ニューヨークが安全になったと言われて久しい。街の随所でNew
York Police Department
(NYPD)の警官たちの姿を見かける。セントラルパークでは、ゴーカートのような小さなミニパトカーで巡回している警官に出会うし、通りでは、馬に乗った婦人警官も見られる。 大統領など要人が来たときや、街でパレードが行われるときなど、警備のために大勢の警官たちが駆り出される。先日、3月17日は、アイルランドの守護聖人を祭る祝日、「セントパトリックスデー」だった。アイルランド系のアメリカ人は、セントパトリックのシンボルであるクローバーの葉や、緑色の衣服を身につけ、アイリッシュバーでギネスビールを飲み、騒ぐ。五番街ではバグパイプの演奏やダンスなど、パレードが延々と繰り広げられ……、と大騒ぎの一日である。警官たちも、もちろん、あちこちに待機している。 この日、街を歩いていた時のこと。警官が手に持っている帽子が目に飛び込んできた。警察帽の裏側、つまり頭に直接当たる部分に、透明のシートがついていて、そこに家族の写真が入っていたのである。 アメリカ人は、とかく家族やボーイフレンド、ガールフレンドなどの写真を所持したり、飾ったりする。オフィスにも必ず写真立てを置いているし、部屋にももちろん飾っている。財布にも入っている。写真立ては常に需要のある商品として、文具店や雑貨店の目立つ場所に必ず置いてある。 警察帽の裏に写真を見つけた瞬間、 ところが、彼だけではなかった。そのあと、何となく気になって帽子を脱いでいる警官を注意して見ていたら、皆、写真を入れているのである。はじめから、警察帽には、写真入れが付いているのだ。警官とは、人々の暮らしの安全を守り、同時に危険に立ち向かわねばならない仕事。不慮の死を遂げる可能性も高い。そんな彼らがお守りのように、常に家族の写真を身につけたい気持ちはよくわかるし、そういう帽子を支給するこの国に、人間らしい温かみを感じる。 きっと軍人たちの帽子にも、写真入れが付いているに違いない。他の国はどうなのだろう。気になってきた。
「この人、本当に家族を大切に思っているのね、わざわざ帽子の裏に張り付けて……」と思った。