■サロン・ド・ミューズの日記より抜粋。(8/8/2003)

●我々の、寿司道。

夜は、A男の誕生日前夜祭を祝して、というわけでもないが、料理をするのがやだったので、寿司屋へ行く。

カキフライ、ホウレンソウのごまあえ、アボガド&ウナギロール、ハマチの刺身、サーモンの刺身、それに加えて今日は奮発しておすすめ(時価)のトロとウニの刺身をオーダー。

あ〜もう、ウニがひさびさにうっとりするほどおいしくて、口に入れたあと、目を閉じて味覚に全神経を集中させるほどの熱の入れようだった。だってさ〜、繊細なおいしさのものを食べるとき、ベラベラしゃべりながらぱくぱく食べてたら、ありがたみが薄れるでしょ。

とくに刺身なんて、うっかりすると、無意識のうちにひとくちでぺろりんと食べてしまうからね。

料理を出す順番に拘るような専門店じゃないから、一気にあれこれテーブルに届くのだが、カキフライのような濃厚な味のものを食べた直後、息つくまもなく、A男がウニに箸を伸ばそうとするので、

「ちょっと待った! 一旦ごはんを一口食べて、口中を清掃してから、ウニ!」

と指示など出してしまう。

それにしても、二人の好みが似ているのは、今日のようなとき、非常に困る。

「ねえねえ、今日はさ〜、ハマチとウニ、どっちが好き?」

と聞けば、A男は「ウニ!」と答えるし。もしもハマチだったら、5切れあったから3切れ彼にやって、わたしがウニを多めに食べようと思ったのだけど、作戦失敗。

カキフライの5切れは、「誕生日前夜」ということで、太っ腹にも彼に3切れ、分け与えたのだが、恩を徒で返された思いだ。

だいたい、わたしたちはいつもまったく同じくらいの量を食べるので、レストランなどではきちんと二等分しなければならない。

寿司のように1つずつ分かれているものはいいが、ウニのように混沌としたもの、あるいは刺身盛り合わせなどで奇数が出された場合、互いに牽制しあいながら、残量のチェックを怠りなく、相手が「うっかり」を装って多めに食べようものなら、すかさず「待った!」が入る。

奇数の場合、たいてい、刺身でも箸で「半分に切って」分ける。切り口がぐちゃっとなって、なんか、まずそうですけどね。

……わたしたちって、なんか、食い意地の張りすぎ? というか、わたしが少々、控えるべき?


(翌日の日記より)

読者1名から、昨日の日記に関して、下記のようなコメントが掲示板に届いた。

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日記読んだけどさ、そんなにまで、かたくなに2等分しないといかんのか!と、爆笑しました。あ〜わらったぜ。しかも、切れにくいお寿司系を!! 贅沢して、もう一品注文してください(笑)
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ま、妹からなんですけどね。多分、妹と同様のご意見の方が多数と見たので、ここで説明しよう。

すでにテーブルに、十分な量がある際、まず我々はよほどのことがない限り、おいしいものだけを追加注文することはない。デブなわりに、意外と食欲をコントロールしているのでね。

それに加え、アメリカの刺身の1切れは、かなり大きい。例えば昨日訪れた店は、日本の刺身の2倍サイズはある。だから見た目がちょっと「だらん」としている。

ニューヨークじゃ、日本の刺身の3倍くらいの量を出すところもある。だから「だっら〜ん」としている。一口ではとても食べられない。

上記からもわかるように、刺身が小さく切られているのは、食べやすさもさることながら、「だらんとしない=新鮮に見える」という効果があるということを、米国の寿司を通して学んだね。

そういうわけで、半分に切っても醜くはなるが、かなりの量なのだ。さほど「せこい」ことではない。

いや、ここまで書いて気づいたが、たとえ小さくても、私たちは半分にわけるな。なんでだ? 思えば昔のボーイフレンドらとは、ここまで頑なに「半分」じゃなかったな。なんでだろ。

しかも、わたしは「食べ盛り」の時期をとうに過ぎているというのに。

それはそうと、1つずつオーダーできるのは追加注文も考えられるが、5切れとかだと、またオーダーすると更に5切れくるわけでしょ。それは多すぎなのよ。

加えて、「自分が好きな物だけ」をたくさん注文しては「寿司・刺身哲学」に反する気がするのよね。

食べている間にも、メリハリがいるでしょ。食べる順番にも気を遣うところもまた一興、だし。

最初は軽く、あまり好きじゃない赤身のマグロを片づけて、次にアボガド、ウナギロールで濃厚さを口中に補給し、海草サラダなどをちらちらと食べて口直しをしたあと、今度は安いけど好きな「しめさば」にいき、次いでサーモン……といった具合に。

アナゴとかトロとかには慌てて手を付けず、外壁から攻め込む、という感じ。これは、寿司&刺身と食べるときならではの、醍醐味である。

「ああ、このアマエビをもう一切れ、食べたいところだが、まだサーモンが残っているし、今日の所はこれで我慢しよう」とか、

「このウニは、あと3切れは食べたいけれど、高すぎるから、ハマチでお茶を濁そう」とかいう駆け引きもまたおかし、なのである。

いくらサーモンが好きだからって、木の皿一面がピンクに染まるような注文の仕方(『街の灯』(「寿司とニューヨーカー」参照)では、面白みがないというものだ。

A男は徹底的に「おいしいものはあとに残す」タイプで、普段はわたしより食べるのが早いのに、寿司の場合はやたらゆっくりで、わたしが食べ終わってからも、おいしい二切れくらいを残していて、やたら「見せびらかすように」ゆ〜っくり食べるもんね。やなやつ。

昔、一度、それを横から奪おうとしたら、むちゃくちゃ怒られた。以来、わたしも、横取りすることなく、大人しくしてますけど。

結局、今日の「解説」は、単に、墓穴を掘っただけ、のような気がしないでもない。いったい、いくつになったら、「大人」になるのか我ら。


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