■アーユルヴェーダの本場で、トリートメントを受けるために……
ケララの観光シーズンは11月から2月にかけての冬だという。今は雨期明けに至るちょうど端境期で、そのせいか日中は晴れていたものの、夕暮れになってスコールのような強い雨が降り出した。3泊のうち1日はディナークルーズに出る予定でいたが、今日は無理かもしれない。
雨の中、部屋に用意されていた大きな傘をさして、プールサイドにあるアーユルヴェーダ・センターへ行く。そこは「優雅なスパ」というよりは「病院の診療所」という雰囲気が漂っていた。
どうやらこのホテルでは、アーユルヴェーダの「真面目な治療」を受けられるらしい。パンフレットを見ると2週間、3週間の長期滞在者向け治療プランなどの説明も記されている。
エステティックサロンやスパのサービスの一つとしての「アーユルヴェーダ風オイルマッサージ」などが、今日、多くの人々に知られるところだが、本来、アーユルヴェーダとは、5,000年以上前からインドに伝わる伝承医学である。詳しくはこちらを。
ケララはそのアーユルヴェーダの発祥の地であり、このセンターのように「治療」が受けられる場所が数多くある。
まずはドクターのいる部屋に通されて、問診を受ける。わたしと夫それぞれに、身体の不調な箇所を説明すると、ドクターが使用するオイルの種類や治療法を決めてくれる。
かつて、さまざまな媒体で目にして来たアーユルヴェーダの象徴的なシーン <額から頭部にかけてたっぷりのオイルを少しずつツーッと流している> を説明し、あれをやってほしいとドクターに告げた。すると、
「あれは一日二日の治療ではやってはならない治療だ。最低でも5日か1週間治療を続ける人が、身体を休めながらやるのです」
と断言する。しかし久しく、あの気持ちよさそうな治療に憧れていたわたしは食い下がる。
「でも、他のスパなどでは1日のプランでもやっているみたいですけれど、だめなんですか?」
「そういうのは、金もうけ主義の人間がやっていることだ。それはアーユルヴェーダの哲学に従っていない。短期間に不適切な治療をしたら、副作用が出ることにもなる!」
ドクター、厳しい。というわけで、「頭部にオイルをツーッと」は、いつか長期滞在の折にぜひとも、との目標となった。
わたしは腰や背中を重点的に全身のマッサージを、夫は全身のマッサージに加え、持病のサイネスプロブレム(鼻腔の不快感)をやわらげるための頭部の治療も受けることになった。
ところでアーユルヴェーダの治療を受けるには、基本的にほぼ全裸になる必要がある。
センターに行く前、「わたしは女性に施術してもらうんだよね。男ってことはありえないよねえ」と話した際、夫は、
「もちろん美穂は女性にしてもらうだろうけれど、僕は男性より女性の方がいいな。ゴアのスパでマッサージしてくれた、バリの3人娘みたいな!(「インド彷徨(1)参照)」
とのことであった。
その件に関して、夫がドクターに確認する。
「ところで、妻は女性にマッサージしてもらうんですよね。僕は……」
と彼がしゃべり終わらないうちにドクターは言う。
「当然だ。女性は女性に治療してもらうに決まっている。もちろん男性は男性に、だ。最近じゃ、女性にマッサージをしてもらいたいなんていう男の客がいるが、何を考えているんだかなあ。アーユルヴェーダとはそういうものじゃない」
と、またしても厳しい。痛いところを突かれた夫。苦笑いである。
■夕食はブッフェスタイル。ケララの味覚をあれこれと試す。
この小さなリゾートでは、毎日ランチとディナー、交互にブッフェかアラカルトが供される。この日はランチがアラカルトだったので、夜はブッフェだ。ブッフェというのは、食べ過ぎるから危険である。
宿泊できるゲストの数が少ないこともあり、こぢんまりとしたブッフェではあるものの、魚のカレーやココナツ風味の野菜の煮込みを中心に、多彩な料理が用意されている。
炭水化物系も豊富。北インドは小麦粉を使用したナンやチャパティなどが代表的だが、ここではライスが数種類のほか、米の粉で作られる蒸しパンも数種類用意されている。わたしは「レッド・ライス」と呼ばれるケララ米を試した。
ふっくらと丸みを帯びた大粒の短粒米。全体が赤っぽいのではなく、米の一部にうっすらと赤い線が入っている。見た目は日本の米と同様、粘り気があるように見えるけれど、食べてみると意外にサラサラとしていて、しかし歯ごたえがあり、魚の煮込みなどカレーのソースととても良く合う。
あれこれと少しずつ食べたいという好奇心は、結局のところ食べ過ぎにつながってしまい、うれしいけど困ったものである。
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