●芸術的会計

2001年度、ミューズ・パブリッシングの会計処理を何とか終えた。うちの会社が依頼しているのは日本人の会計士Hさん。以前、エッセイの方にも書いたから詳細は省くけれど、彼は日本人として初めてアメリカで公認会計士の資格を取った人。

年齢は60歳を軽くこえていると思われる。剣道、囲碁、それにクラシック音楽(バイオリン)などをたしなむなど、とても多趣味な方である。

弊社設立以来お世話になっていて、時々、資料の受け渡しなどで訪ねる機会がある。

2年前のある日のこと。うちはオフィスと自宅が共用なのだが、オフィスのレント(家賃)として、私個人に支払う金額の割合が低いので、もう少し高くできないものかと相談したところ、彼は即座に

「じゃ、XXXXドルにしましょう」

と、数割り増しの数字を言った。

「えっ、そんな適当に決めちゃっていいんですか?」

小さい会社ながらも几帳面にやらねばまずいのではないかと、結構心配性の私は彼に問うた。すると彼は一言。

「坂田さん、会計って言うのはね、芸術なんだよ、芸術。ハッハッハ!」

そ、そうですか……芸術でしたか……。内心呆気にとられながらも共に大笑いしたが、大笑する一方で、私は激しく感動していた。

会計は、芸術……。

計算って苦手、会計って面倒って思っていた私に、とても新鮮な価値観を吹き込んでくれた気がしたのである。

だから今回も、ああ、年度末会計、めんどくさい……と思う気持ちには変わりはないが、ちょっと数字のつじつまが合わなくても、カリカリすることなく「芸術、芸術」と心でつぶやきながら、やり過ごす。

つじつまの合わないところはさりげなく通過して、コストのバランスも美しく配分して、あとはHさんに投げちゃおう。

大ざっぱにやること=芸術ではないと、叱られてしまいそうだけれどね。
(1/8/2002)

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