●リモコンな男たち

説明するまでもなく、私の父は日本人だ。そして私の夫はインド人である。当然のことながら、両者の生い立ちや人格形成、仕事、歩んできた人生すべてにおいて、共通する事柄は極めて少ない。

その極めて少ない共通項の一つに、「テレビのリモコンに対する執着心」がある。

私が日本の家族と一緒に暮らしていたのは18歳までで、父親と一緒にテレビを見る機会はあまりなかった。

それでも、目を閉じれば思い出す。居間のソファーでくつろぐ父が、片時もリモコンを手放さなかったことを。テレビを見ながら、いつしかうとうととし、次いで「グゴゴゴゴーッ!」というケダモノのようないびきをかきはじめてもなお、その右手にはリモコンがしっかりと握られていたっけ。

わが夫も然り。アメリカではリモコンなどと略して呼ばず、「リモートコントロール」と呼ぶのが正しいが、私は時折、夫をして「リモコン・ガイ」(リモコン男)と呼ぶ。彼も「リモコン・ガイ」を自認している。

一緒にテレビを見ているときでも、彼は絶対に、私にリモコンを譲らない。

「ちょっとチャンネル変えてよ」と、いちいち彼にお伺いを立てなければ、変えてくれないのだ。面倒くさい。でも私は普段、あまりテレビを見ないから、別に大した問題ではない。

ただ、なぜ彼がそこまでリモコンを我が物にしたいのか、不思議でならない。

夫は我が父のように大いびきをかくわけではないが、それでもテレビを見ながらクークーと寝息をたてていることはしばしばである。そしてその右手には、きっちりとリモコンが握られている。

その姿はまるで、チャンネルを変えようとしている瞬間に凍てついてしまったかのよう。チャンネル操作のボタンの辺りに、親指がそっと載っかっていたりする。

ついでに言えば、寝ているからいいだろうと勝手にチャンネルを変えたりすると、ハッと目を覚まして
「あー、勝手に変えないでよ! 見てたのに!」
と大嘘をこく。何なんだよいったい?!

さらに言えば、父にせよ夫にせよ、テレビを見ながら寝るのはよくないからと起こした際の反応……「うーん、あー、わかったわかった。起きる起きる」……といういい方が、日本語と英語の違いがあるにも関わらず酷似しているのには驚かされる。

しかも、決して、すぐには起きない。

この間、夫と二人でテレビを見ていたときのこと。彼はやおらトイレに立ち上がったのだが、リモコンをバスルームにまで持って行きやがった! のである。我が父はそこまではしなかった。と思う。

聞くところによれば、我が妹の夫も類似の傾向を持つという。

リモコンに執着する男たち……。なんだか、ちょっと哀愁ね。(1/9/2002)


I MUSE PUBLISHING, INC. I MACHINO-HI I MIHO. S MALHAN I COVER I I INDIA I