●年齢のばれ方

アメリカじゃ年齢を人に公表しないと言うけれど、「人間関係が年齢によって左右されない」というだけであって、「あの人、いくつかしらん」くらいは、アメリカ人だって思っていると思う。

社会的地位や年齢を問わず、対等な口調で会話ができるのは、言語のしくみが影響していると思われる。英語には敬語がないから、たとえ年上でも「ため口」を叩ける。基本的には、相手によってさほど話し方を変える必要はない。

しかし、日本語だとそうはいかない。一応、付き合いの浅い目上の人にはそれなりの「敬語」を使いたいし、一方、親しくなった人、あるいは非常に若い人に、他人行儀でいつまでも「敬語」を使い続けるのもなんである。

アメリカに住んで7年になるが、しかし日本的なマナーに執着心のあるわたしは、パーティーなどで出会う、明らかに20歳前後の若者から、初対面にも関わらず馴れ馴れしいため口を叩かれたりすると、顔で笑って心で「なんじゃ、この人」と思う、実に狭い心の持ち主だ。

わたしの場合、相手が日本人の際、最初は一応敬語だがフレンドリーに、という雰囲気で接するようにしている。後に歳がわかって、あわてて口調を変えたりしなくていい程度の話し方である。

だいたい、この年齢になると、服装や髪型や話し方で年齢がまったく読めない人もいて、なかなかにスリリングなのである。って大げさだけれど。

前置きが長くなったが、先日、パーティーで数回会ったことのあるY子さんに声をかけられて、彼女の友人(男性二人)と4名でスペイン料理店にてランチを取った。

金融情報センターの駐在員、テレビ局の特派員、そしてY子さんはリサーチ関係の仕事と、みな一様に職種は「堅め」、非常にワシントンDC的である。

そんな中で、ちょっと浮かれた業種のわたし。政治・経済の話題になると、どうしたって情報量&知識は彼らにかなわず、半端なことを口にするくらいなら聞き手に回ろうと、あれこれと質問をぶつける。

しかし、サングリアを飲みつつの陽気な昼間から、堅苦しい話ばっかではつまんない。ブッシュの話題になったとき、会話の風向きを強引に変えたく、

「あの人、背が高いんだよね〜。それで雰囲気、ごまかしてるよね〜」と言ったら、金融駐在員の彼が

「え、そうなんですか? 僕、小柄だと思ってた!」と返答。

やった! 一本取ったぜ! の気分で、わたしは更に続けた。

「そうなんだよ。ゴアはさ〜。サタデーナイトライブに出てたとき、上半身裸になったの見たけど、すっごい身体鍛えてて、ムキムキなんだよ! で、ブッシュはさ〜、猿な口してるわりに、背が高いんだよ。あれで背が低かったら、支持率も、あと、威圧感も、今より少なかったと思うね。背が高いと頼りがいがありそうに見えるじゃん」

そしてうっかりと、しかし、さりげなく、ひとこと付け加えた。

「まさか秘密くん、履いてるわけじゃあるまいしね」

(秘密くん?)と訝しげな顔をする青年二人。しかし一方のY子さん、敏感に反応する!

「いや〜ん! 懐かし〜!!! 秘密くん! 秘密ちゃんもあるんだよね!」

そう言いながら、「秘密くん、秘密ちゃん」のなんたるかを、青年二人に話し始めた。

「オレたちひょうきん族」に出演していた松尾伴内が、デートなどの折、背を高く見せるために履いていたシークレットブーツが「秘密くん」。周りの状況、例えば芝生の公園なら靴に芝生をあしらうなどして、風景にシークレットブーツを溶け込ませる技法を用いていた。

一方、「秘密ちゃん」は、頭をフランケンシュタインの如きに伸ばす技法だったように記憶している。

Y子さん、どうみても、30歳代前半だと思っていたが、聞けばわたしと同じく1965年生まれということがわかった。

そして、明らかに30代後半に見えていた金融駐在員氏がその場最年少の29歳だということがわかり、一堂、沸く。

20年以上(!)の時を経てなお、お茶の間に話題を提供する「秘密くん」であった。

(6/4/2003)

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