ムスリムから見たテロ後のアメリカ

匿名
(10/24/2001)

ミューズ・パブリッシングに郵送されてきた
ニューヨーク在住の日本人イスラム教徒の手紙から、
一部を抜粋して掲載しています。

 


ここアメリカ移民の中には、ムスリム(イスラム教徒)も大勢います。ほとんどの移民は衣食住を求めてアメリカンにやって来ます。彼らは私たち日本人よりも貧乏の嫌さ加減を知っています。彼らにしてみれば空腹を感じずに生きられること自体、小さなアメリカンドリームを達成したと言えるでしょう。

ムスリム移民の人々もこの事件が起きる前までは、ちょっとしたハラスメントはあったにしても、結構平和に楽しく生活していました。アメリカに定住することに決め、家を買った人もいます。私の見てきた限りの、あらゆる国籍のムスリムたちのほとんどが、アメリカ大好き派でしたし、中には自分の国よりもアメリカが好きという人たちも数多くいました。

それなのに、どうして人々はすべてのムスリムがこの事件に関わっているなどと思っているのでしょうか。ムスリムにとっても、世界貿易センターの事件はとてもひどい、ショッキングな出来事でした。けれどもこの事件のあと、事件とは関係ないイノセントなムスリムであるにも関わらず、多くのハラスメントや虐待、暴行に脅かされ始めました。すでに襲撃、破壊、殺人まで起きています。

この事件で多くのムスリムも世界貿易センタービルの中で犠牲になりました。テレビでは、パキスタン人が、わかっているだけでも300人は犠牲になったと報道していました。今回の事件は、今まで平和に暮らしていたムスリムにとっては、今までの生活を一変させるほどの大きな災難でした。にも関わらず、今回の事件に世界中のすべてのムスリムが関わっていたかのような、差別的な見方をする人が数多くいます。そういう人たちによって、ムスリムがアリゾナあたりの元日本人強制収容所なんかに連れて行かれるかも知れません。

それよりも起こりうる可能性が高いのは、ヒステリックに怒り狂った民衆による暴行や虐殺です。人々はもう昔の野蛮だった頃と違って、今は21世紀なんだからあり得ないと言います。本当にそうでしょうか。技術がどんなに進歩しても、人間の本質は昔も今も変わっていないのです。現代に入ってからも、100万人以上の規模の殺戮は数えるだけだったとしても、10万人以上の規模の殺戮は、よくあることなのです。

真珠湾攻撃のあと、アメリカに住む日本人は、老若男女を問わず、まるで真珠湾攻撃にみんなが関わっているかのような、ひどい迫害を受けました。それは正しいことだったと思えますか? ムスリムだって、よりよい生活を求めてアメリカに来たのであって、問題を起こすために来たのではありません。ムスリム=テロリストではないのです。

すでにブルックリン地区(ニューヨーク市5区のうちの一区)では、ムスリムの子供に対する、教師によるハラスメント、虐待も起き、ムスリムの子供達は学校に通うことができなくなりました。子供がいったい何をしたと言うのでしょう。同地区ではムスリム女性も外に出られなくなり、ボランティア団体のエスコートサービスの人々が買い物に付き添うしかなくなりました。

同地区では、イスラミックセンターも襲撃され、ムスリム所有の車も破壊されたりしています。私自身も結婚を機にムスリムになりました。そして私には小さい子供がいます。世界貿易センタービルが破壊された報道をテレビで見たとき、子供たちのこれからのことを考えて、涙が止まりませんでした。もしかしたら、この子たちは私が育ってきたような平和の中で育つことは出来ないのかも知れないと思いました。

上の子は多少、言葉が話せるので、電話のかけ方を教え、「もし、家にいて、誰かにお父さんとお母さんの両方を殺されたら、この人たちに電話をして『わたしは○○です。お父さんとお母さんが死んだから来てください』って言うんだよ。でも、もし、殺されたのがお母さんだけだったら、お父さんの所に電話をするんだよ。もしもお母さんと外を歩いていて、お母さんが殺されたら、乳母車を押して○○へ行くのだよ。もし、お父さんとお外にいて、お父さんが殺されたら、下の子を連れて、お母さんのいる家に急いで帰っておいでよ」などと、教えました。

これは被害妄想などではなく、十分にあり得ることなのです。

最近よく思い出すのは、日本で見た第二次世界大戦後の記録フィルムです。その中で、東京大空襲で両親を亡くした子供たちが、孤児院に向かうトラックの回りを、ぼろぼろの衣服を着て、あるいは素っ裸で走り、二大に載せられていく様子がありました。戦後のすべてが行き届かない中で、幸運な子は生きながらえ、大人に成長しましたが、心に深い傷を負っていることで、普通の暮らしができないようになった人も少なくないと聞いています。

もちろん、自分が死んでしまったら、子供たちの行く末を見守ることなどできるわけはなく、あとは野となれ山となれ、なのでしょうけれど、できるだけ幸せになって欲しいと思うのは当然ですよね。

もし、街でムスリムを見かけても、不当に虐待したり、ハラスメントしたりしないでください。ムスリムも、今回のことで、他の人々と同様、深く悲しんでいるのです。全世界のムスリムの中で、アラビア人は全体の14%に過ぎません。一番多いのはアジア人ムスリム、特にインドネシア、2位と3位がブラックアフリカのムスリムと東ヨーロッパのムスリムで、アラビア人はその次なのです。

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