SCENE 06: 汚くて、元気で、貧しくて、したたかで、生意気な子供たち
MUMBAI (BOMBAY), APRIL 16, 2004

蒸し暑く、埃っぽく、汚い舗道から、まさに「避難する」ような気持ちで、ホテルの近くにあるバリスタ・カフェに入る。ここだけが、まるで別世界。

お客には、白人の旅行者らしき人々が目立つ。もちろん、中流階級以上のインド人らも多い。わたしは窓際の席に座り、カフェ・ラテを飲みながら、窓の外を眺める。

薄汚れた子供たちが、窓の向こうでふざけ合っている。ときには店内にいる人々に、物乞う仕草をする。こっちが少し微笑むと、彼らも微笑む。踊り出す子もいる。

わたしは、テレビを観ているわけではない。映画を観ているわけではない。窓の向こうの風景は、スクリーンではない。でも、わたしは、この店内に入ってコーヒーを飲むことが出きる限り、彼らとは異質の世界に生きている。

いつまでも店の前でうろうろしている子供たちに業を煮やして、店員の青年が、長さ40センチほどの棒きれを持って外に出た。そうして彼らにその棒をかざし、追い払った。

まるで野良犬を追い払うかのように。


←バリスタ・カフェの前にひとだかりができていた。店内の奧に設置してあるテレビを、皆は観ているのだ。スクリーンはクリケットの試合を映し出している。「インド対パキスタン」戦。世紀の闘いに、富める者も貧しき者も、ひとしく熱中している。それにしても、テレビは店内の一番奥にあり、とても外からは見えそうにないのだが……。

本日のお買い物を記念撮影。アルフォンソ・マンゴーに、パン屋で買ったビスケット。それから、ハート型のフォームがかわいいカフェ・ラテ。


4月17日(土)その2

■猿の女、ふたたび。

今日もまた、わが避難場所と化しているバリスタ・カフェに来た。窓辺の席でカフェラテを飲みながら、ジャーナルを広げ、午前中に起こったことなどを書きとめていた。すると、窓の外に見なれた女性が立って、こちらを見ている。昨日会った、猿を連れた女性だ。

「また会ったわね」

そんな顔をして、彼女は不敵な笑みを浮かべる。

今日もまた、赤ん坊を片腕に抱き、片方の手には猿をつなぐヒモを握っている。そうしてその手で、窓越しに、わたしにまた、米を乞う。カフェラテを飲み終え、わたしが店を出る時まで、彼女はそのあたりにうろうろとしていた。わたしはビニール袋からビスケットを数枚取り出し、彼女に手渡そうとした。すると彼女は、ビスケットを受け取ろうとせず、「米をくれ、米を」と主張するのである。

だから、米は持ってない。わざわざ買いに行くつもりもないって言ってるじゃない。ビスケット、いらないのならいいわよ。と手を引っ込めようとすると、いかにも「しぶしぶ」という感じで受け取った。

「パンがないのなら、お菓子を食べればいいじゃない」

マリーアントワネットが言ったとされている名台詞を吐きそうになった。

そうしてしばらくの間、近所をふらふらと歩き、ホテルに戻ろうとすると、またしても、猿の女に出くわした。彼女はわたしのビスケットをばりばりと食べているところだった。なんだかバツが悪そうに、しかしわたしの顔を見て、「本当によく会うわね」という顔をして、笑った。

彼女はいったい、どういうことを思いながら、日々を生きているのだろう。

 

■部屋で過ごす午後。日本のテレビなどを見る

ホテルの部屋にはプラズマテレビがあり、日本のテレビ番組(NHK)の一部が放送されている。普段、DCにいるときには、日本語の放送はほとんど見ないし、そもそもテレビ自体もあまり見ないので、本当に久しぶりに、テレビの画面に向かう。

イラクで人質にあった日本人のことが、頻繁に報道されている。

映画「ピアニスト」を見て、渋い気分になったあと、プールサイドに出かけ、読書をし、それからニューデリーの夫の実家に電話をする。彼らはわたしたちが旅の終わりにデリーに寄ることを、心待ちにしていた。何はともあれ、彼らはわたしにも、とても優しくしてくれ、それはとてもありがたいことだと思う。

 

■夕食は、初日の中国料理店へ。

ランチはホテルでインド料理を食べたものの、特筆すべき味でもない料理に、高いお金を払うのはなんだか腑に落ちない。たとえ一人での食事だとはいえ、やっぱり外に出かけて、地元のおいしくてリーズナブルな料理を味わいたいものだ。

とはいえ、適当な店を知らない。わざわざ新しい店を開拓するほどの熱意もなかったため、初日に出かけた中国料理店へ行くことにした。中国料理を一人で食べること程、効率の悪い食事はないとわかっているのだが、ともかくは、あの店の料理はとてもおいしかったから、もう一度食べておきたい。

店に入ると、前回、わたしたちのテーブルを担当してくれたウエイター(ミャンマー人)が「今日はお一人ですか?」と言いながら、テーブルに案内してくれる。

店主が注文を取りに来てくれたので「この間、とてもおいしかったから、また来たんです」と言うと喜んでくれた。そして、「料理は半分の量を半額でお出ししますから、どうぞ何種類かお選びください」という。なんてやさしいオファーなの!

わたしは各種野菜の炒めものと、チキンとカシューナッツの炒めもの、それから前回おいしかった炊き込みご飯をオーダーした。お腹一杯で幸せ……なところに、ウエイターが「これはサービスです」といってアイスクリームを持ってきてくれた。

なぜこんなに親切にしてくれるのか、よくわからなかったけれど、ともかくおいしい料理をたっぷりと味わい、一人でも幸せな夕食だった。

ちなみに夫は深夜、わたしがすでにベッドに入ってから一度部屋に戻って来、明日が休みということもあり、ホテル内のナイトクラブに行ったらしい。金曜の夜とあって、ダンスフロアはずいぶん賑わっていたとのこと。

明日、一緒に行ってみることにした。


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