SCENE 09: 歌と、ギターと、金の指輪。
MUMBAI (BOMBAY), APRIL 18, 2004

ホテルのダイニングでランチブッフェ。
ギター2人にベース1人のバンドが、テーブルを巡る。
彼らの顔つきは、インド人のそれではなく。
一人はマドリード製の、もう一人はドイツ製のギターを奏でながら、歌う。
三人の右手の薬指には、お揃いの金の指輪。

夫が「ロマンティックな曲を」と、リクエストする。著しく漠然とした、しかも昼間から。
彼らが歌い始めたのは、 Eric Claptonの"Wonderful Tonight"

そういえばこのメロディー、年末にインドを訪れたとき、ゴアで聞いた。
レストランでギターを奏でる少年に、音楽事情に明るくない夫がやはりリクエストしたのだ。
「ロマンティックな曲を」と。
すると、彼もまた、"Wonderful Tonight"を奏でたのだった。

とってもストレートな、インドの人々。夫にせよ、ミュージシャンにせよ。


4月18日(日)

■何をするでもなく、ホテルで日がな一日。水。

今日は打ち合わせのない夫。到着した直後から、びっしりと予定が入っていたから、ずいぶんと疲れているようだ。今日はホテルで一日、ゆっくりとしたいと言う。外は暑いし、観光に出かける気分でもない。やはりわたしも、ホテルで過ごすことにする。

朝は二人とも、10時過ぎまで寝ていた。朝食もとらずに。

ホテルのダイニングでブッフェのランチを食べる。なんだかとても気だるい午後。二人とも無口で、プールサイドを眺めたりしながら。

午後はプールサイドで過ごす。ブックストアで買った本や雑誌を読んだり、ライムジュースを飲んだり、まどろんだり、たまに泳いだりして過ごす。

夫が「ぼくもまた、あの中国料理が食べたい」というので、またあの店に行った。最早常連である。

夜の街をふらふらと歩きながら、ホテルへ戻る。本当に、汚い。汚い街だ。みすぼらしい身なりの母が、排水溝の水で、子供の身体を洗っている。わたしたちのホテルから流れ出す、その排水で、子供の身体を洗っている。

帰りにホテルのナイトクラブに寄ってみた。夕べは大賑わいだったらしいが、今夜はさすが日曜日。お客は一人もいなかった。

わたしはそのまま部屋に帰る気分ではなかったが、夫は疲れたのか、もう、部屋に戻りたいという。

わたしは一人でバーへ行った。インド門がライトアップされている夜景を眺めながら、赤ワインを飲んだ。窓の外には、夜遅くだというのに、人々が行き交っている。

わたしはこんなところで、何をしているんだろう。わたしは本当に、この国に住む日が来るのだろうか。そしてなぜ、それを望んでいるのだろうか。


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