SCENE 68: 最後の宴
BANGALORE, NOVEMBER 16, 2004

空港へ行く数時間前。
ホテルのガーデンで行われたビジネス・パーティーに参加した。

世界のさまざまな場所から、
この地にビジネスチャンスを求めて訪れる人々と、言葉を交わしながら、
伝統的な楽器による演奏や、舞踏を眺めながら、
インドの料理を味わう。


11月16日(月)

■帰国直前、最後の宴。お金について。

今日は一日、ホテルで過ごした。荷造りにも、随分時間がかかってしまった。帰りもまた、フランクフルトを経由して、DCへ戻る。フランクフルトへの便が空港を出るのは深夜、17日になってから。だからホテルを出るのは夜の10時頃だ。

ちょうどこの日、ホテルで行われるビジネス・パーティーに夫ともども招かれたので、出発前の少し落ち着かない心境のもと、サリーに着替えて参加した。このパーティーを企画したヴェンチャー・キャピタル会社は、若いインド人らによって数年前に起業された。

米国のシリコンバレーと、ここバンガロールにオフィスを持ち、めまぐるしく業績を上げている。スタッフらはみな30代前半で、生き生きと輝いた目をしている。大半が、米国での学歴とキャリアを持つ。夫のMBA時代のクラスメイトもいて、久しぶりに顔を合わせた。

ゲストは、ニューヨークから、シンガポールから、香港から、ドイツから……と、言葉を交わしただけでも世界の各地から訪れた人々。みな、インドの混沌に戸惑いながらも、インドの経済成長に対する関心は深い。

宴の終盤、パーティーを企画した会社のスタッフの一人としばらく話をした。彼もまた、若いインド人男性。バンガロールでのビジネスについてを聞く。彼の結婚は、同じ国内でありながら、言葉や文化の違う離れた地方出身者同士だから「国際結婚」みたいなものなのだ、という話を聞く。そして現在の、生活の有様についてを聞く。

ふとした拍子に彼はつぶやいた。

「今、僕は仕事も楽しいし、やりがいを感じてます。でも、ときどき、罪悪感を覚えるんですよ。こんな風に、どんどんお金を稼ぐことができる、自分の仕事について」

そう言って、彼は明らかに、困惑の表情を見せた。わたしは彼の素直さに、驚いた。彼にとって、お金という強大な武器で何を得るかを考えることは、お金を稼ぐことよりも最早、難しいことなのかもしれない。

それはただ、貧者に施したり、ボランティアに投資したりすればいいという問題ではないと思う。

お金。

お金は人を豊かにもするし、貧しくもするし、鈍感にもするし、敏感にもする。つまり、何でもあり、だと思う。お金に対する考えも、価値観も、使い道も、千差万別。

この貧富の差が猛烈に激しいこの国で、これからどんどんと成長していく若い企業が、いったいどのようにお金を使ってゆくのだろう。先祖代々から受け継いだ、盲目的富裕層の多かったこの国が、違った形で富を築く人々を抱えようとしている。

いったいこれから先、この国では、何が起こるのだろう。

そしてわたしたちもまた、近い将来、その混沌の中に溶けこむのだ。


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