その8 アンダルシア一人旅:中編


お待たせしてすみません。別に“人気作家?気取り”なんてことはまったく無いのですが、出張などがあったりして、ちょっと日記を書けませんでした。(坂田さんからも催促されてはいたのですが・・・・)

前回に引続き、私のアンダルシア一人旅(中編)です。

本当はいっきに最後まで書いてしまおうと思ったのですが、時間の関係と、文章が長くなってしまったので、急遽、3部構成になりました。

前編では、マルベーラの停電事件までお話しましたよね。それでは、今回は『白い村探検』から話を始めましょう。

 

●12月26日(火) カサレス〜ロンダ

朝起きてみると、昨夜の豪雨が嘘のように晴れあがっていました。私はさっそく窓を開けて地中海の風を部屋いっぱいに注ぎ込みました。なんと気分の良い朝だったでしょう。この旅の中で初めて味わう“爽快感”でした。しかし、この“爽快感”は長くは続きませんでした。(今考えてみると、なんか悪霊でもいたのでしょうかねぇ・・・・)

午前9時にホテルをチェックアウトして、車を更に西へ走らせました。第一の目的地はカサレスです。地中海沿岸地域に集中している『白い村』というものをご存知でしょうか? 青い海に面して真っ白い家々が建ち並び、海の青と家の白さがすばらしいコントラストを演出し見るものを感動させるという、そんな景色なのです。私は以前、何かの本でこの景色の写真をみたことがありました。以来、一度行ってみたいと思っていたのです。

『白い村』はいくつもあるのですが、中でも有名なのがこのカサレスという村なのです。ということで、私は一路カサレスを目指しました。マルベーラからカサレスまではそれほど遠くなく、この区間は標識もしっかりしていたので、迷うことなくカサレスに到着しました(読者のみなさんにはなんか拍子抜けって感じかも?)。カサレスは本当にすばらしいところでした。私は、車を降りて村の中を歩いてみたのですが、そこはおとぎ話に出てくるような景色でした。狭い小道の両側には白い壁が建ち並び、その壁にはいくつもの小さな植木鉢がぶら下がっていて、その道を歩いていると丘の上の教会から鐘の音が聞こえてくる、といった感じでした。ここは本当に最高でした。

私は普段、旅行中でも写真を取らないのですが、このときばかりは写真を撮ろうとカメラを取りだしてみました。どこからのアングルが一番きれいに取れるのかなぁなどと考えながら歩いていると、ここで来ました、悪霊が!!!

なんとそれまで快晴だった空が、みるみる曇りだし、10分もしないうちに大粒の雨が降り出してきたのです。(もう、なんで!?俺が何かした???) 青い空&海、それに白い家という景色が感動的なのであって、薄黒い空&灰色の海では意味がないのです。とはいえ、このころの私はすっかり精神麻痺状態であり、天気が悪くなることに腹も立たなくなってきていたので『まあ、いいか・・・』と呟き、写真を撮らずに車に戻りました。

今考えると、写真だけは撮っておけばよかったなと本当に後悔しています。みなさんも、もし旅先で写真が撮りたくなったら、迷わずにシャッターを切りましょうね。多少の悪条件でめげてはいけませんよ。そんなときは私の話を思い出して、「あんなバカとは一緒じゃない!」って思ってシャッターを押してくださいね。

雨のカサレスを後にした私が次に向かったのは、ジブラルタルでした。ジブラルタルはスペイン国内にありながら、イギリス領であるという不思議な土地です。そこには大きな岩がそびえたっていて、その岩の上からは地中海の向こうにアフリカ大陸を望むことが出来るという土地です。

カサレス〜ジブラルタルまでは車で1時間ぐらいでした。街の中でイギリス国境の入口を探すのに多少迷いました。なんとか無事?に国境の入口を発見し、国境に向かう車の列に並びました。国境越え渋滞の中で20分くらい経った後に、やっと私の番が廻ってきました。車で国境を越えるということは私にとって初体験でした。ガイドブックには「パスポート&免許証を見せればすぐに通過できる」と書いてあったので、私もその通りにしました。しかし、ここに本日の落とし穴があったのです。

始めのゲートでパスポートを見せて、次のゲートで免許証を見せました。ガイドブック通りなら、これでOKのはずですよね。しかし、違ったのです。私は本当に気が付かなかった(バカなだけかも?)のですが、その先にもうひとつゲートがあったのです。気が付いていない私は、まったく気にせずに車のアクセルを猛然と踏み込み、そのゲートを突破してしまいました。するとどうでしょう。当然ですが、すごい勢いで係員が追いかけてきて、車を止めさせられました。そして私が恐る恐る窓を開けたら、イギリス人係員がおっかない顔して私に向かって、

『何で止まらない!おまえのパスポートを見せろ!』とすごい剣幕で怒鳴っているのです。

私は車を脇に止めて、パスポートを彼に渡しました。彼は私のパスポートを奪い取るようにひったくると、『車を降りろ!』と言いました。もうこうなったら逆らってもしょうがないので、言う通りにしていると、彼は私をゲートの横の小屋みたいなところに連れていきました。そこからは訳の分からない英語でのお説教です。

約15分間ぐらいだったでしょうか。私は彼に拘束されて、ずっとお説教です。途中で住所や渡航目的みたいなことは聞かれましたが、それ以外はお説教でした。でも英語が分からなくて良かったと思ったのは、彼が怒っていることの半分も私には分からないのですから。「まあ、そのうち開放してくれるだろう」と思って、不思議と焦ることはありませんでした。予想通り、彼は私を開放してくれて、パスポートも返してくれました。

やれやれと思い、岩の頂上に上るケーブルカーを探していると、また雨が降り出しました。雨だけならいいのですが、岩の頂上には霧がかかり下からは見えない状態になってしまいました。私は何でここに来たのかが、もう分からなくなってしまいました。国境で説教されて、やっとの思いで入国したら、そこはまたまた雨だった・・・・・・下から見ただけでも岩の頂上が見えないのですから、岩の頂上からアフリカ大陸が見えるはずはありません。空に広がる霧を見上げながら、私は完全な無気力状態になってしまい、ジブラルタルのマクドナルド(坂田さんもこの店に行ったことがあるらしい)で買物をして、他には何もしないでジブラルタルを後にしました。マクドナルドではペセタで払ったお金が、ポンドのお釣りで戻ってくるというおまけまでつけられて・・・(使えないでしょ、こんなポンド硬貨!!って思ったところでどうしようもないのですが・・・・・・)

ジブラルタルからはロンダに向かいました。Museスペイン特集にも書かれているようにロンダという街は、山間の中の渓谷にかかる村で、谷にかかる橋の美しさで有名な村です。

海の街ジブラルタルから山間の村ロンダまでは当然、登り道が続きます。ただの上り道ならいいのですが、これが細く険しい山道なのです。ガードレールなどというものは設置されておらず、“一寸先は闇”改め“一寸先は谷”って感じなのです。対向車とすれ違いながら、ふと谷底を見たりすると、『あー落ちたら死ぬな・・・』という言葉だけが頭の中を占領していました。

途中、ガソリンスタンドによって休憩をして、2時間ぐらい走ったでしょうか、なんとか無事にロンダに到着しました。ロンダでは谷にかかる橋を望む景色がすばらしいということなので、私も、その橋へ行ってみました。橋というものは上から見ていてもあんまり景色が分かりませんよね。川しか見えないし。川の方から橋全体を眺めてみたときに、その景色が楽しめるというものですよね。そこで、私は濡れた石の階段を恐る恐る降りていき、谷の下の方へ降りていきました。(忘れてはいけません。この瞬間も雨は降り続いているのですよ。)なんとか階段を下りきり、水面近くにある広場に出たとき、『しまった!降りてこなきゃよかった。』としか思えませんでした。なぜかといえば、そこには濁流だけが私のことを待ち構えていたのです。たまにTVのニュースとかで河が増水している映像とか見ますよね。まさにあのような濁流なのです。『のみこまれたら、死ぬな』って感じなのですよ。

景色がきれいとか、橋が美しいとかそういう場合じゃなかったですね。私にとってのロンダはまさに“生きるか死ぬか”の村でした。

 

●12月27日(水) ヘレスからセビリヤ

生きている喜び?を噛み締めることができたロンダを後にして、私はシェリー酒で有名なヘレスに向かいました。ロンダからヘレスまでは車で1時間30分程度でした。

ヘレスの中でシェリー酒の工場見学でもしようと思い、ティオペペ(Museにも書いてあった)の工場に行きました。工場見学は英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語で聞けるようになっていました。(日本語はなかったです)そこで仕方なく、英語のツアーに申込みをして待合室で待っていました。すると、奥から日本人らしきガイドさんがやってくるではありませんか。『これはもしかしたら、日本語で説明が聞けるかも!?』と思い、少しワクワクしていたら、案の定、彼は私に話しかけてきました。もちろん日本語で。

彼が言った言葉・・・・『あのー添乗員さんですか?』

私も真面目に『いいえ違いますが・・・・』と答えたりして。

要するに、彼は日本人団体客用のガイドさんなのです。団体のお客さまには日本語で案内をしていたのです。私が中に入ってからほんの5分後に、来ましたよ。40人くらいの日本人団体客が!彼はその団体客を引き連れて、工場内に消えていきました。そして、私は、本当の添乗員さんと一緒に待合室に残されたのでありました。いつもは『団体旅行なんて嫌いだ!』と言っている私も、あのときばかりは『おれも団体ツアーに参加したい!!』と心から思ってしまいました。

工場見学のあと、私はセビリヤに向かいます。

セビリヤでの出来事、急遽予定変更をして向かったコルドバへの旅、そして最後のマドリッド&最終日のフライトキャンセル事件については、次回(後編)にてお話しますね。

ではまた。


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