June 28th., 2003 蜃気楼のように

果てしない荒野を走り抜けた果てに、
蜃気楼のように浮かび上がる光の街。

100マイルほど先で、怖いほどに星が降る夜を過ごしたばかりなのに、
ここでは星をかき消すネオンの洪水。

砂漠を滑ってくる熱風に包まれて、呆けたように立ちつくす瞬間。

 June 27th., 2003 美しき水

ありあまる光の渦に包まれたラスベガスの、ベラージオという名のホテル。
前庭の、広大な水辺で、15分おきに繰り広げられる噴水のショー。

音楽に合わせて、水が優雅に舞い踊るさまを、息を詰めて見つめる。

映画で見たことがあったけれど、
目前で、水の音や、しぶきを感じながら見るのは、その迫力が断然、違う。
水と光が、こんなにも美しいとは。

 June 26th., 2003 迷い道

種類の異なる泥や砂が堆積してできあがった断層が、
気が遠くなるような歳月を経て、雨水などにより浸食され、
こんなに不思議な形状をした、無数の尖塔を創り上げた。
尖塔を吹き抜ける風の音が聞こえる。
またいつか、もし訪れることがあったら、今度は尖塔のふもとを歩いてみよう。

この写真を父にも送った。
病を抱えた父の目に、この尖塔らは「仏像」に見えたのだという。
(Bryce Canyon National Park, Utah)

 June 25th., 2003 砂岩列車

限りなく遠い昔、大変な力で砂地が圧縮され、
いくつもの奇妙な形をした砂山が生まれた。
その、ほんの一隅を、人々は、歩く。

夏の荒野は乾ききり、日差しが鋭く、熱い。
けれど日陰に身を寄せれば、たちまち心地よい涼しさだ。
巨岩に空いた小さな穴に潜り込み、まるでベンチのような場所に腰掛ける。
なんだかとてもやさしくて、親密で、わくわくする、不思議な空間。

そして、人生ゲームのコマのような、私たち。
(Capitol Reef National Park, Utah)

 June 24th., 2003 目に刺さる空

トレイルをはずれ、杖を頼りに、膝の辺りまでも濡らしつつ、ざぶざぶと川に入り、歩く。
早朝の清流はひんやりと冷たく、右に左に流れを変えながら、横たわる。
たとえばわたしが生きたきた時間は、
この川が何千万年もかけて浸食してきた岩山の、ほんの1センチ程度にも満たない。
こんなにちっぽけな存在だけれど、しかしそのちっぽけな中に、
なんとさまざまが凝縮された人間という存在だろう。
人々はそれぞれに、みっしり、ぎっしりと、例えようもない高密度の存在感だ。
青空が、目に刺さる。光透かした雲が、心惑わす。
(Zion National Park, Utah / The Narrows)

 June 23rd., 2003 途方もなく

巨岩に登る朝。

小さなわたしたちが、どっしりとした巨岩に、ちみちみ、ちみちみ、ちみちみと登る。
そうして、ようやく、見晴らしのいいところまでたどりつく。
うわあ〜っっ! と、足がすくむような断崖絶壁。
見渡せば、巨岩がどしん、どしんと、連なって、視界の彼方まで。
ここに、おむすびと卵焼きでもあったらなあ。さぞかしおいしいことだろう。

(Zion National Park, Utah / Angeles Landing Trail)

 June 22nd., 2003 地球の一隅で。

都会に暮らしていると、うっかり忘れてしまう。この国の広さ。
こうして、内陸に車を走らせると、大陸の大きさを、いやというほどに感じさせられる。

ラスベガスからユタ州の国立公園を目指して、東へドライブ。
ゆけどもゆけども、空と大地。そして大地に、細く細く横たわる一本の道。

舗装された道路から視線をそらせば、
今日という日が、いったいいつの時代なのか、よくわからなくなってしまう。

 June 21st., 2003 おめでとう!

夫の大学時代の友人が、ボストンで結婚式を挙げた。
彼はわたしたちの式に立ち会うためニューデリーにまで来てくれた、夫の大切な友達。

町はずれの樹木園で、手作りの結婚式を挙げた後、
参列した仲間たちと「自転車」でパーティー開場までツーリング。

そして、イタリアからやってきた親戚家族らと、パーティー前の記念撮影。
朗らかな話し声、ときおり起こる歓声。微笑みが尽きない、大切な一日。
おめでとう! マックス!

 June 20th., 2003 レンガ壁の記憶

ボストンはレンガ造りの古い家が多い。そんな街並みを歩いていたときのこと。
高校2年の美術の時間を思い出した。「校内の、どこでも、描きたいところを、描きなさい」
先生にそう言われた生徒らは、校庭に散らばった。
わたしは、木陰に座り、サッカーのゴールを中心にした運動場の景色を描いた。
ゴールのネットを1本1本を、なにゆえにだろうか、大変な集中力で描いたものだ。
そんな自分の絵と同様に、記憶に残っているのが、かよちゃんの絵。
レンガ造りの体育倉庫に、至近距離で座り込み、レンガの壁をひたすらに描いていた。
そしてその絵は、この写真と、本当によく似ていたのだ。

 June 19th., 2003 

いったいどれほどの教会を訪れたかわからない。
例えば長い間、欧州を旅したときも、
どんな小さな町のどんな小さな教会にも、必ず足を運んだ。
まるでその町に挨拶をするかのように、教会のドアをくぐり、黙祷する。

異教徒に対しても、ここは守られた場所だという心安さを与えてくれる。

そして何度となく訪れているこの国立大聖堂も。
今日もまた、わたしに光を見せてくれるのだ。

 June 18th., 2003 バス停

うちの近所にメトロの駅はないけれど、アパートメントのビルの前に、バス停がある。
ジョージタウン方面と、デュポンサークル方面へ向かう2種類の路線。
一応、時刻表があるけれど、スケジュールに従って来ることはなく。
ただ、待ち続けるのみ。

日差しがきついこの季節は、屋根のあるバス停がありがたい。
無論、ここは屋根の一部が壊れているが。

最近は、マクドナルドの広告が鮮やかに。

 June 18th., 2003 新芽

草木の新芽を見つけると、つい触りたくなってしまう。

つやつやと、瑞々しく、柔らかく。

そして力強く。

人差し指と親指の先でそっとつまむと、自分が指先からやさしくなっていくように思える。

新芽の季節は過ぎつつあるけれど、まだ街を歩けば、時折。

 June 17th., 2003 偶然のグリーン

グリーンカードが取れた日の午後。
2日前、ジョージタウンにオープンしたばかりのKate Spade NEW YORKに行った。
このとき、ピンクの財布が目に飛び込んできた。中を開くと優しい若草色。
まるでひな祭りの菱餅のような色合わせ。
ずっと新しい財布に買い換えたいと思っていたので、買うことにした。

グリーンの箱、グリーンの紙袋が、わたしたちの今日に、よく似合う。
Kate Spade NEW YORKは、わたしが渡米したのと同じ1996年、SOHOにオープンした。
そんなささやかな偶然さえ、うれしく思える午後。

 June 16th., 2003 東南アジアの街角で

アジアのスーパーマーケットの店頭で、「ライチー」を見つけた。
やはり同じ店で、日本の「ざる」も見つけた。洗ったライチーをざるに揚げる。よく似合う。

初めて訪れた東南アジアは、シンガポールだった。あれはチャイナタウンの一画。
蒸し暑く、べったりと重たい空気。聞き取れない人々の、うるさいくらいの話し声。
たちこめる、さまざまな、鼻を突く匂い。身体がだるくなるような淀み。
しかし、市場の店先に、ドリアンやライチーが、山のように積まれているのを
ひどく愉快な気持ちで眺めた。
「初めての光景」はどんなものも、どんな場所も、いつまでも、心に残る。

 June 15th., 2003 南部鉄の急須で

アメリカでお茶の専門店が見られるようになって久しい。
今日、出かけたショッピングモールに、新しいティーショップがオープンしていた。
TEAVANAという店名は、TEA と NIRVANA をかけているのだろうか。

緑茶、紅茶、中国茶、ハーブティーなどさまざまなお茶が売られているほか、
この店は「南部鉄急須」のコレクションが充実していた。

アメリカでは、日本茶はこの急須で飲むもの、というイメージが浸透しつつある。
丈夫だけど、重い。

 June 14th., 2003 木綿のパジャマ&クルタ

インド人男性の国民的寝間着「パジャマ・クルタ」。
ウエストを「ナラ」と呼ばれる紐で結ぶ、ダボッとしたパンツが「パジャマ」。
西洋に寝間着上下を示す言葉として取り入れられた言葉だ。
そして、やはりダボッとした、風通しのいい上着を「クルタ」と呼ぶ。

夫は、夏でも冬でも、一年中、これを着て寝る。

インド土産に新しいパジャマ・クルタ。あるパジャマに、布の製品説明が印刷されていた。

 June 13th., 2003 インドの家族からの、受け継ぎもの。

夫の父、ロメイシュと、姉のスジャータが、インドのニューデリーからやってきた。
スーツケースにはたくさんのお土産が詰まっていた。
「これは、インドの家族からの贈り物」といって、スジャータが手渡してくれた。
今は亡き夫と彼女の母親が使っていたという大きなストール。
どっしりとした反物はまるで日本の着物のよう。金糸の刺繍がまばゆく、美しく。
わたしたちが結婚してからというもの、
義父と義姉は、義母の形見のブレスレットやネックレスなどを、
少しずつわたしに、いや、わたしたち小さな家族に贈ってくれる。
インドの家族から受け継がれる、記憶の形。

 June 12th., 2003 グリーンカード

とうとう、その日が来た。

昨日、郵便で届いたイミグレーション(移民局)からのレターと書類を持って、
今朝、指定された、アーリントンのイミグレーションへ行った。

無事に、二人そろって、ようやく、ついに、やっと、グリーンカードを取得できた。

カジュアルな書体のバナーがなんとも威厳のない、イミグレーションの入り口で、
記念すべき日の、記念撮影。

 June 11th., 2003 あふれ出す。

もう、歩道の一隅の、与えられた小さなスペースに、とても収まりきらないのを、

それでも、なんとか、道路を走る車の、歩道を歩く人間の、邪魔にならないように、

窮屈に、根を縮めながらそびえ立つ、ちょっと気の毒な街路樹。

 June 10th., 2003 いい風が吹く晴れた日は。

晴れた日の午後。バックパックにノートや本やペンを詰めて、ビショップガーデンへ行く。
いい風が吹く木陰で、買ったばかりの本を開く。
"Lagacy of Love" 
筆者はマハトマ・ガンディーの孫だ。筆者が子供のころ、祖父は彼に向かって言った。

"Your mind is like a room with many open windows. Let the breeze flow in from all directions, but refuse to be blown away by any one."
(君の心は、たくさんの、開け放ちた窓がある部屋だ。あらゆる方角の、すべての窓から、さあ風を通したまえ。けれど決して、何ものからも、吹き飛ばされちゃいけないよ)

 June 9th., 2003 音楽。

覚えきれぬほどの、声色、旋律、抑揚。

その歌声、軽やかにあたりを巡り。

どんな音楽をも超えて今は、我が心に染み入る。

 June 8th., 2003 旅行の準備。ヘビ年にちなんで。

今週末にはインドから夫の家族が来る。月末にはみんなでラスベガスや国立公園へゆく。
トレッキングのためのパンツやジャケット、バックパックを買おうとL.L. Beanへ。
オレンジ色のキュートなバックパック。一目で気に入り即決。
それまで無地の、ありがちなデザインのを買おうとしていた夫も、
「かわいい系」のバックパックコーナーで探し始めた。
他にも、ブルー(トカゲの刺繍)、グリーン(クモの刺繍)などあったけれど、
この色が気に入ったらしい。ちなみに刺繍はヘビ。いまいちかわいくないけれど、
でも、妻の「干支」がヘビだだから、縁起はいいかもしれない。……?

 June 7th., 2003 ゲストからの贈り物

パーティーのたび、いつもきれいな花束を持ってきてくれるNORIKOさん。
すでにアレンジメントされている花束らしいのだが、
それはいつも、かなり意表をつく、インパクトのある花の組み合わせなのだ。
黄色、オレンジ、ブルーなど、そのときによって「基調」となる色があり、
全体に、いつも、そこはかとなく、オリエンタルの情趣が漂う花の取り合わせ。

今回は、びっくりするほど大振りのユリが2輪、
それにかぐわしきシャクヤク、キクやカーネーションの組み合わせ。
いったいどんな人が、アレンジしているのだろうと、好奇心が沸いてくる。
それにしても、なんていい香りなのだろう。

 June 6th., 2003 久々に、ジョージタウンのバーンズ&ノーブルへ。

目覚めた瞬間に青空が飛び込んできた朝。東向きの窓辺に立って、大きく深呼吸をする。
掃除をして、仕事をすませ、ランチを食べて、午後からはジョージタウンへ。
できあがった『muse DC』を、紹介した店舗などに配りながら、坂を下りてゆく。
着心地のよかったTシャツを改めて2枚買い、なくしたヘアクリップを改めて買い、
書き物をするために、バーンズ&ノーブルのスターバックスへ。
ほどよく冷房が効いた店内でノートに向かううち、心地よさにうとうとしそうになる。

それにしても、スーツ姿のおじいさんの、靴下の赤さよ。
なにかのおまじない? 風水? と問いたくなるような、見逃しがたい赤さ。

 June 5th., 2003 屋上日和

雨ばかり続く重苦しい初夏。最近は、青空のありがたみが身に染みる。
家には乾燥機があるから、雨の日に洗濯をしても構わないのだけれど、
でも、洗濯は、やっぱり晴れた日が、よく似合う。
掃除をするのにも、やっぱり晴れた日の方が、よく似合う。

片づけを終えて一段落。アパートメントの屋上に上ってみた。
暑くもなく、寒くもない、ほどよい風が吹いている。
日光浴をしている人もいる。

カテドラルの上には、ハートみたいな、大きな雲。

 June 4rd., 2003 キュート&クール!

日本の母から、下駄が送られてきた。
わたしが夏の部屋履きに「日本の草履」を愛用しているのを知っている母が、
「モダンな下駄やさん」で見つけてきてくれたのだ。

鼻緒の色柄がかわいくて、木肌が滑らかで履き心地もよく、とても気に入った。

真っ赤なペディキュアをして、サンダル代わりに、足もと賑やかに歩こう。

 June 3rd., 2003 空から降ってきた。

先月の、ある晴れた日曜日。
夫と二人、散歩に出かけようと、ロシア大使館の横の坂を下っていたときのこと。
大使館の入り口あたりを歩いているとき、空からハラハラと降ってきた。
拾い上げると、こんなにも、まるでアップリケみたいな、花びら。

空を見上げても、この花が咲いていたらしき木は見つからず。

歩道の芝生の上に舞い降りた花びらを幾つか拾って、メモ帳に挟んでおいた。
なくしてしまうまえに、記念撮影。

 June 2nd., 2003 ベリーの季節は続いている。

昨日、ジョギング&ウォーキングの帰り道。
隣町のスーパーマーケットで見つけたストロベリーとブルーベリー。
イチゴは、たいへんな大粒で、全長が5センチほどもある。甘みのあるおいしいいちご。
つやつやとした新鮮なそれは、へたの先の茎が長めに残されていて、アメリカじゃ、
これにクリーム状のチョコレートをディップして食べたりする。
GODIVAの店頭にも、チョコレートがコーティングされた大きなイチゴが並んでいる。

わたしたちは、アイスキャンディーを食べるみたいに、一粒ずつ、そのまま食べる。
ブルーベリーはヨーグルトに入れて食べる。もちろんそのままでもおいしい。

 June 1st., 2003 日曜の夕暮れごころ。

日曜の夕暮れ時。散歩の帰り道。
いつものようにカテドラルに寄り、
ビショップガーデンでバラを見て、帰る。

こんな空に見下ろされるときはいつも、
自分の在処が覚束なくなり、叫びだしたくなる。

街灯の中に、朧月。

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