その7 アンダルシア一人旅:前編


アメリカに来て始めてのお正月を迎えました。こちらでは1月2日が仕事初めなので、私も2日から出社しました。アメリカには“三が日”という言葉はないようです。当たり前ですね。とにかく新年の最初ぐらいはビシッとしようと思いまして、私も2日から出社しているわけですが、その前のクリスマス休暇はたっぷりと取らせてもらいました。

12月22日(金)の午後からクリスマスホリデーということで、私は1人スペインに行ってきました。何故スペインかと聞かれても、あまり明確な理由はないのですが、強いてあげればアメリカにいるうちに大西洋を越えてヨーロッパに行きたかったことと、少しは暖かいところに行きたかったというぐらいです。というわけで、今回は私のスペイン苦行旅行のお話をしたいと思います。

 

●12月23日(土) マドリッド

この日はマドリッドのホテルに宿泊し、翌日はグラナダに向かう予定だったので、まずは電車の切符を買うことから始めました。英語が通じる切符売場だったので、特に問題はありませんでしたが、まず驚いたのは、なんとマドリッドからグラナダまでは電車で6時間30分もかかるということです。マドリッドからセビリヤまでは電車で2時間45分なのに、同じような距離のグラナダまで、なんで6時間以上もかかるのでしょう?『うっそー』と思い、係りの人に聞いてみたところ、セビリヤまではAVEという新幹線みたいな電車が走っていて、グラナダ方面にはそれがない、ということだったのです。要するにスーパーエクスプレスがないということなのですね。貴重な旅の1日をほとんど電車の中で使ってしまうなんて・・・とガッカリです。

しかしガッカリしながらも、私はこのとき、あることに気がついたのです。要するにこの問題のポイントは、『旅の前にはガイドブックを良く読め!』っていうことなのです。実は出発の前、Museの坂田さんからスペインに関するガイドブックを何冊も借りました。(どうやら彼女はスペイン好きらしいです。)でも私はそれをまったく読まなかったのです。読まないのに勝手に現地のホテルだけ予約を入れていたのです。移動距離や移動時間なんてものは簡単にしか考えてなかったのです。後でガイドブックを読み返してみると、書いてあるじゃありませんか!“マドリッド−グラナダ間、電車で6時間30分”って。

この夜は反省して、ホテルでガイドブックを夜中まで読みまくりました。今更、遅いんですけれどね。

 

●12月24日(日) グラナダ

夕方近くになってやっとグラナダに到着しました。駅からタクシーでホテルに向かい、チェックインを済ませた後に、グラナダ空港までレンタカーをピックアップしに行きました。市内のレンタカー事務所はクリスマスでお休みということで、仕方なく空港まで行ったのです。

空港で車を借り、市内へ戻るときに案の定、道に迷いました。初めてきた街で慣れない&読めないスペイン語の標識で、迷わないはずはないのです。タクシーで20分ぐらいで来たのに、帰りは1時間かかりました。少しでも市内観光と思っていた私の予定はまたしても崩れてしまいました。

なんとかホテルに戻って来て、夕食でも食べようかと思ったときに恐ろしいことを発見してしまったのです。それまでは道に迷っていたので気がつかなかったのですが、この日はクリスマスイブということで街中のお店のほとんどが閉まっているのです。バーガーキングまで閉まっていました。これには参りました。夕食を食べたいのだけれど、店がどこも営業していないのですから!どれくらい歩き廻ったでしょうか?ある意味では充分な市内観光だったと思いますが、もう空腹で死にそうになっていたので、観光という気分ではありませんでした。

最終的には、足を引きずるようにしてホテルに戻り、ホテル内にあるダイニングのクリスマスディナー(要予約制)を無理やり頼み込んで、なんとか食べさせてもらいました。食べながら思ったこと。それは『クリスマスに旅行はするな!』ということだけでした。

 

●12月25日 マラガと思ったらマルベーラ

朝早く起きて、アルハンブラ宮殿に行きました。ガイドブックによると(この頃は私もかなり読み込んでいたのです)バスに乗らずに街の中から宮殿まで歩いていったほうが良い、と書いてあったので、そうすることにしました。丘の上にある宮殿目指して、まるで登山道かというような坂道をハーハー言いながら上っていきました。やっとの思いでゴールが見えたとき、またしても私の耳に衝撃の事実が飛び込んできたのです。たまたますれ違った日本人老夫婦が私に向かって、こう言ったのです。

『アルハンブラですか? どうやら今日はお休みらしいですよ。』

言葉を失うとは、まさにこのことです。6時間半もかけて電車で来て、メシも食えない辛さを体験して、それでもって、この街にきた目的であるアルハンブラ宮殿に入れないとは!!!この先私は、グラナダには2度と行かないでしょう。少なくとも今だけは言わせて下さい。『グラナダなんか大嫌い!』

傷心のままグラナダを後にした私は、地中海沿岸のコスタ・デル・ソルに向けて車を走らせました。もうこうなったら冬とはいえ、地中海の海の風をいっぱい吸って、ヨーロッパリゾートって感じを味わってやる、と心に決めたその瞬間、びっくりです、雨が降り始めました。午前中に、“言葉を失う”ということを体験しました。今度は“神も仏もいない”ということを体験してしまいました。

その後、雨は激しく降りだし、車の前が見えないくらいになりました。なんとか宿泊予定地のマラガという街に到着し、観光案内所でホテルの場所を聞いてみました。係りの人はいとも簡単に、『あーそのホテルはマラガじゃないよ。マルベーラだよ。』って教えてくれました。私はマラガにホテルをとったつもりだったのです。でもそれがマラガじゃない。じゃあ、どこ????もう混乱状態です。

地図を広げて一生懸命にマルベーラという街を探しました。ありましたよ。そりゃ、ありますよね。マラガから50キロくらいに離れたところにありました。どうやらそこもマラガ県内らしいのです。もちろんマラガ市内ではありませんが。もう、「勘弁してくれー」と叫びながら、そして途中道にも迷いましたので半分泣きながら、土砂降りの中をたった1人で車を運転してホテルを探しました。

何軒ものガソリンスタンドに入り、まったくわからないスペイン語での説明を聞きながら、たまに身振り手振りで教えてくれる人がいたので、そのジェスチャーだけを頼りに車を走らせました。そんなこんなで、どうにかこうにかホテルにたどり着くことができました。ホテルの駐車場に車を止めたときは、あまりの安堵感から、全身から力が抜けてしまいました。

目に溜まった涙を拭きながらチェックインを済ませ、この日はホテル内で夕食を取ることにしました。外は大雨ですし、もうこれ以上、道の分からないところをドライブしたくなかったのです。このホテルのダイニングでの夕食は、まあまあ美味しくて移動の疲れを癒すのに最適でした。

今日1日もこれで終わりだなと思っていたところに、実はまだ事件は残されていたのです。突然、ドカン、バチンという音がしたと思ったら、なんと、ホテル全館が停電になってしまったのです。もちろん大雨のせいで。もう笑うしかありません。雨がひどいとは思っていましたが、まさか停電になるなんて想像も出来ません。電気がつくまでの間、各テーブルには蝋燭が配られていました。もちろん私のテーブルにも。もしあの時、私が好きな人と一緒に食事をしていたら、あれほど素適な雰囲気はなかったと思います。でも実際は1人ですからね。『男の一人旅をこんなにムーディーにされても・・・・・』としか思えませんでした。本当に、なんとも寂しい夜でした。

部屋に戻ってからはテレビも見られないので、もう何にもすることがなくなってしまい、この日はすぐに寝てしまいました。

ということで、この続きは次回の私の日記に書きますので、お楽しみに。ではまた。


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