9/2/2000 ……ビーチが、ない。 わたしは、ただ、波の音を聞きながら、砂浜に敷いたタオルの上で、ごろんと寝転がりたかったのだ。なのに、ここには、岩がごつごつした海辺があるばかり。やっと見つけた公共のビーチは、ほんとうにネコの額ほどの広さ。 「きれいなビーチがある街だって言ったじゃない!」徐々に不機嫌になりはじめる私。どうやらここはクルージングを楽しむ人たちのリゾート(と言えば聞こえがいいけど、正確にはカニ漁の盛んな漁村)であって、海風とピナコラーダ、みたいな場所ではないのだ。 でも、小さな漁村そのものは、なんとなくかわいらしい。ユニークな郵便受けを見つけたので、いくつかご紹介。 店の軒先に大きなオウム。民家の庭にも。この近くに鳥類のサンクチュアリがあるせいかもしれない。 結局、この小さなロック・ホールという漁村に飽きて、私たちは鳥類保護区である島へ車を走らせた。島は緑が鬱蒼とした森。あちこちから、小鳥の鳴き声が聞こえてくる。冬になると白鳥が飛来してくるらしい。アメリカのシンボルでもあるアメリカン・ボールドイーグルが旋回している。手付かずの自然がそのままに残されていて、訪れる人も少ない。私たちも、別に来たくて来たのではなく、ビーチを探しに来たのではあるが……。 結局、天気も悪いし、ビーチもないし、ぜんぜんくつろげる場所も見つからなくて、仕方がないからと近くの小さな街で、お茶をすることにした。その店にオセロゲームがあったので、カプチーノを飲みながらA男と対戦。彼は初心者なので、いちおうのルールを伝授した。 初めてだから、という理由のもと、彼はとにかく考えて考えてコマを進める。すべての可能性を検証したうえで、決断を下すといった具合。私は初心者相手なので楽勝の気分でいたのだが、中盤、かなり苦戦を強いられた。しかしながら後半で巻き返し、圧勝に終わる。それにしても、こんなに時間をかけてオセロゲームをしたことが、かつてあっただろうか、というぐらいの真剣な取り組みだった。まるで囲碁をやってる人たちくらいの真剣さでゲームしたものだから、二人ともすっかり消耗してしまった。 結局、だらだらとドライブしているうちに日が暮れて、シーフードレストランでカニのグラタン風とヒラメのグリルを食べて、宿の近くのアイスクリームショップでバナナサンデーを食べた。私たちは太りやすいので、普段は甘いものを控えているのだが、今日はなんだか食べずにはいられなかった。 おまけ:カニの街のお菓子(もう、カニはいいよ。カニは) それにしても、私たち、いったい何をしに漁村に来たの? そんなむなしい問いかけをしてしまう、この夏最後の休暇です……。 (物事は前向きに考えなければというのが信条ですが、この週末旅行はもう、ぜーんぜん面白くなかったです。そもそも漁村とビーチリゾートをいっしょにしちゃいけない。だいたい、街そのものの広報に問題がある。いかにも観光地っぽいパンフレットを作って、いかにも観光客受けするようなトロリーバスを巡回させたりしているけれど、いったい何を楽しめばいいのやら。宿のカップルも、ここはいいところだっていうけれど、やっぱり、ビーチリゾートと言っちゃいけないよ。まあ、クルージングにはいいんだろうけど。それ以外は、私が大学時代を過ごした山口県下関市の安岡漁港と福江の海岸を混ぜ合わせたようなものじゃないのよ。福江の海岸はウインドサーフィンもできるし、砂浜もきれいだし、日本海に沈む夕日もきれいだし、眺めはここより数倍いい。それに、下関は名産のフグを自慢してるけど、自分たちのことをビーチリゾートなんて呼ばない。長い海岸線を擁しているにもかかわらず。それだけ誠意があるというものだ。ああ。だんだん話が支離滅裂になってきた。ちょっと足をのばして、ケープメイに行けばよかった。あーあ……)