10月28日(木)
■オベロイ・ホテルのショッピング街へ。
寺院などへ観光に出かけようか、とも思ったが、よした。そのかわり、夕べアンジャリに勧められたオベロイにあるというショッピング街へ出かけてみることにした。ちょうど夫もオベロイで打ち合わせがあり、正午以降はフリーだと言うので、合流する約束をして。
タクシーでホテルまで行く。ホテルの前にはマリーンドライブが南北に伸びていて、その向こうに海が広がる。北西部にあるビジネス街のビル群を、くすんだ空気越しに見渡せる。それにしても、マリーンドライブのゴミのなさはどういうことだ。
こんなにきれいに掃除されている場所を見るのは、高級ホテルなどの敷地内を除いては、ムンバイでは初めてのことで目を見張る。しかも、遊歩道の幅広さにも驚く。
さて、ショッピング街である。入り口にはペイストリーショップ&カフェがあり、イタリア系のパンのほか、ティラミスやインド人がお好みのブラックフォレスト(黒い森)ケーキ、プリン、ムースなどが美しく陳列されている。のをしみじみと眺めたあと、奥へ入る。
インドのカシミア製品やカーペット、工芸品などの土産物店のほか、インド風ファッションをモダンにアレンジしたデザイナーのブティックなど、合わせて数十の店鋪が並んでいる。
とあるカシミア製品の店で、とってもすてきな刺繍が施されたストールを発見してしまった!!! カシミアやパシュミナのストールにはさまざまな種類があるのだが、わたしは柔らかくふわふわしたパシュミナよりもむしろ、ゴージャスに刺繍が施されたカシミアのストールが好みである。
昨年末、ニューデリーの国営土産物デパートで購入したストールは、以降愛用しており、周辺からの評判も非常に高い。今回見つけたのは、やはり黒地に、しかし主にブラウン系の糸でだけ全面に刺繍された、まるでスカーフの模様のようなストールなのだ。
店内でうだら〜っとだらけていたお兄さんら3名が、わたしが店に入るなり立ち上がり、あれこれ広げてみせる。ちょっとまって。そんなにあれこれ好みじゃないものまで広げてもらっても困ります。と言いながら、棚にずらりとならぶストールを目で追う。
と、よさげなものが1枚。
広げてもらうと……。すてき! どうしよう。欲しいかも。
そんな心の動きを瞬時に察したお兄さん1名。棚からファイルを取り出す。
「ほら、見て下さい。彼女は日本の総理大臣の細川さんのお嬢さんです。彼女もここで買いました」
次に名刺ホルダーを取り出す。
「ほら、見てください。この商社も、この企業も、我々と取り引きをしているんですよ!」
インドの商売人らは、どうもこういう作戦がすきらしい。有名人や一流企業も御用達、というのがステイタスなのだろう。それが「しっかりとした商品を販売している」という証なのだろうけれど、なんだかとっても鬱陶しい。細川元総理大臣の娘って言われても……。
値段を書くのはなんだか浅ましいし、これだけあれこれ書いておきながら憚られるなんて書くのもまたどうしたものか、という気がしないでもないが、値段を書かないことには話のポイントが語れないので書くが、彼曰く、このストールは180ドルだという。
これだけ全面に手で刺繍が施されたストールが180ドルとは、正直なところ、すでにもう、とても安いと思う。けれど、だからって、すぐに買うわけにはいかない。やはり値切るのが筋だろう。ちなみに前回のストールは国営ショップだけあり値段は値切れない分、もともとかなりリーズナブルで、150ドル程度だったかと思う。
ちなみに日本などでは軽く5倍以上の値段で売られている。
そんなことはさておき、これは大切に扱えば一生ものだし、手作りゆえ、似たようなデザインはあっても同じものは決してないし……。と悩んでいる瞬間、夫から電話が入る。
ともかくは一旦、店を出る。
彼にストールの件を相談。最初は「またニューデリーで買えば?」と言っていたものの、「一品ものだから、同じものは見つからない」というわたしの声を聞き入れ、「根切りのための演技」を行うことに決める。
結果的に、かなりしつこいやりとりの結果、180ドルが140ドルまで値下げされた。夫、得意である。そして妻は、非常にうれしい。
■午後はホテルでくつろぐ。夫はクリケット観戦など。夜はインド料理店で会食。
午後はホテルで過ごす。わたしは本を読んだり書き物をしたり。夫はテレビでクリケット観戦。現在インドとオーストラリアが大事な試合を戦っているようだが、インドがひどい負け方をしているようで、途中、不機嫌になり、テレビを切って寝てしまった。
そして夜はまた、夫の仕事関係者と夕食。空港近くのインド料理レストランを指定され、出かける。彼らはアリゾナに住んでいたインド人カップルで、1年半前、故郷のバンガロールに戻ってきたという。本当はバンガロールで会うはずだったのだが、彼らが休暇中でムンバイに来ているとのことで、ここで会うことになった。
聞けば彼ら、数時間後の深夜1時の便で、ギリシャへ旅行に出かけるらしい。
すでにスーツケースなどは車の中。空港へ行く途中に夕食の時間を割いてくれた模様。夫と面識があったわけでもないのに、ビジネスミーティングのために海外旅行数時間前に会食する彼らの心意気に感服する。昨日に引き続いて、みんな親切だし、身軽だなと、深く感銘を受ける。
同世代の彼らもまた、初対面にも関わらず気さくでフレンドリーで、とても話がしやすい。
彼らには小学生の子供が二人いるが、妻の双子の妹宅に預けていて、今回は夫婦水入らずでの旅行らしい。でもって帰りに夫の兄の住むロンドンに立ち寄るらしい。
ちなみに妻の兄はメリーランド州のベセスダ(DCの我が家から近い)に住んでいて、彼女はアリゾナにいたころ、しばしば遊びに来ていたらしい。世界は狭いな、と思う。
ところで、インドは携帯電話ビジネスが空前のブームで、半年前よりさらに携帯電話関連会社の進出がめざましいが、驚いた話。裕福なビジネスマンや政治家は、複数の携帯電話を持っているらしい。二つ三つは当たり前で、七つ持っている知り合いもいるという。
政治家などは役人によって教える携帯電話の番号を変えており、状況に応じて出る電話、出ない電話と使い分けているらしい。ちなみに携帯電話1台につき一人、専用の使用人がいて、電話を届けるらしい。
接待ゴルフの最中も電話、電話で、ゴルフにならないらしい。しかも呼び出し音ははでだし、うるさいし、やってられないという。映画館で電話がなって、切るかと思えば「HELLO!
」と話しはじめる人もいるという。
まるでコメディである。
アメリカ生活の長い彼らには、母国のことながら、笑い話としか思えないようだ。
ちなみに彼らは二人とも米国市民権を持っていて、いつでも海外に出られるらしい。そしていつでもアメリカに戻れる。
市民権はグリーンカード(永住権)取得後、5年たってから申請できる。わたしたちはまだ1年余りだ。わたしは今のところ、市民権を取りたいと思わないが、不自由なインドのパスポートしか持たない夫のことを考えると、市民権を取ることは大切なポイントのように思える。
それにつけても、アメリカと言う国は、「持ちつ持たれつお互い様」だと思う一報で、やはり寛大な国であるな、とも思う。
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