●1942年5月。日本人408名の集合写真。地下には巨大な核シェルターが!
敷地内にプレジデンツ・コテージ・ミュージアムという小さな建物があった。そもそもは、1835年、ルイジアナの富豪の夏の別荘として立てられた家だった。のち、独立戦争以前の歴代大統領が、ここをやはり夏の別荘として訪れるようになった。
1階に2部屋、2階に4部屋あるだけの、小さな別荘には、当時のままの家具調度品が残されているほか、いくつもの古い写真や資料が展示されていた。ある写真を見つけて、目が釘付けになった。それは、大勢の日本人らの写真だった。
撮影されたのは1942年5月とあるが、とても昭和17年の日本人とは思えない。子供たちなどは、わたしが子供のころ、つまり昭和40年代に流行ったような縞模様のTシャツやソックス、あるいは提灯袖のフリフリなブラウスなどを身につけている。
添えられた文章を読んで、また、驚いた。
タイトルには"INTERNMENT
OF FOREIGN DIPLOMATS AT THE GREENBRIER,
1941-1942"とある。
真珠湾攻撃後、日米開戦直後の1941年12月19日から翌年の7月8日までの半年あまり、このグリーンブライアには、カナダ、米国、及び南米に赴任する日独伊などの外交官及びその家族が収容されていたという。
ドイツ人1054名、日本人408名、イタリア人170名、ハンガリー人53名、ブルガリア人11名。FBI及び国境警備隊の監視下にあったとはいうものの、彼らは滞在中、グリーンブライアの施設を自由に使うことができ、「一般のゲストと同様のもてなしを受けた」と記されている。
交渉が成立した後、彼らは国際赤十字の監視のもと、欧州、アジアにて米国外交官らと「身柄を交換」されたという。
上の写真は、当時、グリーンブライアで過ごした日本人総勢408名が一堂に会した写真である。中には、米国への宣戦布告の暗号文解読を試みた外交官もいるだろう。時間切れとなってしまい、「奇襲」となってしまった事実を、どのように思っていたのだろう。
写真に写っている人々の、子供たちが笑顔なのはまだしも、笑顔を見せた男たちが多いのは、意外だった。
今のような時代とは異なり、当時は海外赴任となると、責任にもステイタスにも、より重みがあっただろう。一般庶民と彼らとは、感覚も地位も、著しい隔たりがあっただろう。
そのことを感じさせてあまりある、これは一枚の写真だった。
同時に、米国人として生まれながらも、日系人だというだけで、粗末な収容所に押し込められ、苦痛を強いられた人々のことも思われる。
ところで、帰宅して調べてから初めて知ったのだが、このグリーンブライアの地下には、米ソ冷戦時代、アイゼンハワー政権によって、1959年より2年半の歳月をかけて建設された巨大な核シェルターがあるという。
核戦争が起きた際、連邦議員など1100名を収容するための施設で、その存在は久しく国家機密にされていた。冷戦終結後の1990年代初頭に、グリーンブライアが管理権を譲渡されたとのこと。一時期、グリーンブライアがシェルターを「カジノ」に改装するとの方針を発表したそうだが、住民投票に破れ、実現は叶わなかった様子。
ちなみに、この核シェルター企画は"PROJECT
GREEK
ISLAND"と呼ばれていたらしい。クリスマスイベントのカタログに、"PROJECT
GREEK ISLAND: The Bunker at The Greenbrier" (Historical
slide
presentation)とあったのを見たとき、「なぜに、ギリシャの島? 貯蔵庫?」と疑問に思ったものの、そのまま読み過ごしてしまっていたのだ。
クッキング・クラスでブレッドプティングを味見している場合じゃなかった! スライドショーでも何でもいいから、見に行くんだった! と後悔。
グリーンブライアのホームページによると、宿泊ゲストは、本来、地下壕のツアーに参加できるのだという。ただ現在は改修中のためツアーは行われておらず、スライドショーだけが毎日シアターで行われているとのこと。2006年の春から、ツアーは再開されるとか。
いずれにしても、ツアーには参加できなかったとはいえ、スライドだけでも見ておきたかった。
後日夫に、「グリーンブライアの地下には、核シェルターがあったんだよ!」と教えたら、「知ってたよ」と気のない返事。このミュージアムに、そのことに触れた資料が少しあったらしい。だったら教えてくれればよかったのに! と言うと、「別に、おもしろいと思わなかったし……」とのこと。ううう。
映画『Blast from the
Past(タイムトラベラー)』に出てくるみたいな核シェルターが、本当にこの国には、ここだけでなくあちこちで、当然のように存在していたのかと思うと、なんだかとても、奇妙な感じがする。
より詳しく知りたい方は、英文ですがここに情報がありますのでお読みになってください。CNN
COLD WAR
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