●マリア・カラスと寄生虫

数カ月前、オペラシーズンが開幕する直前の頃、テレビのクラシックチャンネルをつけながら、書類の片づけをしていた。突如、聞き覚えのあるメロディーが、激しい磁力を伴ってテレビから流れ出し、慌てて画面を見た。

晩年のマリアカラスが独唱している。ベッリーニの「清らかな女神よ」だ。

手持ちのCDに入っていて、すきなメロディーではあったが、彼女の歌う姿を見て、たとえようもなく引き込まれ、鳥肌が立った。

晩年の彼女の表情は、どちらかといえば悲愴的で、物憂げな表情をたたえているにも関わらず、その声の、なんとも深いこと。

この歌が流れるオペラは何だろう、見に行きたい。CDのジャケットを見ると「ノルマ」とある。メトロポリタン・オペラの案内を見れば、今年、上演されている。しかも数十年ぶりに。

「ノルマ」は、「カラスのノルマ」あるいは「ノルマのカラス」と言われたくらいに、彼女ならではの作品だったという。

チケットを購入しようとインターネットで探すも、他のオペラはまだ空きがたくさんあるにも関わらず、ノルマだけは完売だった。

いかにも無念に思いつつ、マリア・カラスについてインターネットで少し調べてみた。

彼女は若い頃とても太っていたこと、夫の力添えのもと、痩せてから売れ始めたこと、大富豪オナシスに出会い、夫と別れオナシスの愛人になったこと、そのオナシスをケネディ元大統領夫人のジャクリーヌに奪われたことなど、大まかな経緯はすでに知っていたが、彼女がどうやって痩せたのかはこの時初めて知った。

元夫とさまざまなダイエットを試したけれども成功せず、最終的に、お腹に寄生虫(サナダムシのような回虫)を飼い、劇的に痩せたというのである。

なんだか、よくわからない。あの美貌と、あの歌声と、回虫とがうまく結びつかない。

マリア・カラスは53歳の時、心臓発作で他界した。(1/7/2002)

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