細長い島の上に、摩天楼が広がるマンハッタン。道路は碁盤の目のように縦横に走っている。東西に横たわる道はストリート(丁目)、南北に横たわる道はアベニュー(番街)だ。 その夜、ダウンタウンで遊んだ帰り、自宅へ戻るためにイエローキャブを拾った。12丁目のあたりから、60丁目まで、6番街をひたすら北上する。深夜の街は昼間とはうってかわり、交通量が少ない。1ブロックごとに設置された信号機は、次々に赤から青へと変わっていき、車はノンストップで滑るように走る。50丁目当たりでタイミングをはずし、赤信号に引っかかった。 信号を待っている間、「グゴゴ」という、いびきのような音が聞こえた。はっとして同乗しているボーイフレンドの方を見る。起きている。「今、いびきみたいな音が聞こえなかった?」と彼に尋ねるが、"No"と一言。空耳かと思い、窓の外の風景に目を走らせる。それにしても、車の速度がやけに遅い。それに、さっきから、数十メートルおきにブレーキを踏んでいる。前方に他の車がつかえているのかと思っていたが、よく見れば通りはガラガラではないか。まさか、と思った瞬間、今度ははっきりと聞こえた。「グゴゴゴゴーー」 いびきをかいていたのは、他ならぬ、ドライバーだった。こっくりこっくりとするたびに、ブレーキを踏んでいたのである。 "Excuse me !!! Are you sleeping ?!!!" わたしの叫び声にびくっとした彼は即座に目を覚まし、「まさか、起きてるよ」と、大嘘をつくが、寝ていたのはバレバレである。「ちょっとどういうつもり! 眠りながら運転するなんて、わたしたちを殺す気?」 大声で怒鳴られておきながら、わずか数秒後には、再びいびきをかき始めた掟破りのドライバー。ここまでくると、怒りを通り越して呆れてしまう。あと数ブロックで家なので、車を停まらせ、降りた。ボーイフレンドが律儀に料金を払っている。もう! 払わなくてもいいのに!! 「眠いんなら、どこかで車を停めて仮眠したら。さもないと、あなた、事故って死ぬわよ」 親切な捨てぜりふを残し、わたしたちは家路を急いだ。 |
イエローキャブにまつわる話は尽きない。もちろん親切なドライバーもたくさんいるが、とんでもないドライバーもごまんといる。知人からもさまざまなエピソードを聞かされる。いいものも悪いものも含め、これからも少しずつ紹介していこうと思う。(M) |
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