついには花屋さんがフラワーアレンジメントに水をやりにくるころまでも、語り合う。
「閉店ですよ」と言われないのをいいことに、いったいどれほど居座っていたのだろう。


清らに白いユリの花。大好きな花のひとつ。

それがホテルの随所に飾られているので、とてもうれしい。

好きだと思う美しいものを、目にすることができることは、

ただ目にすることができる、それだけでも、とても喜ばしいこと。

 

NOVEMBER 30, 2004  朝な夕なに街を行く。ロックフェラーセンターのクリスマスツリーも点灯される

朝食は、母も妹も以前来たことのある、デリカテッセン&カフェMANGIAで。
イタリアなど、地中海沿岸地方の料理が味わえる。57丁目、五番街と六番街の間。

わたしはカフェオレとクロワッサン。妹はサラダなど。
母は冷菜のブッフェからあれこれと、エッグサンドイッチ。
ホールウィート(全粒粉)のパンが素朴でおいしい。
母のお皿から少しずつを味見しながら、カラフルな朝食。

食後は、点灯式前のツリーを眺めにロックフェラーセンターへ。大きなもみの木。
メトロポリタンのミュージアムストアでお土産などを買ったあと、
インテリア雑貨などを求めて、ユニオンスクエアまでタクシーを飛ばす。


母が毎度訪れる、ABCカーペットでウインドーショッピング。
来るたびに、個性的な内装はその表情を変え、
今回は一段と、オリエンタル風味が強調されていた。

一通り、館内を巡ったあとは、1階のベーカリー Le Pain Quotidienで休憩。
このベーカリー&カフェはブリュッセルが発祥の地。
ベルギーをはじめ、イタリアやフランス、スイス、米国の各地に店を出している。

まるで「学生食堂」のような、長くて大きな白木のテーブルが並んでいて、
それが不思議と、とてもリラックスさせてくれる。
このレモネードはフレッシュで、甘さもほどよくて、とてもおいしかった。


ソーホーまで出かける予定だったが、ユニオンスクエア周辺散策で買い物をして、
ランチも食べて、ちょっとくたびれたのでホテルへ戻った。
夕方、ロックフェラーセンターのクリスマスツリー点灯式の直前、様子を見に出かける。
それはもう、たいへんな人込み。まさにお祭り騒ぎだった。

喧噪を逃れるように、五番街にあるホテル、セント・レジスへ。
ここで軽くお茶でも、と思ったのだが、またしても!! ハイティーに目を奪われる。
今夜はコンサートだから、またしても、ハイティーが夕食がわり?
撮影するのに憚られるエレガントなラウンジだったので、こっそりと撮った一枚。
写りはよくないけれど、ここのハイティーはプラザ・ホテルより、格段においしかった。
ハープ演奏も傍らで。わたしはお茶の代わりに白ワイン。とても贅沢な気持ち。


夕べ、ホテルへの帰り道、カーネギーホールの前を通ったら、フジ子・ヘミングのピアノリサイタルのポスターが目にとまった。母も妹も、聴いてみたいというので、窓口に行った。するとオーケストラ席の、比較的いい席が、いくつか空いていた。窓口が閉まる5分前、ぎりぎりで、チケットを購入したのだった。

ショパンにドビュッシー、そしてリストなど。耳慣れた曲。わたしの好きな曲もいくつか奏でられた。「幻想即興曲」もまた、胸に迫った(『街の灯』「ピアノレッスン」)。改めて、ピアノを思った。

でも本音を言えば、彼女の演奏を、わたしはあまり好きではなかった。あの旋律を、優しく柔らかく滑らかと感じる人が多いのだろうけれど、わたしには、ねっとりと歯切れが悪く聞こえた。それでも、アンコールを含め、プログラムにあるよりも5曲も多く奏でた彼女の熱意と、ピアノに対する意気込みに感嘆した。ピアノ……。

 

DECEMBER 1, 2004  今日は母と二人で。夜はリンカーンセンターで「くるみ割り人形」のバレエを。

今朝は雨模様。妹は、ニュージャージー州に住む学生時代の友人に会いに出かけた。わたしと母は午前中、ホテルでくつろぎ、昼ごろになって外へ出た。日本食が食べたくなり、「めんちゃんこ亭」という店でブランチ。母は「おでん定食」を、わたしは「めんちゃんこ」という具沢山のチャンポン風料理を注文する。久々の日本の味は、なかなかにおいしくて、すっかり満腹。店を出たら雨が止んでいて、見上げれば青空。の下で白い雲がぐんぐんと、たいへんな勢いで流れている。まるで、映画を早送りで見ているみたいだ。

それから、新装オープンしたばかりのMoMA(現代美術館)へ。日本人建築家の谷口吉生氏が手掛けたという建築物は、ミュージアム特有の閉塞感がないのに驚いた。美術品を痛めないように配慮した上での、ふんだんな窓。光と影の調和。以前とは全く異なる、「広さ」を実感させられた。ただ、鑑賞者が集まりやすい印象派や超写実主義の作品群が、他のモダンアートに比べると「狭いところに押し込まれている」感じがした。


子供のころから、サルバドール・ダリの作品が気になる。好きか、と問われると、即答しかねるのだが、見たいのだ。凝視したいのだ。面白いのだ。だからスペインの、彼のふるさとのフィゲラスや、彼の住まいがあるカダケスを訪れたこともあった。フィゲラスの彼のミュージアムは、本当に、とてつもなく面白い。それは上質の、アミューズメントパークだ。

ダリだけでなく、シュールレアリストの画家は、たとえばジョルジョ・デ・キリコやルネ・マグリット、ポール・デルヴォーなど、みな一様に気になる。気になるということは、やっぱり好きなのか。でも部屋には飾りたくない作品ばかり。好きと言うには憚られる、あくの強い作品ばかり。

バケットを頭に掲げ、トウモロコシを首にまき、額に蟻を這わせた女の白い肌。


まるでお菓子の国のようなインテリアショップMACKENZIE-CHILDS
以前はアッパーイーストサイドにあったが、しばらく前に57丁目に移転していた。

白黒格子模様をアクセントにしたカラフルな陶器類をはじめ、
キッチン用品、バス用品、テーブルセッティングなどさまざまな商品が飾られている。
ふりふりのタッセルも愛らしく、ゲスト用バスルームもデコラティブ。
まるでミュージアム見学のような真剣さで、
いつまでも、店のなかをうろうろと、歩いている。


夕べ点灯されたばかりの、クリスマスツリーを見に行く。
今年のツリーのてっぺんには、スワロフスキーのクリスタルでできた星が煌めく。
ツリーのたもとでは、すいすいと、氷上を滑る人々の姿。

もう、何度となく目にしたツリーだけれど、見るたびに心がわくわくとする。
そして喜ぶ母の姿を見られたことも、ひときわの、うれしさ。

冬のニューヨークは寒いだろうからと、さまざまな防寒着を備えてきていた母だけれど、
いつになく暖かなこの頃は、コートさえあれば十分で、本当によかった。


今日は五番街沿いを中心に、歩く。

バーグドルフ・グッドマン。
ヘンリ・ベンデル。
サックス・フィフスアベニューなどに立ち寄りながら。

これは5番街のカルティエのビルディング。
大きなリボンを巻き付けられて、
エントランスにはきらびやかなティアラ。


ロックフェラーセンターのカフェテリア、DEAN & DELUCAで休憩。グレープフルーツジュース、コーヒー、キャラメルコーティングされたポップコーン、そしてチーズ風味のスコーン。母のリクエストで買ったポップコーン。ほどよい甘味と香ばしさ、そしてナッツの歯ごたえがよく、想像以上においしかった。2階の席から、人々の様子を見下ろしながら、飲み、食べる。

ホテル近くのコリアンネイルサロンで、軽くフットマッサージをしてもらった。
足がずいぶん軽くなり、気分もすっきり。


今夜のイベントはサプライズ!ニューヨークシティバレエのクリスマスシーズン恒例「くるみ割り人形(The Nutcracker)」。数年前、夫と一緒に鑑賞して、とても楽しかったから、ぜひ母と妹にも見せたいと思ったのだ。妹が幼いときから、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の旋律を好きだったのを知っていたから、尚更だった。

リンカーンセンターに到着しても、二人は何を見せられるのだかわからない。それがバレエの「くるみ割り人形」とわかって、二人は本当に、喜んでくれた。ざわざわと、人々の動きが漂う空気。着飾った子供たちのかわいらしらしさ。開演前のこのひとときもまた、心が浮き立つ楽しいひととき。
着席し、灯りが落とされ、拍手とともにオーケストラ演奏が始まり、幕が上がる……。


「くるみ割り人形」。本当に楽しい舞台だった。

シアターを出て、強風に吹き飛ばされそうになりながら、向かいにあるROSA MEXICANOへ。平日だと言うのに、毎度のことながら込み合っていて、しばらく待ってテーブルへ。フローズンマルガリータで乾杯し、グァカモレ(アボガドをトルティーヤと共に食べる前菜)を食べ、セビーチェや肉料理を味わう。

店を出て、かつて住んでいたアパートメントビルディングを仰ぎ見て、タクシーに乗り込む。遠い日々が目前に迫って来る。

ホテルへ戻ったあと、妹と二人でロックフェラーセンターまで歩く。夜のイルミネーションを見るために。


五番街。セントパトリックス教会のあたり。

観光馬車が走り抜けて行く。

動き続ける街の、静かな瞬間。

モノトーンが、よく似合う


舞い降る舞い降る雪の結晶!

これはSAKS FIFTH AVENUEに、今年初めてお目見えしたイルミネーション。
今年のマンハッタンのクリスマス風景で、一番気に入ったシーン。

古くからの読者はご記憶かも知れないけれど、
このホームページの別称は「雪の結晶の工房」という。
季節限定の響きがあるので、使わなくなってしまったけれど。

こんなふうに、何もかもを、それぞれに美しい形をした、
真っ白な雪の結晶にしてしまえたら、という思いとともに。


まだ12月1日だというのに、

なんだかもう、クリスマス数日前、という気分だ。

 

DECEMBER 2, 2004  あっというまに3泊4日が過ぎ、再びワシントンDCへ戻る日。

今日の午後はワシントンDCへ戻る。今回は、アップタウンにもダウンタウンにも行かず。けれど、第一の目的だった「クリスマスのマンハッタン」を見られたから、きっとよかったと思う。

「わたし、ここがいい」
という母の声に従って、今朝はCAFE EUROPEで朝食。
母と妹は、オムレツとハム(べーコン)のセット。
わたしはクロワッサンとカフェラテ。

ここは、『街の灯』の「ダイヤモンド」を書くきっかけが生まれた店。


以前二人が来た時には、工事中だったコロンバスサークル。
タイムワーナーのビルディングに入り、ブティックをウインドーショッピング。
それから階下にあるホールフーズ・マーケットへ。

しつこいようだけれど、ホールフーズ・マーケットはわたしの好きなマーケットで、
ここは全米最大の規模で、わたしが住んでいたころにはこの店がなかったことが、
なんとも悔しい残念なことだと思わずにはいられない。

パッとしない、近所のスーパーマーケットで、食料品を調達していたから。


欧州も多分そうだけれど、
米国でも、スーパーマーケットで野菜や果物を量り売りで買えるから、
一つでも、二つでも、少量を購入できて、とても便利。

最早一人暮らしの母が、そのことをうらやましがる。

そして新鮮で種類の豊富な野菜群に、果物群に、
ダイナミックな肉売り場に、魚売り場に、感嘆する。


ホールフーズは各店鋪にベーカリーがあり、店内でパンを焼いている。店によって少々の焼き上がりは異なるけれど、わたしたちはイタリアンなトスカン・ブレッドやチャバッタが好き。これらに出合う前は、たまにシリアルを食べたり、ホームベーカリーでパンを焼いたりしていたけれど、ここしばらくはもう、毎朝パンだ。フレッシュ・モッツアレラチーズやスイスチーズを載せて焼いたり、軽くバターを塗ったりして。シンプルで飽きのこないパンは、まるで日本の白米のように、食べていて安心感がある。母も妹も、とても気に入っていた。そんなパンがずらりと並んだベーカリーのコーナーで、母が目を潤ませていた。食べることが大好きで、アメリカンなテイストも大好きで、市場めぐりが大好きで、パンにはうるさいくらいにこだわりがあった父を、ここに連れてきたかったと。もう、わたしにしても、その思いは痛いほどだ。いつも。だけれど、それはもう仕方がないね。こんなにも、こんなところでも、家族に偲ばれる父は、本当に幸せ者だと思いたい。


そして、セントラルパークを歩く。

またしても、
こんなことをしていいのか悪いのか、知らないけれど、
母が持ってきていた父の灰を少し、
太古の岩の横たわるその片隅に、まいた。

亡くなる1年前くらいから、
いつか、冬のニューヨークを見てみたいと、父は口にするようになっていた。
それは実現しなかったけれど、きっとどこかで、わたしたちを見ているだろう。


ボストン始発の、2時に出発する予定だった列車は故障で、1時間半以上遅れると言う。
だから3時、ニューヨーク始発の列車で帰ることにした。
ホールフーズ・マーケットで買ってきていたランチを、待合室で食べる。
サーモンの寿司とアボカドロール。これが結構、おいしいのだ。

帰りは夕日を追いかけるようにして。
車窓からの夕焼けは、本当に見事で、
写真では、その鮮やかなオレンジ色をうまく捉えられなかった。

いつまでも、暗くなるまで、空を眺めていた。


そして無事に、ユニオンステーションに到着。
この、清潔感あふれる駅に到着して初めて、
やっぱりニューヨークはごみごみとしていて汚かったわね、と再認識する。

わたしたちが帰りついた直後に、夫もカリフォルニア出張から戻ってきた。

慌ただしく片づけをして、慌ただしく残り物で夕餉を整える。
こんな日はいつも、
炊きたてのご飯がおいしく、味噌汁(インスタントだけれど)がおいしい。

 

DECEMBER 3, 2004  極楽スパで幸せの午後。

連日、それが遊びだとはいえ、旅には疲れが伴うもの。母をホテルのスパに連れて行こうと思い、ときどき出かけるジョージタウンのリッツカールトンホテルに電話を入れるが、パーティーシーズンとあってか予約はいっぱい。そうだ、と思い付いて、今年オープンしたばかりのマンダリン・オリエンタルホテルのスパに電話をしてみた。辛うじて1人分の予約が取れた。わたしもフェイシャルをしてもらいたかったが、今回は諦めるとしよう。

スパへ行く前に、日本大使館へ行く用事があったので、一緒に散歩がてら、マサチューセッツ・アベニューを歩く。今日は家で写真のデータの整理でもする、と言っていた妹も、一緒に出かけることにした。今日も風はさほど冷たくなく、歩いていても心地いい、気分のよい天気だ。


街角の、空き地の、いたるところで、

クリスマスツリー用のもみの木の露店がオープンしている。


各国の大使館が並ぶ坂道を下って行く。

これはイギリス大使館前。

Vサインをするチャーチル像の前で記念撮影。


日本大使館で用事をすませ、タクシーに乗ってホテルまで。スミソニアンのミュージアム群を近くに控えた、埠頭沿いにあるマンダリン・オリエンタル。以前、ランチやアフタヌーンティーを楽んだ、MOZUというレストランがあるホテルだ。

ここのスパは他に比べるとちょっと割高だけれど、雰囲気は抜群。母のチェックインをしたあと、改めて予約状況を確認したら、フェイシャルに空きが出たとか。わたしも急遽、チェックイン。

写真はホテルのホームページからダウンロードしたもの。これは「アメジスト」という名のスチームサウナ。温まった石のソファーに横たわり、極めて快適! ダイナミックな泡が出てくる広々としたジャクージーも最高!


眠っちゃいけない。眠っちゃいけない。気持ちよさを実感しなくっちゃ。と思いながらも、エステティシャンの手が顔に触れ、マッサージを始めた途端、とろけるように眠りについてしまう。清潔な個室。ほどよい音楽。好みの色が選べるライティング。そして香しいオイルの香り……。

フェイシャルが終わったあとは、熱いシャワーを浴びて、ラウンジでリラックス。このラウンジが最高。DC界隈のスパはあれこれと試してみたけれど、こんなにリラックスできるラウンジを備えたのは、知る限りではこのホテルだけだ。マッサージやフェイシャルのあと、ここでフルーツを食べたり水やジュースを飲んだりしてくつろげるのが、ものすごくいい。好きな本を持ち込んで、読書をするのもいい。好きなだけ、ジャクージーやサウナを利用できるのもいい。プールやジムも使えるから、その気になれば半日、ここで過ごすこともできる。


ロビーで待ちくたびれていた妹と合流して、ラウンジへ行く。
ライブ演奏を聴きながら、わたしと母はよく冷えた白ワインを、妹はコーヒーを。パーティーのシーズンとあって、着飾った人々がひっきりなしで賑やかなラウンジ。そんな人々のファッションや立ち居振る舞いを眺めるのもまた、母や妹にとっては新鮮なことで、楽しかったようだ。

おつまみに出されるナッツや、(なぜか日本の)枝豆スナックなどをつまみながら、取り留めもなく昔話などを語り合う。わたしたちが、子供のころのことなどを。遠い遠い別世界の、遠く遠く懐かしい話を。

 

DECEMBER 4, 2004  そして土曜日。アパートメントのクリスマスパーティーなど

冷蔵庫の中はからっぽ。冷凍していたパンも食べ尽くしたので、今朝はワッフルを焼いた。

毎朝の日課、にんじんとリンゴのジュースが作れない。とりあえず、スムージーだけでも。ストロベリーやラズベリー、ピーチやマンゴーなどのフローズン・フルーツを適当にジューサーに入れる。そして辛うじて残っていたヨーグルトを加えて、スムージーを作る。これが甘酸っぱくて爽やかで、とてもおいしいのだ。

ワッフルには、メイプルシロップをとろりとかけて、食べる。これもおいしい。


母は終日、家でくつろぎ、わたしと妹はスーパーマーケットへ食料品の買い出しに。

最近、やや忙しい夫は、土曜日だけれど仕事をしている。

アパートメントビルディングのあちこちに、

クリスマスのデコレーションが整って、ちょっと華やかになった。


夜は、アパートのオフィスが主催するクリスマスパーティーが、ラウンジで開かれた。
ホリデーシーズンまっただ中の週末は、パーティーに出かける人も多いはず。
けれど意外にも参加者が多く、夫が遅れて現れたころには、料理が残っていなかった!
わたしたちはしっかりと、ローストビーフやチキン、野菜、それにケーキを味わった。

母と妹は一足先に引き上げて、わたしと夫は顔見知りのご近所さんたちとしばらくおしゃべり。

部屋に戻ると妹が、料理を食べ損ねた夫のために、夕飯を作ってくれていた。
パーティーの料理より、そちらの方がおいしそうだった。

 

DECEMBER 5, 2004  恒例のクリスマスパーティーへ。

今日は毎年恒例、夫の会社のクリスマスパーティーが開かれる日。ヴァージニアのマクレーンという街にある夫のボスの邸宅へ行く。母と妹は、その間、ショッピングモールで過ごすことに。

去年のクリスマスパーティーは、急逝した会社関係者の葬儀と重なり、キャンセルになった。夫は午前中、葬儀に出て、その数時間後、わたしたちはインド旅行に発ったのだった。あれから1年。なんて目まぐるしい1年だっただろう。


フルーティーなカクテル「ベリーニ」を飲みながら御歓談中のマルハン夫妻。

ベリーニとは、スパークリングワインををピーチジュースで割ったもの。ちなみにオレンジジュースで割ったものは「ミモザ」。どちらも飲みやすい食前酒。

おいしいパルメザンチーズやスモークサーモンをつまみながら、顔なじみの会社関係者とその伴侶らと、あたりさわりのない世間話を交わす。


イタリアのヴィラのようなインテリアのボス邸。家具調度品及び、フラワーアレンジメントが美しい。

キノコとチキンのパイ風包み焼き、ローストビーフ、マッシュドポテト、インゲンのソテー、サラダなど、典型的な米国のホリデーメニューがテーブルに並んでいた。どれも素材がよく、味付けも上品で、とてもおいしかった。

パーティーのあと、母と妹を迎えに行き、帰路へつく。母と妹はリーガルシーフードで、クラムチャウダーやロブスター、ムール貝を食べたらしい。

そして夜は、あらかじめ漬け込んでおいたスペアリブを焼いた。よく食べる、一日だった。

DECEMBER 6, 2004  そしていよいよ、明日には帰国。

母と妹が滞在中の写真を少しずつレイアウトして、写真集を作る準備をしていた。その写真集に、今日はキャプションを書き込む作業をした。40ページ以上の、とても分厚くて立派なアルバムが完成した。インドのアルバムを作ってのち、やはり手で触れて、ページをめくりながら眺めるアルバムのよさを、再認識したのだ。これから先、ときどきはページをめくって、楽しかった旅の情景を思い出してくれたらと思う。

半年前、父がいなくなったときには、こんな風に遊ぶことなど想像できなかった。けれど、母と妹が一緒にここを訪れ、こうして楽しく過ごせたことは、本当にすばらしいことだったと思う。この2週間のことは、少し時間がたってから、大切に、偲ぼうと思う。

さて。明日の朝、母と妹を見送ったら、わたしは大掃除なのだ。そして明後日の早朝は、カリフォルニアに行くのだ。夫の出張に(ほぼ強引に)誘われて、1週間の滞在予定。感慨に浸る間もなく、次へ、次へ!

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